熊本県第36報(8月20日14時現在)の死者38人の内訳には、「災害に起因する死者36人」に加えて「負傷の悪化等により死亡した可能性のある人1人」と「関連を調査中の人1人」が記載されている。県の集計そのものに「調査中」という区分が置かれていること自体が、判断がまだ途中にあることを示している。8月22日は発災26日目にあたる。この記事は、従業員本人ではなく従業員の家族が亡くなり、その従業員が遺族となった場合に職場に何が起き、どこまでを職場が担い、どこから先を地域に引き継ぐのかを整理する。
県の発表に「調査中」が載っているという意味
災害関連死にあたるかどうかは、県の被害報の集計で決まるのではなく、市町村が設置する審査会等の場で個別に判断される。医学的な資料の収集、遺族からの聴取、委員会の開催と、いくつもの段階を踏む。過去の災害では、結論が出るまで数か月から年単位を要した例が知られている。
つまり遺族となった従業員は、これから相当な期間、「認められるかどうか分からない」状態に置かれる。ここで職場が最も注意したいのは、経過を尋ねることが負担になりうる点である。「認定されましたか」「その後どうなりましたか」という問いは、善意から出るものであっても、答えを持たない本人に繰り返し確認を強いる。結果を待つ側に、進捗報告の義務は生じない。職場から尋ねるのではなく、「動きがあって勤務に影響するときだけ教えてほしい」と伝え、あとは待つ形にしておきたい。
なお、職域から災害関連死そのものを減らす取り組みは記事006で扱った。この記事はその先、判断の過程に置かれた人と職場の関係に絞る。
職場が伝えるのは、制度の存在と窓口までにする
災害弔慰金は、災害による死亡(災害関連死を含む)について、生計維持者が亡くなった場合500万円、その他の場合250万円が支給される制度である。災害障害見舞金は、重度の障害が残った場合に生計維持者250万円、その他125万円となる。いずれも窓口は市町村の災害弔慰金等の担当課であり、総務省の支援制度パンフレット(第9版・8月21日)にも掲載されている。
職場が担うのはここまでである。制度があること、窓口が市町村であることを伝える。申請が認められるかどうか、審査の見込みがどうかには踏み込まない。労災保険との関係を含む制度の切り分けは記事045で整理しているので、人事総務はそちらを手元に置いたうえで、本人には「窓口はここ」とだけ伝える運用にしたい。
見込みを口にすることの害は具体的である。職場が「たぶん認められる」と言えば期待が生まれ、認められなかったときに落胆が上乗せされる。「難しいのではないか」と言えば、申請そのものを諦めさせかねない。どちらも職場が負える責任の外にある。
忌引の規定が、いまの手続きの量を想定していない
多くの事業場の慶弔規程は、通常時の葬儀を前提に日数が組まれている。今回はその前提が崩れている。斎場や寺院の被害、遠方の家族の移動、住まいの再建との重複に加え、罹災証明の判定・公費解体・応急住宅の入居という平日日中の手続きが、喪主としての務めと同じ時期に走る(記事063)。
対応は、忌引日数を機械的に当てはめないことに尽きる。規程の日数はあくまで起点とし、実際に必要な時間を本人と個別に組み直す。年次有給休暇の時間単位取得、時差出勤、当面の間の在宅勤務など、使える手段を人事総務が先に列挙して示したい。
悲嘆反応と抑うつを、職場が診断しない
近親者を亡くした人に、睡眠の乱れ、食欲の低下、集中困難、涙が止まらないといった反応が現れることは珍しくない。それが自然な悲嘆の経過なのか、治療を要する状態なのかを見分けるのは医療の仕事であって、上司や人事総務の仕事ではない。
職場にできるのは、経路を用意しておくことである。産業医面談につながる導線を明示し、本人が希望したときに数日以内で面談できる枠を確保しておく。産業医が必要と判断すれば医療につなぐ。この順序を、上司が判断を挟まずに通せる形にしておく。中長期のメンタルヘルスの見取り図は記事015、職場で同僚が亡くなった場合の対応は記事019にあり、この記事は遺族となった従業員個人の就業に絞っている。
周囲への周知範囲も本人に確認しておきたい。誰にどこまで伝えてよいかを決めずに広がると、本人が説明を繰り返す立場に置かれる。
見守りは、地域の誰に引き継がれるのか
支援チームは縮小の局面に入っている。厚生労働省第55報によれば、DMATは現場活動14隊・コーディネーション33隊(8月19日15時)で、第54報の25隊・42隊から減っている。DPATは10隊(8月20日9時時点)、保健師等チームは35チームである。避難所は熊本県第36報で69か所・2,925人となり、最大の506か所・9,931人(内閣府第20報)から大きく減った。8月21日には宇城市と美里町の避難指示が解除され、県内に出ていた避難指示はすべて解除されている。
この局面で、遺族となった従業員が気にかけるのは、多くの場合自分自身より、残された高齢の家族や独居の親族である。ここで線を引いておきたい。日常的な見守りは、自治体の保健師による戸別訪問、地域包括支援センター、民生委員が担う領域であり、職場が直接担うものではない。事業場が個人宅の訪問を業務として組み込めば、担当者の負担と責任の所在が同時に問題になる。
一方で、職場にできることは残っている。引き継ぎ先を従業員に伝えることである。居住市町村の高齢者福祉担当課、地域包括支援センターの連絡先、災害専用フリーダイヤル0120-091-110を1枚にまとめ、遺族となった従業員に渡す。本人が地域に接続できれば、職場は勤務の話に戻れる。支援が薄くなった局面での職場の線引きの考え方は記事047、在宅で過ごす人の健康確認の分担は記事059で扱っている。
限界も併せて書いておく。職場は認定の結果を早めることも、遺族の生活を代わりに立て直すこともできない。できるのは、働き続けられる条件を整えることと、地域の窓口につなぐことである。範囲を広げすぎた支援は続かず、途中で止まったときに本人を落胆させる。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認すること・決めること | 誰が | 期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 家族を亡くした従業員がいるかを、本人の申告を待つ形で把握し、把握した情報の共有範囲を本人に確認する | 人事総務 | 随時 |
| 2 | 災害関連死の認定の経過を職場から尋ねない方針を、管理職に文書で周知する | 人事総務 | 今週中 |
| 3 | 災害弔慰金・災害障害見舞金は「制度の存在と市町村窓口の案内まで」とし、見込みを語らない運用を決める | 人事総務 | 今週中 |
| 4 | 慶弔規程の忌引日数を起点とし、個別に必要日数を組み直せる例外手続を明文化する | 人事総務 | 今週中 |
| 5 | 手続きのための時間を、時間単位年休・時差出勤・在宅勤務のどれで受けるか選択肢を提示する | 人事総務/上司 | 今週中 |
| 6 | 産業医面談への導線を明示し、本人の希望から数日以内に面談できる枠を確保する | 産業保健職 | 今週中 |
| 7 | 悲嘆反応と抑うつの区別を職場で判断しないことを、上司向けの手順に明記する | 産業保健職 | 今週中 |
| 8 | 居住市町村の高齢者福祉担当課・地域包括支援センター・災害専用フリーダイヤル0120-091-110を1枚にまとめて渡す | 人事総務 | 8月末まで |
| 9 | 復職後の業務量と繁忙期の割り当てを、当面の間どう調整するかを上司と決めておく | 上司/人事総務 | 9月の要員計画時 |
| 10 | 審査が長期化する前提で、3か月後・半年後に勤務の状況を見直す時点をあらかじめ置く | 人事総務/産業保健職 | 9月中に設定 |