災害時の過重労働による健康障害を防ぐために 令和6年能登半島地震で産業医の立場で労働者のためにできること9

執筆:田原 裕之 (産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学研究室)

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過重労働による健康影響とは

 大地震などの災害が発生した地域では、日常業務とは別に膨大な臨時・緊急の業務が加わり、仕事の量と質の両面でいわゆる「過重労働」になる労働者が増えてきます。例えば自治体の職員は、住民および住宅等の被害状況に応じた臨機応変の対応が求められます(さらに、職員自身が被災者でもあることが珍しくありません)。
 「過重労働」の状態では、十分な睡眠時間を確保できなくなったり、心理面(例:イライラ、不安感)、身体面(例:頭痛、食欲低下)、行動面(例:飲酒量や喫煙量の増加、ミスの増加)の様々なストレス反応が起こりやすくなったりします。その一部は医療機関での治療を要する疾病につながり、中でも脳血管疾患及び虚血性心疾患(以下「脳・心臓疾患」)とうつ病などの精神障害は、いわゆる「過労死等」として労災補償の対象疾病(業務上疾病)に挙げられています。なお、脳・心臓疾患の労災認定基準では、労働時間に関わらず認定されやすくなる「異常な出来事」として「事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合」などが例示されています。精神障害の労災認定基準では、「特別な出来事」には含まれていないものの、「事故や災害の体験」が労働時間や他の出来事を併せた総合評価で考慮されます。

健康障害を防ぐための取組

発災当初は絶対的に人手が足りずどうにもならなかったとしても、応援人員が入るタイミングなどでできるだけ速やかにローテーションできる体制を構築し、各職員が睡眠をはじめ仕事以外に必要な生活活動をしやすくすることが大切です。2018年(平成30年)の「働き方改革」の一環で改正された労働時間等設定改善法において、勤務間インターバル制度は努力義務となっています。他に、睡眠確保の大切さなど健康管理に関する事項の啓発、随時の健康相談の対応、といった取組が求められます。参考となる具体的な事例として、2020年(令和2年)に豪雨災害が生じたある県で展開された活動の一部を紹介します。

活動例

  • 発災早期から「自治体職員が健康で災害対応を続けられることが、地域の復興につながる」との認識を県振興局幹部、市町村保健師らと共有した。
  • 各市町村の産業保健体制の確認・助言を行った。
  • 災害時の健康管理に関するチラシをトイレに貼付したり、職員向けメールで配信したりして周知を図った。
  • 発災の翌月、職員を対象とする健康状況調査を実施し、健康相談等の個人対応に加え、部署ごとの分析結果を管理職へ示して業務時間等の改善の参考にした。
  • 活動にあたり、県総務厚生課、県精神保健福祉センター、産業医科大学関係者、産業保健総合支援センターなどに協力を依頼した。
日本産業衛生学会 良好実践事例( https://www.sanei.or.jp/gps/download/3988.pdf )を一部改変
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