災害時の復旧作業の呼吸器系の健康障害を防ぐために 令和6年能登半島地震で産業医の立場で労働者のためにできること10

執筆:五十嵐侑 (産業医科大学 産業生態科学研究所 災害産業保健センター)

目次

復旧作業における呼吸器系の健康影響とは

大地震発生後の復旧作業では、埃やがれき、化学物質、微生物など、さまざまな呼吸器疾患を引き起こす可能性のある要因が存在します。過去には、アメリカ同時多発テロや阪神淡路大震災時、ハリケーンカトリーナなどの災害時の救助活動や復旧作業に従事した作業者において呼吸器症状が報告されています。そのため、復旧作業に従事する方々が、これらの要因から身を守るためには、以下の予防策を講じることが重要です。

  • 適切な保護具の使用
  • 特定の危険物質の認識
  • 作業環境の換気
  • 健康状態のモニタリング
  • 安全衛生教育

適切な保護具の使用

保護具の種類

がれきや土砂の撤去作業では、有害物質を含む粉じんが飛散することがありますので、粉じんを吸入しないような対策として呼吸用保護具の装着が必要です。この場合の呼吸用保護具としては、粉じんを95%以上カットする「取替式または使い捨て式防じんマスク(以下防じんマスク)区分2以上 (DS2/RS2以上、N95マスク相当)」が推奨されます。ただし、それらが手に入らなず、粉じんの飛散がほどんどない作業かつアスベスト等の有害物質が含まれる恐れがない場合には、不織布マスクでも構わないと考えられます。

引用元:
中皮腫・じん肺・アスベストセンター. 復旧作業や片付けを行う人が知っておきたい ほこり(粉じん)・アスベストに関する 7つのポイントと防じんマスクの正しい装着法
https://www.asbestos-center.jp/mask/points.pdf

保護具の適切な着用

保護具は正しく装着することが重要です。職業感染制御研究会の感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識とカタログ集を参考に適切に装着し、適宜フィットチェックを行なってください。

引用元:職業感染制御研究会. 感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識とカタログ集 2022年版

特定の危険物質の認識

地震などの災害時には建築物等の倒壊・損壊により、アスベストを含む建材が外部に露出することでアスベストが飛散する恐れがあります。安全が確認されていない被災建築物の復旧作業を行わないこと、被災建築物等付近で作業する場合はアスベストを吸引することがないよう防じんマスクを作業者に正しく装着させてください。

作業環境の換気

復旧作業が屋内の場合には、作業エリアの換気を改善することで、粉じんの飛散を減らすことができます。作業エリアの開放が有効です。

健康状態のモニタリング

異常な臭いや異変を感じた場合は直ちに作 業を中断し、退避することが必要です。また、作業者が咳や呼吸困難などの症状が現れた場合は、直ちに作業を中断させてください。

呼吸器喘息や、呼吸機能が低下している作業者は、作業によって症状が悪化する場合がありますので、作業に従事させない、作業時間を短縮する、防じんマスクを装着しなくても良い作業に従事させる措置を行なってください。

安全衛生教育

復旧作業に従事する作業者には、適切な保護具の使用方法や危険性の認識についての安全衛生教育を行うことが効果的です。N95の装着方法は参考資料の動画ページもご参照ください。

3M.マスク装着の動画資料
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/medical-jp/mask/video/

参考資料

中皮腫・じん肺・アスベストセンター. 復旧作業や片付けを行う人が知っておきたい ほこり(粉じん)・アスベストに関する 7つのポイントと防じんマスクの正しい装着法

https://www.asbestos-center.jp/mask/points.pdf

職業感染制御研究会. 感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識とカタログ集 2022年版

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職業感染制御研究会ホームページ 針刺し切創、及び血液・体液曝露予防対策研究

一般社団法人安全衛生マネジメント協会. 被災地のアスベスト対策・防塵マスクの着用

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東京都環境局. 災害時におけるアスベストの飛散防止対策について

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/air/air_pollution/emission_control/asbestos/disaster.html

3M.マスク装着の動画資料

https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/medical-jp/mask/video/

過去の災害時のレスポンダーの呼吸器障害の報告

阪神・淡路大震災では多くの建物が倒壊し,大量のアスベストが飛散した。震災に関連したアスベストによる健康被害者は,マスコミによって公表された6名である。倒壊した建物からは最も危険とされている青や茶石綿が飛散し混合曝露の状態であったが調査では白石綿濃度だけの測定であった。これがアスベスト濃度として表記されており,白石綿濃度だけに基づく健康リスクは実際よりも低く評価されていると考えられる。被災地におけるアスベストによる環境汚染は多角的な角度からの検証が重要であり,混合曝露による健康リスクを正しく評価しなければならない。作業員の他にも住民やボランティアなどのハイリスクの人達への注意喚起が求められる。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/67/8/67_19-118/_article/-char/ja/

Yamamotoらは、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災に伴う解体工事現場周辺における総粉じん濃度と粒度分布を測定し、解体作業に従事した作業員の呼吸可能粉じん濃度(<;7.07>m)は4.0mg/m3であり、日本産業衛生学会の推奨濃度(2mg/m3)の2倍であったことを報告している。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21432527/

Randoらは,2005年に発生したハリケーン・カトリーナから4年後のハリケーン後の復旧作業員791名の呼吸器症状について調査を行い,ハリケーン後の復旧作業者からは熱/咳症状や膿瘻症状,肺炎,新規喘息が報告されたこと,熱/咳症状や膿瘻症状は復旧作業や復旧時間との有意な関係がみられたことを明らかにしている.これら呼吸器症状の原因として,微生物混じりの塵や瓦礫への曝露が関連しているとしている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3529447/

Meoらは、原油作業員31名を調査し,作 業日数の長かったものが有意にForced Vital Capacity (FVC)やForced Expiratory Volume in First second (FEV1)、 Forced Expiratory Flow in 25-75% (FEF25-75%)、Maximum Voluntary Ventilation (MVV) などの呼吸機能の低下が あったと報告している。また、同事故から1年後 の調査では汚染除去作業員20名の呼吸機能の改善を 確認し、呼吸機能障害は可逆性の変化であるとしている。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19351614/

Mauerらは、2001年9月11日以降に世界貿易センタービル(WTC)の災害に対応したニューヨーク州の職員は、9/11から5年後の慢性気管支炎を示唆する咳症状を含む下気道症状(lower respiratory symptoms:LRS)と関連していた。また曝露の程度が最も高い参加者は、喘息状態またはLRSの重症度が増加する可能性が高かったとしている。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20035001/

Farfelらは、災害時の曝露は、粉じん曝露が51%、トラウマとなる出来事を目撃したものが70%、怪我をしたものが13%であったこと、同時多発テロの後、成人の67%が呼吸器症状の新規または悪化を報告し、3%が新たに喘息と診断され、中でも、瓦礫の山で作業していたレスポンダーらは事件後に新たに4.1%が喘息と診断されたことを報告している。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18785012/

Antaoらは、世界貿易センタービル(WTC)攻撃後、救助・復旧作業員において、呼吸保護具を使用した労働者は、使用しなかった/使用する頻度が少なかったと報告した労働者と比較して、呼吸器系の有害な結果を報告する可能性が低かったことを報告している。さらに、適切なRPEの使用の予測因子として呼吸器用保護具のトレーニングを受けていることが挙げられたとしている。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21932428/

Finchらは、2001年9月11日(9/11)に世界貿易センター(WTC)の現場にいた応答者における心的外傷後ストレス障害(PTSD)と下部呼吸器症状(LRS)とは関連があるとしている。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38070472/

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