061_発災1か月を感想で終わらせない — 8月28日を前に、この1か月を数字で残し、暫定の判断を9月に決め直す

本日8月22日は発災26日目で、8月28日に発災1か月を迎える。8月21日に宇城市と美里町の避難指示が解除され、県内17市町村に出ていた緊急安全確保・避難指示はすべて解除された(NHK報道)。断水は国土交通省第47報(8月21日10時現在)で県内3市町の約4,300戸まで減り、DMATは厚生労働省第55報で現場活動14隊(8月19日15時時点)と、第54報の25隊から縮小した。一方で復旧作業に伴う労働災害は死亡17人・休業4日以上81人(厚生労働省第55報、8月19日19時時点)まで積み上がっている。局面は急性期から復旧・生活再建期へ移りつつある。この記事は、事業場の産業保健職と人事総務が1か月の節目に何を記録として残し、何を9月以降の中期計画へ渡すかを整理するものである。

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1か月の節目に振り返るべきものは「感想」ではない

1か月が経つと、社内でも「大変だったが乗り切った」という総括が語られ始める。しかしその語りは3か月後には残らない。残るのは数字と日付だけである。

誰がどの日に出勤できなかったのか、その理由は交通か水か家屋か家族の事情か。どの週に面談が集中したのか。作業をどの基準で止めたのか。これらは担当者の手元のメモやチャットに散在しており、異動すれば消える。1か月の振り返りとは、この散在した情報を集計可能な形にする作業である。

集計しておきたいのは、少なくとも次の5つである。第一に、欠勤・遅刻・早退の件数を理由別に集計したもの。理由の区分は「通勤(鉄道・道路)」「断水」「住家被害・罹災証明等の手続」「家族の事情(保育・介護・学校)」「体調」「その他」程度でよい。区分が粗くても、日別に並べれば波が見える。第二に、産業医面談・保健師面談・人事面談の実施数と、そのうち事後措置に至った件数。第三に、労働災害の発生件数と、労働者死傷病報告の提出状況(提出済・未提出・提出予定日)。第四に、被災地の事業場や取引先へ応援に出した人員の延べ日数と、そのうち熱中症症状が出た人数。第五に、水と暑さのための勤務配慮の実績、すなわち給水のための時間確保、時差出勤、屋外作業の時間帯変更、作業中止をそれぞれ何日・何人に適用したか。

この5つは、9月以降に「なぜそう決めたのか」を説明するときの根拠になる。特に労働災害と死傷病報告は、県内全体で休業4日以上が5日間で41人増えた局面があった(記事055)ことを踏まえ、自社の件数がゼロであっても「ゼロだった」と記録する。

「暫定」で決めたものが、そのまま既成事実になりつつある

この1か月に事業場が下した判断の多くは暫定だった。暫定の勤務配慮、暫定の作業中止基準、暫定の在宅勤務、暫定の時差出勤。急性期にはそれでよかった。問題は、暫定のまま2か月目に入ると、誰も決め直さないまま既成事実になることである。

棚卸しの手順は単純で、この1か月に発した通知・メール・掲示を時系列に並べ、それぞれに「いつまで有効か」が書かれているかを見る。書かれていないものが、決め直しの対象である。

決め直しには三つの選択肢しかない。通常に戻す、恒久化する、期限を切って延長する。どれを選ぶにしても、9月の早い時期に文書で示したい。特に注意したいのが作業中止基準である。熱中症警戒アラートが8月22日を対象に熊本県を含む18県へ発表され4日連続となっている状況では、暫定基準を9月に緩めるという判断は気温の推移と切り離せない。40度の日に作業を止められるかという線引きは記事025で扱った。ここで決めるのは、その暫定運用を9月末まで続けるのか、恒久の内規に格上げするのかである。

在宅勤務と時差出勤も同じである。鉄道は九州新幹線の熊本〜新水俣など3区間が運転見合わせのままで、九州新幹線は構造物変状600箇所以上・軌道変状約300箇所が確認され運転再開の見通しは示されていない。通勤の前提は9月中に元へ戻らない。にもかかわらず在宅勤務を一律に打ち切れば、通勤できない従業員だけが不利益を負う。

