女性に特有の健康影響とその対策(月経・周産期編) 令和6年能登半島地震で産業医の立場で労働者のためにできること7

監修:妙蓮寺すいクリニック Sui Obstetrics & Gynecology 院長 山本ゆり子
執筆:東京大学環境安全本部 黒田玲子

災害により避難(避難場所が避難所か在宅かを問わず)生活を送っている社員やその家族には、女性ならではの健康影響が懸念されます。産業保健上の課題と対策を以下にまとめます。

目次

月経(生理)の出血が急に始まるなど、月経関連異常への対応

 災害のストレスにより、予定より早く出血がはじまる、いつもより長く出血期間が続く、月経リズムが不規則になる、などは良くあることです。妊娠の可能性がなく、出血量が多くなければ、特に心配はないことを伝えましょう。なお、出血量が多いかどうかの目安は、以下の通りです:一般的に、一回の月経周期における出血量は100-150ml程度です。日中に夜用ナプキンを使用して数時間でいっぱいになる状態が2日以上が続く場合は「出血量が多い」として治療の対象になる可能性があります。(妊娠の可能性がある場合の出血については、後述します。)
 ただし避難生活で陰部が清潔にできない状況が続くと、外陰部の炎症や膀胱炎などの尿路感染症が起こりやすくなります。こまめに生理用ナプキン等の生理用品を取り換えられるよう、生理用品の確保が十分か、支援者の立場で具体的に訊ねてください。特に農村部の女性や10代の女性にとって、生理用品について自分から口にすることは難しく、男性に対して話題にすることも難しいことも考えられます。避難所や物資配分に関するリーダーの一部に必ず女性を配置してもらい、生理用品や女性用下着について話しやすく対応してもらいやすい環境調整が行われているか、確認することが重要です。
 加えて、様々なジェンダーの方がいることにも留意してください。子宮卵巣があるトランスジェンダー・ノンバイナリーの方にも、月経問題が起こります。男性ホルモン療法中でも、月経が生じる可能性があり、一見男性に見える方でも、生理用品が必要になることがあります。
 なお、避難生活が中長期にわたって続いていく中で、40代半ば~50代半ばの周閉経期の方で少量でも出血が2-3週間続いている場合は、災害のストレスだけでなく、子宮体癌の初期症状である可能性も考慮に入れて、婦人科受診を勧めることが必要です。
 

生殖期間中の月経液量の正常範囲
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30712040/

重症月経困難症https://www.cdc.gov/ncbddd/blooddisorders/women/menorrhagia.html#:~:text=Usually%2C%20menstrual%20bleeding%20lasts%20about,lose%20twice%20as%20much%20blood.

一時的に生理用ナプキンが手に入らない場合の対応方法

以下の方法で対応ができます。生理用品の確保状況の確認と合わせて、情報提供しましょう。

  • 生理用布ナプキンの作り方 →①タオルハンカチ、ティッシュペーパー(または余り布)を準備する。 ②下着の大きさに合わせて、タオルの両側を折込む。 ③もし材料が揃えば、折込んだタオルの中に、ティッシュペーパーや余り布を入れる。お尻のほうに広い面を当てれば夜も安心。(出典:東京防災)
  • 赤ちゃんや高齢者用のおむつでも代用可能。
  • トイレットペーパーやティッシュペーパーを折り重ねて使う。
  • ひとつだけ残っているナプキンがあれば、その上にトイレットペーパーを重ねて使う。
  • 使い捨てできる清潔なタオルや布で代用する。

周産期(妊娠・出産)に伴う対応

あらかじめ、以下のようなことがあれば、避難所の担当者や医療スタッフに相談したり、受診を考えたりするよう、周知しましょう。

妊娠しているかどうかわからないが、妊娠の可能性があるとき

急に出血が始まったとき、妊娠している可能性がある場合は、正常な妊娠かどうか確認するために早めの受診が必要である。たとえ避妊していても妊娠することはあり、どんな形でも性交渉があった場合は、まず妊娠の有無の確認が必要となる。妊娠の有無を市販薬で確認できる場合は検査を行い陽性の場合は受診、妊娠の有無を確認するのが難しい場合は、病院に受診するか、避難所の医療スタッフや担当者に相談する。

