災害時の持病の管理について 令和6年能登半島地震で産業医の立場で労働者のためにできること 11

執筆:東海旅客鉄道株式会社 健康管理センター東京健康管理室 澤島智子

目次

災害時の持病の管理について

災害が発生した時は、自宅に帰ることができない、かかりつけ医療機関に通うことができないという状況が起こりえます。また、事業所の復旧作業などに従事している労働者は、自分自身の持病の管理よりも作業を優先する、あるいは作業に追われて持病の管理をする余裕がなくなってしまうという可能性があります。

しかし、高血圧や糖尿病などの慢性疾患では常用薬を使用している労働者もいます。また、透析や抗がん剤、免疫抑制剤など定期的な通院を要する場合もあります。災害時に治療が中断されると、持病の悪化、最悪の場合には命にかかわる可能性もあります。

産業保健スタッフとしては、健康診断などの情報をもとに、持病のある労働者が治療を継続できているかどうかを確認する必要があります。治療が中断されている、あるいは被災のため、今後治療の継続が難しくなる可能性があるという場合には、支援を検討する必要があります。

災害発生時に産業保健スタッフが実施できる支援

持病のある労働者について、治療継続の必要性を伝える

高血圧や糖尿病などの慢性疾患は、治療の中断により病態が悪化し、脳・心臓疾患の発生リスクを高めることになります。災害時に被災によるストレスや復旧作業に伴う過重労働、平時と異なる状況によるメンタルヘルス不調などにより、関連のある高血圧や糖尿病などの生活習慣病のコントロールが悪化し、脳・心臓疾患の発生リスクが高まることも考えられます。その他にも甲状腺疾患や自己免疫性疾患、精神疾患など治療の中断を避けるべき疾患はあります。治療継続の必要性を労働者本人はもちろんのこと、必要な際には上長や事業所長などに説明し、該当の労働者が治療を継続することができるよう、受診日の確保や、作業内容の変更などの必要な措置を講じることも必要となります。

治療が継続できるよう、対応する

災害発生時には、かかりつけ医療機関も被災して受診することができない場合があります。治療薬については、事業所内診療所で処方が可能な場合もあれば、事業所内で処方を行うことも可能です。しかし、事業所内に診療所がない、診療所内に薬がないという場合には、災害後も診療を行っている医療機関を労働者に紹介する、避難所などで医療活動をしている医療スタッフに相談することをアドバイスする、という対応が考えられます。また、今回の能登半島地震でも厚生労働省は、被災した人たちが、条件を満たせば、医師が発行した処方箋を持参しなくても薬剤師などが医師と連絡をとり、処方内容が確認できれば、薬局で薬を受け取れるとの通知※1を出しています。医師との連絡がとれない場合には、お薬手帳や薬の包装などから安定した慢性疾患の治療薬であることが確認されれば、事後に医師の確認は必要ですが、薬を受け取ることができます。地域によっては災害対策医薬品供給車両(モバイルファーマシー)が出動していることもありますので活用可能です。

※1:令和6年能登半島地震の被災に伴う保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて(令和6年1月2日)https://www.pref.ishikawa.lg.jp/yakuji/r6jishin/documents/240102hoken.pdf

また、特に透析などの高度な医療を要する労働者の場合には、治療可能な医療機関を速やかに紹介する必要があります。

今後想定される地震への備えについて、事業所内で情報提供を行う

大規模な地震はすでに発生しました。しかし、今後も規模の大きい余震が発生する可能性があります。余震により被害が拡大する可能性もあります。復旧活動の継続のため、帰宅ができない日が続く場合もあります。さらに、今後に備えるために、以下の内容を、事業所内で情報提供するとよいでしょう。

常用薬を2~3日分、持ち歩く

常用薬を3日分程度持っていれば、一時的に自宅に帰ることができなくなっても、服薬を中断せずに、帰宅できるようになる、あるいは支援により処方を受けられるようになるため、少なくとも2~3日分は常用薬を持ち歩くことが望ましいといえます。

お薬手帳を持ち歩く

持ち歩いているお薬がなくなった時に、かかりつけ以外の場所でお薬を受け取ったり、治療を受けたりする場合には、日頃、どのような薬を使っているのか、正確な情報を伝える必要があります。過去の事例から、お薬手帳の情報が治療継続の役に立ったと報告されています。また、熊本地震や今回の能登半島地震で厚生労働省が通知を出しているように、処方薬なしで薬を受け取るためにはお薬手帳が必要とされています。

緊急時に連絡できる医療機関の一覧を持ち歩く

緊急時に相談できる医療機関の情報を持っておくことも大切なことです。特に、透析や点滴治療など定期的な処置を受けている場合には、同じ処置が受けられる医療機関の連絡先を確認しておくこともよいでしょう。

どのような治療をうけているのかを理解しておく

災害発生時の体調管理や病気の治療継続のために、労働者自身がどのような病気を持っていて、どのような治療を受けているのか、正確に理解しておくことが、何よりも重要です。かかりつけ医や避難先で相談した医療スタッフの話をメモに記録しておくこともお勧めします。

参考資料

薬剤師のための災害対策マニュアル
https://www.nichiyaku.or.jp/activities/disaster/manual.html
東日本大震災における活動報告書【PDFファイル:46ページ,6.66MB】

令和6年能登半島地震の被災に伴う保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて(令和6年1月2日)https://www.pref.ishikawa.lg.jp/yakuji/r6jishin/documents/240102hoken.pdf

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