066_災害対策本部を畳む週に、巡視項目は増えている — 秋の職場巡視と衛生委員会に被災の論点を載せ替える

多くの事業場で、7月28日以降に臨時で立ち上げた災害対策本部や対策チームが、9月に向けて解散へ動き出している。復旧・生活再建期に入れば、臨時体制を畳む判断そのものは妥当である。一方で、職場に残っている危険源は発災前より増えている。断水は国土交通省第47報(8月21日10時現在)で県内3市町の約4,300戸が続き、復旧作業に伴う労働災害は厚生労働省第55報で死亡17人・休業4日以上81人(8月19日19時時点)まで積み上がっている。この記事は、臨時体制を畳むにあたって残る論点を、産業医の職場巡視と衛生委員会という毎月動く仕組みへ載せ替える手順に絞って扱う。

目次

体制を畳むことは正しい。危ないのは論点まで一緒に畳むこと

臨時の災害対策本部は、通常のライン管理を飛び越えて判断するための仕組みである。発災直後には必要だが、復旧・生活再建期に移れば、維持するほうが不健全になる。会議は形骸化し、通常業務の意思決定が本部待ちで止まる。畳む判断そのものは正しい。

問題は畳み方である。本部を解散した瞬間に、本部で扱っていた論点――誰が出勤できていないか、どの区画が使えないか、どの作業を止めているか――の受け皿が消える。担当者の善意で続く間はよいが、異動や繁忙で途切れる。

受け皿として使えるのは、すでに法令で回すことが決まっている二つの仕組みしかない。産業医(または産業保健職)の職場巡視と、衛生委員会である。この二つは毎月動く。臨時体制の論点をここへ移せば、担当者が代わっても議題として残る。1か月の節目に何を数字で残すかは記事061で扱った。この記事は、その記録を毎月回る仕組みに接続する側を書く。

なお、被災直後に健診・ストレスチェック・衛生委員会を止めてよいかという論点は記事014、9月の健診とストレスチェックの実務設計は記事058で扱っている。ここでは巡視と委員会の中身に絞る。

職場巡視で見るものが、被災前より増えている

巡視のチェックリストが発災前のままなら、いま現場にある危険源のほとんどは項目に載っていない。秋の巡視までに、少なくとも次の8点を追加しておきたい。

第一に、損壊したまま使用を継続している建物・区画。応急危険度判定は熊本県内9,553件が実施され8月13日に完了している(国土交通省第47報)が、この判定は余震による二次災害を防ぐための応急的な危険度の判断であって、その建物が恒久的に安全であることの保証ではない。「緑(調査済)だから大丈夫」で止めず、被災後に生じたひび割れの進行、扉の建て付け、天井材・照明・空調機の吊り具、書架やロッカーの転倒防止を見る。判定結果と事業場再開の意思決定は記事013で扱った。

第二に、通水後の給水系統と貯水槽。断水が解消した区域でも、受水槽・高置水槽・給湯設備・冷却塔の再稼働手順を踏まないまま使い始めている例がある(記事027記事049)。清掃・消毒・水質確認の記録が残っているかを巡視で現物確認する。

第三に、仮復旧のままの設備と仮設の動線。仮配線、仮設の手すり、養生テープで塞いだ開口部、段差の応急処理。第四に、増設した仮設トイレと手洗い設備の数・清掃頻度・夜間照明。第五に、空調が効かない区画と、その区画での作業時間。第六に、屋外作業場所の暑熱環境。8月22日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む18県に発表され4日連続で、報道によれば熊本市の予想最高気温は37度とされる。第七に、災害廃棄物の一時集積場所。リチウムイオン電池の混入について環境省が8月17日に発火のおそれを示して分別ルールの遵守を要請しており、事業場の敷地内に置いた廃棄物にも同じ管理が要る。第八に、応援要員や新規に入った作業者の作業手順の習熟状況。

衛生委員会の議題に、被災の数字をそのまま載せる

9月以降の衛生委員会は、災害対策本部の議題を引き継ぐ場になる。載せる項目を先に決めておく。

労働災害の発生状況と労働者死傷病報告の提出状況。県全体では休業4日以上が第54報の70人から第55報の81人へ1日で11人増えた局面がある(記事055)。自社が0件でも「0件だった」と記録する。熊本労働局は死傷病報告の提出について要請文書を公表している。

