8月21日、宇城市と美里町の避難指示が解除され、県内17市町村に出ていた緊急安全確保・避難指示がすべて解除されたと報じられた。避難所の避難者は熊本県第36報(8月20日14時現在)で69か所・2,925人まで減っている。数字だけを見れば局面は落ち着いているように見える。しかしこの日を境に、自宅に戻った人・そもそも避難所に行かなかった人=在宅避難者が、行政の名簿からも報道の数字からも見えにくくなる。NHKは8月21日、在宅避難者に支援が行き届きにくいことが課題であり、自治体が保健師の戸別訪問で健康状態を確認していると報じた。この記事は、産業保健職と人事総務が、その「見えにくい層」のうち自社の従業員をどう拾い、保健師の活動とどう役割を分けるかを整理する。
避難指示の解除は「安全宣言」ではない
避難指示の解除は、土砂災害や余震による倒壊のおそれといった、その地域に人がとどまること自体の危険が下がったという判断である。住まいが使えることや、水が出ることを意味しない。実際、断水は国土交通省第47報(8月21日10時現在)で宇城市2,579戸、八代市1,021戸、氷川町684戸の計約4,300戸が残り、いずれも試験通水の段階にある。住家被害は熊本県第36報で計3万5,048棟、うち全壊1,555棟・大規模半壊138棟・半壊1,627棟である。
つまり、避難指示が解除された地域には、損壊した自宅の一部で寝起きし、水は給水車から運び、日中は職場に出てくる従業員が確実にいる。産業医面談で「避難所からは出ました」という申告があったとき、それは生活が回復した合図ではなく、確認の入り口である。
在宅避難者はどの統計にも出てこない
避難者数は避難所に登録された人の数であり、在宅避難者は含まれない。応急仮設住宅(建設型)の276戸・15団地は全戸着工済みだが入居は9月以降で、公営住宅への入居決定も現時点で9戸にとどまる。罹災証明も、熊本市の第24回災害対策本部会議資料(8月21日)で申請1万1,982件に対し発行6,629件(発行率55.3%)で、判定が確定していない世帯が多い。
在宅避難者の規模を示す公表値は本日時点で見当たらない。産業保健の側から言えば、規模がわからない層をマクロの数字で管理することはできず、自社の従業員名簿の側から一人ずつ埋めるほかない。従業員の居場所を名簿でどう更新するかは記事041で扱ったが、あの時点の主題は避難所の統合と2次避難だった。今回はそれよりも捕捉が難しい。避難所を出た先が「自宅」の場合、誰にも届け出が発生しないからである。
保健師の戸別訪問と、職場が見る範囲は重ならない
自治体の保健師が回っているのは、主に高齢者や要配慮者である。就労している成人は、日中は自宅にいないため訪問の対象になりにくく、健康支援の網から最も落ちやすい層になる。ここが職場の担当範囲だと考えてよい。
一方で職場が担えないこともはっきりさせておきたい。住まいの応急修理の手配、罹災証明の判定への異議、生活再建資金の相談は、いずれも行政の窓口の仕事である。職場ができるのは、そこへ行く時間を勤務の中に確保することと、届いていない制度を知らせることまでである。公的支援の一覧は記事020、権利利益の期限延長は記事050に整理している。線引きの考え方そのものは記事047で扱った。
断水が残る3市町の在宅避難者に固有のリスク
宇城市・八代市・氷川町の在宅避難者には、避難所にいる人にはない負荷がかかる。避難所には給水と食事と、程度の差はあれ空調があるが、自宅にはない場合がある。8月22日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む18県に発表され、4日連続となった。夜間に空調が使えない自宅で睡眠が取れていない従業員は、翌日の作業でリスクが上がる。避難所の暑さについては記事035で扱ったが、在宅ではその状況を誰も見ていない点が違う。
水についても、給水所へ行く時間が勤務時間と競合する。この論点は記事030と記事051で扱った。加えて、試験通水中の区域では「水は出るが飲用には確認が要る」状態があり、記事049の論点がそのまま家庭にも当てはまる。
服薬も見落としやすい。薬局は被災142施設・営業不可5・断水59(厚生労働省第55報、8月19日14時時点)で、断水施設数は前報から動いていない。モバイルファーマシーは8月12日で運用を終えている。避難所にいれば支援チームが服薬を確認するが、在宅ではその機会がない。かかりつけが止まっている間の受診と処方は記事033、連休期の処方の穴は記事038にまとめている。
拾い方は、質問ではなく事実で組む
「困っていることはありますか」という問いは、この時期にはほとんど機能しない。周囲より自分はまだましだという判断が働き、申告が止まるからである(記事009)。発災2週間を過ぎた時期の申告の減り方は記事036で扱った。
代わりに、答えが事実で返る問いに置き換える。「今、自宅の蛇口から水は出ますか」「昨夜は何時間眠れましたか」「今の住まいにエアコンはありますか」「薬はあと何日分ありますか」。この4つは、いずれも本人が困っていると認めなくても答えられる。そして4つとも、答えが「否」であれば産業保健の介入対象になる。
勤怠側では、遅刻・中抜けの理由に給水や罹災証明の窓口が挙がっている従業員、有給の残が急に減った従業員、逆に休まずに出続けている従業員を拾う。最後の型が最も危険で、自宅が使えず職場のほうが涼しいという理由で出勤している場合がある。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認すること | 誰が | いつまで |
|---|---|---|---|
| 1 | 従業員名簿の「現在の住まい」欄を、避難所/自宅/親族宅/賃貸型応急住宅/未確認で分類し直す | 人事総務 | 今週中 |
| 2 | 宇城市・八代市・氷川町に居住する従業員を抽出し、断水の有無を個別に確認する | 人事総務 | 今週中 |
| 3 | 上記のうち自宅避難者に、水・睡眠・空調・薬の4項目を事実ベースで確認する | 産業保健職 | 今週中 |
| 4 | 薬が2週間分を切っている従業員に、受診可能な医療機関と薬局の営業状況を案内する | 産業保健職 | 判明次第 |
| 5 | 罹災証明・応急修理・支援金の申請が未了の従業員に、窓口へ行く時間を勤務の中で確保する | 人事総務 | 判定確定の集中期前 |
| 6 | 自治体の保健師訪問の対象になっているか(高齢の同居家族の有無)を確認し、重複と抜けを整理する | 産業保健職 | 今週中 |
| 7 | 屋外・高所作業の従事者のうち自宅に空調がない者を把握し、当日の配置から外す判断基準を決める | 安全担当 | アラート発表日ごと |
| 8 | 「休まずに出続けている」従業員のリストを作り、面談の優先順位に入れる | 産業保健職 | 今週中 |
| 9 | 9月以降の応急仮設住宅入居に伴う住所・通勤経路の変更を、事前申告の様式で受け取れるようにする | 人事総務 | 8月末まで |