027_水が出た日から始まるリスク — 断水解消後の貯水槽・給湯設備・冷却塔をどう再稼働させるか

断水がようやく解消した、あるいは数日以内に解消しそうな事業場の産業保健職・人事総務・設備担当に向けた記事である。8月3日14時時点で熊本県内の断水は約45,280戸まで減り、熊本市は約900戸まで縮小した。八代市・宇城市・氷川町にはまだ大きな残があるが、順に「水が出る日」が来る。その日は復旧の終わりではなく、水を扱う設備のリスクが立ち上がる日でもある。何日も水が動かなかった配管・貯水槽・給湯設備・冷却塔をそのまま通水して使い始めると、水質の悪化と水系感染症、そして設備の破損という別の問題が起きる。記事023が断水の長期化に備える話だとすれば、本記事はその出口の話である。

目次

なぜ「通水した日」が危ないのか

断水期間中、建物内の配管と受水槽・高置水槽には水が滞留したまま残る。今回は連日35度を超え、8月3日には熊本市で40.3度を記録した。屋上や機械室の水温は上がり、残留塩素は消費されて消える。塩素が切れた微温の水は、レジオネラ属菌をはじめとする細菌が増えやすい環境になる。

さらに、地震で配管に亀裂やずれが生じている場合、断水中は水が来ないので気づかない。通水した瞬間に漏水し、天井裏や壁内で気づかれないまま続くこともある。急に高い圧力がかかることでウォーターハンマーが起き、継手や機器が壊れることもある。

そして、通水直後の水には配管内の錆や濁りが出る。これを飲用や食品調理にそのまま使うと、事業場の食堂で健康被害につながりうる。「市が復旧を発表した」ことと「この蛇口の水を飲んでよい」ことは別である。この切り分けを、判断する人を決めたうえで文書にしておきたい。

特に注意すべき3つの設備

受水槽・高置水槽。断水中に空になった、あるいは水位が下がったまま高温にさらされた槽は、内部に汚れが残っている可能性がある。通水前に点検口を開けて内部を確認し、必要なら清掃・消毒を行ってから受け入れる。地震で槽本体にひび割れや接続部のずれがないかも同時に見る。簡易専用水道に該当する規模であれば、定期の水質検査・清掃の枠組みが既にあるはずなので、その委託先に前倒しの点検を相談するのが早い。

給湯設備・シャワー・給湯配管。使われずに滞留した温水配管は、レジオネラ属菌の増殖環境として最も注意が要る。温度が中途半端に高い(おおむね20〜50度程度)状態が続いた配管は要注意である。再開時は、貯湯槽の設定温度を確認し、末端の蛇口・シャワーヘッドまで十分に高温の湯を流して置換する。この作業ではエアロゾルが立つので、作業者はマスクを着用し、換気した状態で行う。シャワーヘッドは分解して洗浄するのが望ましい。事業場のシャワー室、仮眠室、更衣室の手洗いなど、平時に使用頻度の低い系統ほど滞留が長い。

冷却塔(クーリングタワー)。空調用の冷却塔は、断水と停電で運転が止まっていた期間に水が滞留していることが多い。今回のように猛暑が続く局面では、事業再開と同時に空調をフル稼働させたくなるが、冷却塔は再稼働前に清掃と水質確認を行う。冷却塔からのエアロゾルは周囲に飛散するため、事業場の外にも影響しうる。再稼働の日程は、清掃の手配とセットで決める。

通水前後にやることの順番

順番を誤ると手戻りが出る。おおむね次の流れになる。

まず、通水の見込み時期を自治体の水道部局の発信で確認し、設備担当と衛生管理者に共有する。次に、通水前に点検と清掃の手配を済ませる。清掃業者は今回の被災地全域で需要が集中するため、水が出てから連絡するのでは間に合わない。通水後は、飲用・調理用の使用開始を保留したまま、濁りが取れるまで捨て水を行う。並行して漏水の有無を建物全体で確認する。給湯・シャワー・冷却塔はここまで止めておき、点検・洗浄が済んだ系統から順に開ける。最後に、飲用可・調理可の判断を責任者が明示し、掲示で全員に伝える。

この間、従業員には「まだ飲めない」ことがはっきり伝わっている必要がある。断水中は誰もが給水袋の水を使うので迷いようがないが、蛇口から水が出るようになった途端、掲示がなければ人は飲む。飲用可の判断が出るまでは、給水拠点や備蓄水の運用を続け、その旨を各階の給湯室と手洗い場に貼る。食堂の再開判断は記事010で扱った枠組みに沿って、飲用可の判断が出た後に別途行う。手洗いについては、濁りが取れた段階で通常の手洗いに戻してよいことが多いが、これも一律ではなく判断者を決めて示す。

産業保健職として見ておきたい健康影響

再開後1〜2週間は、レジオネラ症を念頭に置いた症状の把握をしておきたい。発熱、咳、息切れ、倦怠感などで肺炎様の経過をとる従業員が出た場合、シャワーや冷却塔への曝露の有無を問診で確認し、医療機関受診の際にその情報を伝えるよう案内する。潜伏期間は数日から10日程度あるため、通水直後ではなく少し遅れて出てくることに注意する。

濁り水を口にしたことによる消化器症状も想定される。避難生活と重なり、記事011で扱った避難所由来の感染症と区別がつきにくい場面が出るため、発症日と曝露源をあわせて記録しておくと後の判断がしやすい。

また、清掃・点検作業そのものが猛暑下の作業になる。8月7日までは猛暑日が続く見込みで、屋上の水槽や冷却塔の点検は輻射熱が加わる高リスク作業である。記事025で示した作業中止基準の考え方を、この作業にも当てはめる。

実務でそのまま使えるチェックリスト

時期確認事項担当の目安
通水前自治体の通水見込み時期を確認し、社内に共有した総務/設備
通水前受水槽・高置水槽の点検・清掃を業者に手配した設備
通水前冷却塔の清掃・水質確認の日程を確保した設備
通水前「飲用可」を誰が判断するかを決め、周知した衛生管理者
通水直後濁りが取れるまで各系統で捨て水を実施した設備
通水直後建物全体で漏水の有無を目視確認した設備
通水直後飲用・調理用の使用開始を保留する掲示を出した総務
給湯再開時貯湯槽の設定温度を確認し、末端まで高温湯で置換した設備
給湯再開時シャワーヘッドを分解洗浄し、作業者はマスクを着用した設備
冷却塔再開時清掃・水質確認の完了を確認してから運転を開始した設備
再開後2週間肺炎様症状・消化器症状の申告経路を明示した産業保健職
再開後2週間点検作業を暑熱リスク作業として時間帯管理した産業保健職
全期間実施内容と判断日時を記録に残した衛生管理者

小規模事業場で自前の設備担当がいない場合は、ビル管理会社・貸主・水道工事店のいずれかに、この表のうち設備欄をそのまま渡して相談するのが早い。判断を自社で抱え込まないことが、結果的に再開を早める。

参考

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