069_避難所が69か所・2,925人まで減った — 最後まで残る人の健康を、支援が縮小した後に誰が見続けるか

避難所は熊本県第36報(8月20日14時現在)で69か所・2,925人となった。最大は506か所・9,931人(内閣府第20報)だったので、避難所の数で約7分の1、避難者数で約3割まで減った。ただし69か所・2,925人は熊本県、最大値は内閣府の発表であり、主体の異なる数字の単純比較である。8月21日には宇城市と美里町の避難指示が解除され、県内17市町村の緊急安全確保・避難指示がすべて解除されたと報じられた。避難所は9月にかけて統合・閉鎖へ向かう。だがこの局面で残るのは行き先が決まっていない人であり、支援の必要度はむしろ上がっている。一方で支援チームは縮んでいる。この記事は、避難所にいる従業員とその家族について、産業保健職と人事総務が毎日の健康監視をどこまで担い、どこから先を公的支援に渡すかを整理する。

目次

避難所が減るとき、残った避難所の中身が変わる

避難者数の減少は、閉鎖と統合の両方で起きる。統合が起きれば同じ市町の中でも避難先が数キロ動き、通勤経路と所要時間、朝の出発時刻、送迎の待ち合わせ場所が変わる。避難者が1日で大きく減った局面の名簿更新は記事041で扱ったが、あの主題は移動の把握そのものだった。ここでの主題は、移動したあとに誰がその人の体調を毎日見るかである。

もう一つ変わるのが、顔なじみの支援者である。統合前に毎日声をかけていた保健師や看護師が、統合後は別の担当に替わる。厚生労働省第55報(8月20日10時現在)によれば、DMATは現場活動14隊・コーディネーション33隊(8月19日15時)で、第54報の25隊・42隊から縮小した。DPATは10隊(8月20日9時時点)、保健師等チームは35チームである。災害支援ナースは延べ308名の派遣(8月19日12時)と報告されているが、これは累計の表記で、いま何名が現地にいるかを示す数字ではない。支援が薄くなった後に職域がどこまで引き受けるかの線引きは記事047で扱った。ここではその先、薄くなった避難所に人が残り続ける段階を扱う。

三つ目が、閉鎖の期日が示されること自体の影響である。期日は行き先の決まった人には目安になるが、決まっていない人には期限として働く。窓口へ行く回数が増え、睡眠が削れ、職場では有給の残が急に減る。

最後まで残るのは、行き先が決まっていない人である

避難所に残っている人の内訳は公表されていないが、住まいの供給側の数字から輪郭は見える。応急仮設住宅(建設型)は276戸・15団地が全戸着工済みだが、入居は9月以降である。公営住宅は空室382戸を確保しているが、入居決定は9戸にとどまる。そこで実質的な受け皿になるのが賃貸型応急住宅で、21市町村で受付中、入居期間は2年以内、月額の上限は単身5.5万円から5人以上13万円とされている。ただしこれは、物件そのものを本人が探す仕組みである。家賃上限の内側に収まり、かつ通勤圏にあるという二つの条件を同時に満たす部屋が、地域によっては出てこない。上限を超える物件しかなければ制度に乗らず、通勤圏の外に借りれば通勤時間と交通費が跳ね上がる。判定の確定から申請が重なっていく過程は記事063で扱った。

つまり最後まで残るのは、住家被害が大きく、判定や入居の待ち時間を自宅以外で過ごすほかない人である。単身で高齢の場合、賃貸型の物件探しを一人で行うこと自体が壁になる。実務で重要なのは、この層が従業員本人より、その親や家族に多い点である。本人は自宅や親族宅に戻って出勤しているが、親は八代市や宇城市の避難所に残っている、という形が典型になる。従業員の健康影響は、その家族の状況から遅れて出てくる。9月に住まいが決まる人と決まらない人の分岐は記事054にまとめている。

暑さを毎日見る人が、いま避難所にいない

報道によれば、8月19日時点で避難所の7割にエアコンがなく、専門家は真夏は生死に関わる問題だと指摘したとされる。8月22日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む18県に発表され、4日連続である。熊本市の8月22日の予想最高気温は報道で37度とされる。

避難所の暑さそのものは記事035で扱った。ここで立てたいのは、支援チームが縮小したあと、その暑さを毎日測って記録する人は誰かという問題である。巡回の頻度が下がれば、室温も、水分摂取も、睡眠時間も、記録が残らない日が出る。夜間に体温が下がらない環境で寝ている従業員は、翌朝すでに脱水と睡眠不足を抱えて出勤してくる。屋外・高所作業に配置する前に、当日の朝、本人の状態を見るしかない。

