センターの紹介

目次

災害産業保健とは

自然災害や工場災害、パンデミックなどの災害事象は世界中で発生し続けています。

災害発生時には、復旧・復興作業に多くの労働者が従事し、長い期間にわたって労働者の健康問題(例:過重労働や熱中症、感染症、メンタルヘルス不調など)が発生します。

復旧・復興の原動力はそこで働く人であり、その基盤は働く人の健康であり復旧・復興の作業を速やかに進めるためにも、そこで働く人たちの健康を支援することは極めて重要と言えます。

災害産業保健は、災害時の産業保健活動を体制作りから実践まで、事例分析や応用を通して確立する研究分野です。

災害産業保健センターの使命

災害時の緊急対応から復旧活動に至る一連の流れにおいて、災害対応者の健康影響を最小化すべく、実務的支援および研究活動を行うことが災害産業保健センターの使命です。

災害産業保健センターの方針

大規模災害時の産業保健人材育成と、実務に資する研究を実践し、関係各所との確実な連携を継続的に行うことが災害産業保健センターの方針です。

災害産業保健センターの挑戦

災害産業保健センターは2021年12月1日に産業生態科学研究所に新設されました。産業医科大学では2011年の東日本大震災の福島第一原子力発電所支援を契機に、熊本地震・人吉球磨地区の集中豪雨の支援など、災害時の労働者の健康確保支援活動を社会貢献の一環として実施してきました。災害産業保健センターは、今後発生しうる災害時の企業等の産業保健ニーズ支援や労働者の健康確保支援を目的として設立されたものです。

災害時の産業保健ニーズは、当然のことながら通常の産業保健ニーズとは異なります。災害発生時には、急激な業務量の増加による身体的・精神的負担が多く発生します。「災害は特別なもの」なので、労働基準法上も適用除外になることもあり、多くの組織・人は無理をして(健康の問題をないがしろにして)災害の状況を乗り越えようと努力することになります。しかしながら、その無理はどこかのタイミングで健康影響が出ることになります。災害の復旧作業をおこなっているようなときには、大けが・熱中症・化学物質の大量曝露といった急性の健康障害を引き起こす可能性がありますし、ある程度落ち着いた段階になったら、過重労働の発生、うつ病やPTSDなどのメンタルヘルス不調、慢性疾患の悪化などが発生する可能性があります。このような状況にならないよう、企業や自治体に対して、専門家として適切な助言と実務でサポートすることが災害産業保健センターの役割です。

このような役割を果たすためには事前の準備が必要です。福島第一原子力発電所の支援では事前の関係性がなかったので実行的な活動ができるまでにはずいぶん時間がかかりました。顔の見える関係性であること、どのようなことで役に立つのかということを現場の指揮官に理解していただくこと、について事前の準備の重要性を痛感した次第です。そこで、すでに南海トラフ地震のリスクにさらされている高知県とは災害産業保健協定を結び、トンガ沖海底火山噴火や日向灘沖を震源とする地震について情報共有を行なっています。今後、災害が発生した時の支援マニュアルの作成など具体的な活動に落とし込むことを進めていく予定です。このような事前協定は、高知県のみならず、多くの自治体・企業などど結んでいくことを進めていきます。

災害産業保健は我が国において新しい分野ですが、国際的にはすでに災害時の対応者の健康確保を行うことは当たり前のように行われています。一方で、我が国の文化はお互いに仕事の隙間を埋めながら対応することが当たり前であることから、役割が定まっていなくても、相互の工夫で乗り切ってきた現場があります。しかしながら、メンバーシップ型からジョブ型の企業が増えてきたこと、などの事情で個人の役割範囲が明確になりつつあり、今後は人の善意に依存した危機管理の仕組みがうまく機能しない可能性があります。「想定外を想像する」ことを当たり前にし、平時から災害が起こった時の準備を進めることが必要であると思います。災害産業保健センターは、災害産業保健の体系化を図るとともに、災害時の対応者の健康確保の仕組み・危機管理の普及啓発に尽力していきたいと思います。

自らの企業・組織において、このような体制整備をしたい、または既に発生した災害に対する支援が欲しい、などの要望があるときにはぜひご連絡いただければと存じます。

災害産業保健のギャラリー

2011年 東日本大震災
福島第一原子力発電所免震重要棟において

2024年 令和6年能登半島地震

DMAT調整本部にて

2023年 令和6年能登半島地震
DMAT調整本部にて

J-SPEED班久保達彦先生とともに

2023年 令和6年能登半島地震
DMAT調整本部、執務状況

目次