この記事は、秋に定期健康診断とストレスチェックを予定している事業場の産業保健職と人事総務に向けたものである。発災25日目、断水は5,000戸を割り、避難者は2,925人まで減り、医療機関の断水も17施設まで縮んだ。多くの事業場が「通常業務に戻す」判断を始める局面にあたる。7月28日の直後に扱った「健診やストレスチェックを止めてよいのか」という問い(記事014)は、いま「どう再開するか」に変わっている。9月から11月は健診機関の予約が最も混む時期であり、枠を押さえる判断は今週中に必要になる。
なぜ今週決めるのか
定期健康診断は労働安全衛生法に基づき1年以内ごとに1回、ストレスチェックも常時50人以上の労働者を使用する事業場では1年以内ごとに1回の実施が求められる。多くの事業場は前年度と同じ時期に実施しており、その時期が秋にあたる場合、7月末の被災でスケジュールが宙に浮いたままになっている。
健診機関の側も被災している。巡回健診車が復旧支援に回っていたり、断水が続いた地域では会場の確保に制約が残っていたりする。予約は例年より読みにくく、9月分の枠は8月中に埋まる。「落ち着いてから考える」と先送りすると、年度内に実施できない事業場が出る。逆に、いま押さえておけば、後から時期をずらす交渉のほうがしやすい。
対象者名簿が、この1か月で壊れている
再開設計で最初に手を付けるべきは、日程ではなく名簿である。この1か月で、従業員の居場所と就業状態は大きく動いた。避難所から親族宅へ、2次避難先から応急仮設住宅へと移った人がいる。応急仮設住宅は276戸・15団地で全戸が着工済みとなり、入居は9月上旬から10月中旬に始まる見込みで、健診の実施時期と正面から重なる。
確認しておきたいのは次の四つである。第一に、住所・連絡先が変わった従業員。健診の案内が届かない事故は、この時期に最も起きやすい(記事041、記事054)。第二に、休業している従業員。休業中でも在籍していれば対象であり、実施日をどう設定するかを決めておく必要がある。第三に、被災地外から入っている応援要員。所属先がどこかによって実施責任者が変わる。第四に、期間中に採用・異動があった人。復旧要員として新たに雇い入れた人には雇入時健診の論点もある。
健診の実施設計で、今回だけ変わること
会場と時間帯の設計は、平年と同じにはできない。鹿児島本線 宇土〜八代は運転見合わせが続き、代行バスは8月19日に宇土〜小川で始まったばかりで、宇土〜八代への拡大は8月26日の予定である。健診会場までの移動時間が例年より長くなる従業員がいることを前提に、集合時刻を遅らせるか、会場を分けるかを決めたい(記事053、記事024)。
暑さも設計要素になる。8月21日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む13県に3日連続で発表され、熊本市の予想最高気温は37度である。9月に入っても残暑は続く見込みで、空調のない場所での待機を伴う巡回健診は、それ自体が健康リスクになる。待機列を屋内に収められるか、飲料水を確保できるかを会場ごとに確認しておきたい。
結果の扱いも変わる。この夏、復旧作業に従事した従業員では、脱水や睡眠不足を背景に、血圧・腎機能・肝機能の数値が例年と違う出方をすることがある。有所見率が上がったときに、それを「今年だけの被災の影響」と片付けるのか、個別に追いかけるのかを、事後措置の方針としてあらかじめ決めておく。医療機関の断水は17施設まで減ったものの、薬局の断水は59施設で動いておらず、精密検査や治療の受け皿は地域によって差がある(記事033)。
ストレスチェックの実施時期を、どう選ぶか
判断が分かれるのはストレスチェックである。発災から1〜2か月の時期は、急性期の反応が調査票の回答に色濃く出る。9月に実施すれば、被災の影響を強く受けた分布が得られる。11月以降にずらせば、より平常に近い分布が得られるが、その間に不調が拾われないまま進む。
どちらが正しいということはない。決めておくべきは、いつ実施するかではなく、「その結果をどう読むか」を先に合意しておくことである。9月に実施するなら、集団分析の結果を前年と単純比較せず、被災の影響を織り込んで読む前提を衛生委員会で確認しておく。11月にずらすなら、それまでの間を面談や勤怠の設計で埋める必要がある。発災2週間目以降、不調が申告されにくくなる傾向については記事036と記事009に整理した。
もう一つ、高ストレス者の面接指導の受け皿を確認しておきたい。DMATの現場活動は25隊から14隊へ縮小し、支援チームは撤収の方向にある(記事047)。外部の精神科医療につなぐ想定でいた事業場は、9月時点で地域の受診枠がどうなっているかを、実施前に確かめておく必要がある。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認事項 | 期限の目安 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1 | 健診機関に9〜11月の枠が残っているかを問い合わせたか | 今週中 | 人事総務 |
| 2 | 対象者名簿を最新の住所・連絡先で更新したか | 8月末 | 人事総務 |
| 3 | 休業中・応援派遣中・新規採用の従業員の扱いを決めたか | 8月末 | 人事総務 |
| 4 | 応急仮設住宅への入居予定者を把握し、案内の届け先を確認したか | 9月上旬 | 人事総務 |
| 5 | 会場までの移動時間と集合時刻を、代行バスの時刻に合わせて見直したか | 9月上旬 | 人事総務 |
| 6 | 待機場所の暑さ対策(屋内待機・飲料水)を会場ごとに確認したか | 実施2週間前 | 産業保健職 |
| 7 | 被災による延期がある場合、その理由と再実施予定を記録に残したか | 決定と同時 | 産業保健職 |
| 8 | 有所見者が例年より増えた場合の事後措置の方針を決めたか | 実施前 | 産業医・産業保健職 |
| 9 | ストレスチェックの実施時期と、集団分析の読み方を衛生委員会で確認したか | 8月中の委員会 | 衛生委員会 |
| 10 | 高ストレス者の面接指導と、外部医療機関の受診枠を確認したか | 実施1か月前 | 産業医 |
| 11 | 協力会社・派遣元の実施状況を確認し、必要な情報連携を決めたか | 9月上旬 | 人事総務 |