9月以降に持ち越す論点を、いま一覧にする

持ち越す論点は、担当者の頭の中ではなく紙に出す。本日時点で見えているものを挙げる。

応急仮設住宅は建設型276戸・15団地が全戸着工済み、公営住宅は空室382戸を確保、賃貸型応急住宅は21市町村で受付中である。9月には入居が始まり、避難所から移る人と移れない人が分かれる(記事054)。転居に伴う通勤経路の変更届と、引越しのための休暇の扱いを9月の議題に入れる。

2学期の始業日は地域で2週間ずれる(記事052)。育児を抱える従業員の勤務は、9月上旬に地域差のまま推移する。

秋の健診とストレスチェックは、実施時期と対象者の把握をすでに設計し直す段階にある(記事058)。1か月の振り返りで得た欠勤理由別の集計は、この設計の入力データになる。

雇用調整助成金の特例は8月20日に公表され、休業等の初日が令和8年7月28日から令和9年1月27日までのものが対象とされている(記事057)。計画届の事後提出が認められる点を含め、適用の可否は所轄の労働局・ハローワークに確認したい。9月は支給決定を待つ期間に入る。

断水は3市町とも8月末の解消に向けて応急復旧中である(国土交通省第47報)。解消宣言のあとに給水車や応急給水が細くなる過程を、9月の勤務配慮の見直しに織り込む。

労働者死傷病報告の未提出案件は、9月に持ち越さないことを原則としたい。熊本労働局は提出についての要請文書を公表している。

1か月時点で「測る」もの — メンタルヘルスは時間軸で見る

発災1か月・3か月・1年という時間軸でのメンタルヘルスの経過は記事015にまとめた。ここで扱うのは、その時間軸のうち1か月時点で何を測るかに限る。

2週間目には不調が申告されなくなる(記事036)。1か月時点はさらに申告が減る時期であり、待っていても情報は上がってこない。したがって測るのは自己申告ではなく、行動の指標である。具体的には、連続する遅刻・早退の有無、時間外労働時間の分布(特に上位10%)、有給休暇の取得ができていない人、応援に長期間出ている人の連続従事日数、面談を打診して断られた人の数。これらは既存の勤怠データから取れる。

そのうえで、1か月時点の全員対象の簡易な確認を行うかどうかを決める。行うのであれば、秋のストレスチェックとの重複を避けるよう時期を調整する。

中期計画へ渡す引き継ぎメモに何を書くか

集計した数字をどの会議体に載せ、毎月どう回すかは記事066で扱う。ここでは残す文書の中身に絞る。

中期計画へ渡す引き継ぎメモは、A4で2枚に収める。書く項目は、(1)この1か月の経過を日付と数字で並べた年表、(2)暫定措置の一覧と各々の決着状況、(3)9月以降の未決事項と担当者、(4)判断の根拠にした通知・事務連絡の一覧とその発出日、(5)当時の判断で迷った点とその理由。(5)は次の担当者にとって最も価値がある。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#確認すること・決めること誰が期限の目安
17月28日以降の欠勤・遅刻・早退を理由別・日別に集計する人事総務8月28日まで
2産業医面談・保健師面談・人事面談の実施数と事後措置件数を集計する産業保健職8月28日まで
3労働災害の件数と労働者死傷病報告の提出状況を一覧化し、未提出をゼロにする安全担当8月末まで
4応援に出した人員の延べ日数と熱中症症状の有無を記録する人事総務8月28日まで
5水・暑さのための勤務配慮の適用実績を人数と日数で集計する衛生管理者8月28日まで
6この1か月に出した通知・掲示を時系列に並べ、有効期限の記載がないものを抽出する人事総務8月中
7抽出した暫定措置の一覧を作り、決定は9月の衛生委員会に付議する人事総務9月の委員会前
8勤怠データから行動の指標(連続遅刻、時間外上位10%、連続従事日数)を抽出する産業保健職9月上旬
99月以降の未決事項(応急住宅入居、2学期、健診、助成金、断水解消後の水)を担当者付きで一覧にする人事総務8月末まで
10引き継ぎメモ(A4で2枚)を作成し、衛生委員会の議事録に添付する産業保健職/人事総務9月の定例まで

参考

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