産業医・産業保健師・産業看護師・衛生管理者・労務担当者など職員の健康に関与するスタッフに対して災害時の産業保健対応について情報提供をしています。
この度の地震で被害を受けられた皆様に、心からのお見舞いを申し上げます。突然の災害によって、多くの方が不安や困難な状況に置かれていることと思います。皆様一人ひとりが大切な存在であり、多くの支援が組織され、皆様の回復と復興を支えるために動いています。
復旧活動は被災者の支援にあたる職種の皆様方(以後、レスポンダーと記載)の心身の負担も甚大であると思われます。レスポンダーの皆様が健康で安全な状態を保ち続けることが復旧活動の基盤になります。復旧活動とレスポンダーの安全・健康の両立することが、復旧の大きな力になります。このページではレスポンダーの方々の健康影響をできるだけ防ぐための産業保健的アイデアを提供します。可能な限りエビデンスベースとなるように情報を収集し提供いたします。徐々に拡充します。
今後の見通し
衣食住に関すること
現場での寝泊まり
安全(火事・爆発・犯罪など)に関すること
通電火災の防止
女性に特有の健康影響とその対策(性暴力編)
心理社会的要因・心理的ストレスに関すること
不眠に対する対応
災害時の過重労働防止
生物学的要因による健康影響
感染症の流行
洪水発生時の感染症対策
物理的要因による健康影響
寒冷曝露による健康影響
化学的要因による健康影響
一酸化炭素中毒
復旧作業の呼吸器系の健康障害
人間工学的要因による健康影響
腰痛予防と痛めにくい体の使い方について
個別の健康リスクへの対応
急性期の災害特有の疾病予防
災害時の持病の管理について
女性に特有の健康影響とその対策(月経・周産期)
災害産業保健対応を行う際活用可能な資材
メンタルヘルス・セルフケア資材(高知県バージョン)
高知県が南海トラフ発生時に労働者のセルフケアをする際の資材として作成したものを許可を得て(高知県は産業医科大学と災害産業保健支援協定を締結中)掲載いたしました。本資材はそのまま熊本人吉豪雨・洪水の際、人吉地区の自治体職員に当時産業医であった劔陽子先生先生が配布し職員のセルフケアの一助となりました。ぜひ、ご活用ください。
災害対応者の睡眠管理に対する提案
災害発生時の睡眠確保は心理的および環境面の状況から容易なことではないです。不眠であることがある意味当たり前であり自然な反応であるといえます。そういった状況でも少しでも状況を改善するためのいくつかのヒントについてまとめまています。産業医として労働者・職員の面接にご利用ください。
健康影響調査表
災害の時には、一般論よりも生データをもとに対策を立てることでより効果的な対応をすることが可能になります。発災から1週間程度経過すると対応職員の健康影響が出始めます。疲労の蓄積、不眠、不安、酒量の増加といった個人的な問題とともに、特定の部署にのみ負担が集中するなどマネジメント上の問題も出てきます。こちらの健康影響調査表は実際の災害(球磨川流域豪雨災害)の時に活用されたものになります。調査表を利用する場合には災害産業保健センターにご一報ください。集計等のサポートやカスタマイズなどできるかぎり応じます。右上の「お問い合わせ」からご連絡ください。
産業保健ニーズリスト
災害時の産業保健職は、事業所全体のフェーズの変遷を常に意識しつつ、多様で経時的に変化する健康リスクを予想しながら、迅速かつ的確な対応を予防的に行っていくことが望まれます。
災害発生後の産業保健活動は、被災規模や危機の種類、事業所全体の復旧作業の進捗などに大きく左右されるため、一律に時間で区切ることは困難です。そこで、災害災害保健の考え方としては、時間軸を事業所全体の経過として、[1.緊急対応期]、[2.初期対応期]、[3.復旧計画期]、[4.再稼働準備期]、[5.再稼働期]の 5 つのフェーズに区分しました。また、時間経過とは無関係に、インフルエンザや熱中症など季節特有のリスクへの対応も不可欠であるため、5 つのフェーズとは別に[季節に関わる問題]として区分しています。
なお、被災規模が周辺地域に及ぶ広範囲な場合には、復旧作業が遅れることもあります。このような場合、フェーズを先に進めることができない、あるいはある特定のニーズが長期間にわたり生じる場合もあります。一方で、あるフェーズだけが極端に短くなる、もしくは抜けることもあります。また、事業所の再稼働に向けて従業員が一丸となって前進していく中で、危機事象の責任者など、対応が長期化する者や、被災のショックから立ち直れずに取り残される者が出てきます。彼らの存在を認識することで、産業保健スタッフが各フェーズに応じて背中を押しサポートすることができます。
職場における産業保健スタッフの役割は様々であり、災害の種類や規模によって生じるニーズも異なるため、実際の対応にはかなりの濃淡があります。上記ニーズリストはほとんどの産業保健ニーズを網羅しており、多くの災害事象に応用可能となっています。ただし、事業所あるいは事例特有の対応ニーズが生じる場合も少なからずありますので、本書を参考にそれぞれの産業保健職が事業所と連携して独自で対応することが望まれます。
参考になる過去事例
球磨川流域豪雨災害における産業医の対応
球磨川流域豪雨災害において、自治体職員の産業医として役割を果たした劔陽子先生の記録です。産業保健対応をする際に参考になる資料(日本産業衛生学会・GPSへのリンク)です。
災害発生時の産業保健職の役割
企業で災害との危機事象が発生した場合、まず関係者の課題認識が集中するのが直接的に傷病を負う労働者の健康問題です。この課題は顕在化しやすく、挙がってきた課題については一つひとつ誠実に一次予防として対応することになると思われます。一方、この課題の背後には間接的に影響を受ける多くの労働者が存在します。実際のところ、最前線で対応を継続するのは傷病者ではなく”健康な”労働者であり、彼・彼女らに対する二次予防としての健康管理が、災害危機管理対応の命運を分けると言っても過言ではありません。産業保健専門職は、被災直後の緊急対応だけでなく、公衆衛生や産業保健的側面から、危機事象が従業員や時には地域住民へ及ぼす健康影響に対して、長期的に評価して対応していく必要があります。また、事業所全体の被害を最小限にして事業を存続させていくために、産業保健専門職として何ができるのかということも考えていかなければなりません。このように、危機管理にあたる産業保健専門職は、健康を守る医学的視点と経営者の視点、両面をバランスよく考え対応していくことが大切です。事業所内で重大事故などの危機事象が発生して、現場や事業責任者は緊急対応に追われる中で、産業保健専門職は医学・保健の専門家という立場で事業所全体を俯瞰的に見ながら、経時的に各段階でどのような健康被害が生じているのか、また今後どの部署にどのような健康障害リスクがあるのかということを科学的な目で冷静に評価していく必要があります。