時間外・休日労働の実績。復旧・復興事業に従事する労働者の労働時間は記事056で扱ったとおり、応急仮設住宅276戸・15団地の着工など工事量の増加を受けて伸びやすい。月別の実績と、長時間労働者に対する面接指導の申出・実施件数を並べる。

このほか、産業医面談・保健師面談の実施状況、勤務配慮の適用実績と終了予定時期、秋の健診とストレスチェックの実施計画、そして9月以降の応急仮設住宅・賃貸型応急住宅への入居に伴う通勤経路の変化を議題に置く。在宅避難のまま出勤している従業員の把握(記事059)も、委員会の場で人数として確認したい。

議事録の残し方には意味がある。暫定の判断を「いつ・誰が・何を根拠に決めたか」の形で残せば、次の局面で見直せる。「暑いので屋外作業を午前に寄せた」ではなく「(例)8月26日、衛生委員会で、熱中症警戒アラート発表日は屋外作業を14時以降に行わないと決定。9月30日に見直す」と書く。見直し期日のない決定を議事録に残さないことを、この秋の運用ルールにしたい。

リスクアセスメントに、被災で生じた危険源を追加する

巡視と委員会が拾った危険源は、既存のリスクアセスメントに追記して初めて管理対象になる。追加すべき典型は、仮復旧設備(本設と異なる操作手順、保護の欠落)、動線の変更(避難経路、フォークリフトと歩行者の交錯)、応援要員の不慣れ、暑熱、そして解体・廃棄物取扱い作業である。

新規の作業を洗い出すより、既存の作業のうち条件が変わったものを拾うほうが早い。「同じ作業を、違う場所・違う設備・違う人でやっていないか」を部署ごとに一問聞けばよい。

産業医が月1回しか来ない事業場、50人未満の事業場はどうするか

嘱託産業医が月1回の訪問である事業場では、9月と10月の訪問日に何を見てもらうかを事前に決めて渡す。訪問当日に現場を歩きながら論点を探す時間はない。上の8点のうち、その事業場で該当するものだけを絞ってA4一枚にし、前月の労働災害と時間外労働の数字を添える。

産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、地域産業保健センターの利用を検討する。長時間労働者や高ストレス者への医師による面接指導、産業保健指導、事業場訪問による作業環境の助言を受けられる仕組みで、利用の可否・費用・手続は所在地を管轄するセンターに確認する。衛生委員会の設置義務がなくても、関係者数名で月1回30分の打ち合わせを開き、同じ議題を回して記録を残せば機能は代替できる。

9月からの年間審議計画を、被災を織り込んで組み直す

多くの事業場は年度当初に衛生委員会の年間審議計画を立てている。7月28日以降、その前提は変わった。年度末までの計画を一度開き、9月と10月に被災後の設備・建物の点検状況を、11月に暫定の勤務配慮を通常に戻すか恒久化するかの判断を差し込みたい。気象庁は8月18日発表の第9報時点で、強い揺れを観測した地域では今後1〜2か月程度、最大震度5弱程度以上の地震に注意が必要としている。9月中の余震を計画の前提から外さない。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#確認すること・決めること誰が期限の目安
1災害対策本部で扱っていた論点を書き出し、巡視・衛生委員会・人事のどこへ移すかを割り当てる総務・本部事務局本部解散の前
2職場巡視チェックリストに被災後の8項目を追加する産業保健職・衛生管理者8月末
3損壊したまま使用継続中の建物・区画を一覧化し、応急危険度判定の結果と現状を突き合わせる施設管理9月上旬
4通水後の受水槽・高置水槽・給湯設備の清掃消毒記録を現物確認する衛生管理者9月の巡視時
59月の衛生委員会の議題案を作る(労働災害・死傷病報告・時間外労働・面談・勤務配慮・健診)衛生委員会事務局8月末
6議事録の書式に「見直し期日」欄を追加し、期日のない決定を残さない運用にする衛生委員会事務局9月の委員会から
7仮復旧設備・動線変更・応援要員・暑熱をリスクアセスメントに追記する各部署長9月中
8嘱託産業医に9月・10月の訪問時に見てほしい項目をA4一枚で事前送付する人事・衛生管理者訪問の1週間前
950人未満の事業場は地域産業保健センターの利用手続を確認する事業主・人事9月上旬
10年間審議計画を9月から年度末まで組み直し、余震・暑熱・住まいの移動を織り込む衛生委員会9月の委員会

参考

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