妊婦 

胎動が減少し1時間以上ない場合、規則的なお腹の張り(目安として1時間に6回以上あるいは10分ごと)/腹痛/性器からの出血/破水など分娩の兆候があるとき、頭痛や目がチカチカするなど妊娠高血圧症候群の可能性がある症状のとき、不眠や無気力感/イライラや過敏さ/不安などの精神症状が2週間以上続く場合。

産褥婦

発熱、悪露の増加や直径3㎝以上の血塊が出るなど子宮収縮不良・子宮内感染の可能性があるとき、傷(帝王切開や会陰切開の傷)の腫脹や炎症などの不具合、乳房が痛く腫れるなど乳腺炎の可能性があるとき、強い不安や気分の落ち込みなど産後うつを疑う症状のあるとき。

また、産業保健スタッフや労務スタッフは、社員自身や社員の家族が妊婦や産褥婦であるとき、彼女たちが家族の支援以外にも、避難所で支援を受けられているか、在宅避難の場合は地域の支援資源につながることができているか、水・食料の確保ができる環境にいるのか、確認することも重要です。

参考文献

  1. 和田耕治先生:津波・地震において自分、家族、同僚、地域の健康を守るヒント集(2018年7月11日更新):生理が急に始まった時、注意する4つのポイント
    https://kojiwada.blogspot.com/2011/03/blog-post_9078.html
  2. Yahoo!防災速報:災害時の知恵生理用布ナプキンの作り
    https://emg.yahoo.co.jp/notebook/contents/article/pad190214.html
    (元出典:東京都 防災ブック 東京防災 203ページ)
    https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/1002147/1008042/1008074.html
  3. 及川裕子, 常盤洋子, 日健医誌 31(3): 369-379,2022, 災害時の避難所におけるウィメンズヘルスの課題
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkouigaku/31/3/31_369/_pdf/-char/ja
  4. 日本トラウマティック・ストレス学会:女性の視点に立った被災者の心のケア
    https://www.jstss.org/docs/2022031100014/file_contents/kamo_0519.pdf
  5. 日本産婦人科医会:
    研修ノート No107 災害時における周産期医療
    https://www.jaog.or.jp/notes/note15349/
    災害ストレスと婦人科疾患の関連-災害ストレスと疾患
    https://www.jaog.or.jp/note/3-%e7%81%bd%e5%ae%b3%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%ac%e3%82%b9%e3%81%a8%e7%96%be%e6%82%a3/
  6. 避難所で生活する妊産婦,乳幼児への支援のポイント
    https://www.jaog.or.jp/note/1-%e9%81%bf%e9%9b%a3%e6%89%80%e3%81%a7%e7%94%9f%e6%b4%bb%e3%81%99%e3%82%8b%e5%a6%8a%e7%94%a3%e5%a9%a6%ef%bc%8c%e4%b9%b3%e5%b9%bc%e5%85%90%e3%81%b8%e3%81%ae%e6%94%af%e6%8f%b4%e3%81%ae%e3%83%9d%e3%82%a4/
  7. 池袋真先生 【災害時】トランスジェンダー・ノンバイナリーにとって重要なこと
    https://note.com/singh_ike/n/n545ec6c5af82?fbclid=IwAR3SYVjv4a1rP7yVVOe66USGc50UuJcVTgvL9EDdtBw8d6vhSyTkX1gB600
  8. 生殖期間中の月経液量の正常範囲
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30712040/
  9. 重症月経困難症https://www.cdc.gov/ncbddd/blooddisorders/women/menorrhagia.html#:~:text=Usually%2C%20menstrual%20bleeding%20lasts%20about,lose%20twice%20as%20much%20blood.
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