職場が使える確認は、この局面では二つでよい。「昨夜、寝ていた場所に空調はあったか」「今朝、尿の色は濃かったか」。どちらも困っていると認めなくても答えられ、暑熱の負荷が残ったまま出勤しているかどうかを、その日の配置判断に使える。

感染症は、出勤してくる従業員の症状からしか見えない

避難所の集団生活では、消化器感染症と呼吸器感染症が起きうる。断水は国土交通省第47報(8月21日10時現在)で宇城市2,579戸・八代市1,021戸・氷川町684戸の計約4,300戸が残り、いずれも試験通水中である。避難生活の感染症対策そのものは記事011で扱った。

問題は監視の担い手である。支援チームが厚かった時期は、巡回する医療チームが避難所の中で症状の集積に気づけた。チームが縮んだ後、職域から見えるのは出勤してくる従業員の症状だけであり、避難所にいる家族の症状は欠勤・早退の理由という形でしか届かない。

そこで、欠勤・早退の理由を症状の粒度で残す運用に切り替えたい。「体調不良」ではなく「嘔吐」「下痢」「発熱」「咳」と記録する。同じ避難所を生活拠点とする従業員から消化器症状が2件以上出た場合、または同居家族の消化器症状を理由とする欠勤が続いた場合は、抱え込まず所在市町の保健所へ情報として流す。職場から見れば1件か2件でも、保健所では他の情報と合わさって集積として意味を持つことがある。連絡先と、誰が電話するかを先に決めておく。

職域が担える範囲と、担えない範囲

線引きははっきりさせておきたい。避難所の運営、室温管理、巡回、衛生管理は自治体と保健師の仕事であり、事業場が代わることはできない。物資の持ち込みや独自の巡回は、統合と閉鎖の調整を進めている現地の運営を乱す可能性がある。

職場ができるのは三つに絞られる。第一に、自社の従業員とその同居家族について、いまどの避難所にいるかを把握し続けること。第二に、睡眠・空調・水分・服薬・症状という数項目を、面談や朝の声かけの中で毎日または隔日で確認し、変化に早く気づくこと。服薬と調剤の空白については記事068で扱った。第三に、変化に気づいたときに、市町の窓口・保健所・かかりつけ医という公的な受け皿へつなぐことである。つなぐ先を知らないまま気づいても実務は動かないので、担当者は市町の避難所担当窓口と保健所の番号を手元に置いておきたい。

避難所を出た人は、次に見えなくなる

避難所が閉じれば、その人はどこかへ移る。応急仮設住宅や賃貸型応急住宅へ移る場合は住所と通勤経路が変わるので、事前申告の様式で受け取れるようにしておく。損壊した自宅へ戻る場合は在宅避難となり、避難者数にも巡回の対象にも入らなくなる。ここから先は記事059の領域である。避難所にいるうちは、少なくとも所在と人数が公表される。見えているうちに経路を作っておくことが、見えなくなった後の確認可能性を決める。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#確認すること・決めること誰が期限の目安
1従業員名簿に「本人または同居家族が避難所にいるか」の欄を設け、避難所名まで記録する人事総務今週中
2該当者について、避難所の統合・閉鎖の予定を市町の担当窓口で確認する人事総務今週中
3統合で通勤経路・所要時間が変わる従業員を抽出し、始業時刻の暫定調整を決める人事総務移動の判明次第
4避難所を生活拠点とする従業員に、睡眠時間・空調の有無・水分・服薬を毎朝または隔日で確認する産業保健職明日から
5屋外・高所作業の配置前チェックに「昨夜の空調の有無」を項目として加える安全担当アラート発表日ごと
6欠勤・早退の理由を「体調不良」ではなく症状名で記録する運用に切り替える人事総務今週中
7同一避難所に関係する消化器症状が2件以上出たときの連絡先(保健所)と担当者を決める産業保健職今週中
8職場が担わないこと(避難所の運営・巡回・物資)を管理職に明示する産業保健職今週中
9親・家族が避難所に残る従業員の、窓口同行のための休暇・中抜けの扱いを決める人事総務8月末まで
10応急住宅への入居に伴う住所・通勤経路の変更を事前申告で受け取る様式を用意する人事総務8月末まで

参考

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