洪水発生時の感染症対策

我が国においては洪水など家屋が被災する状況が発生します。洪水で発生した家屋や家財の整理およびその対応職員は感染症発症のリスクが存在します。洪水発生時の感染症を防止するための方策について取りまとめています。

監修・情報提供:新川 実穂(珠洲市役所総務課)・小早川 義貴(DMAT事務局・福島復興支援室)
        劔 陽子(阿蘇保健所)

目次

洪水による土砂等による感染症のリスク

破傷風・ガス壊疽菌

概要

洪水による土砂の流入で普段は土の中に潜んでいた細菌が傷口から体内に流入することにより感染症を引き起こします。破傷風は感染してから3日後以降に漸新世の神経障害が強く進み、開口障害(口を開きにくくなる)障害が多くみられます。また、ガス壊疽菌は感染してから数時間以降に、筋肉を壊死させ、壊死した筋肉がガスを発生します。いずれも大変重篤な病気で命に影響があることがあります。

片づけなどの作業時の予防策

  • けがをしないように保護衣を着用対策
    がれきが散乱しているのでいつどこでケガするかわからないので十分な注意が必要。頑丈な手袋が望ましい軍手は隙間から木片のとがった部分が刺さる可能性がある。長靴も可能ならくぎの踏み抜きを予防できるものが望ましい。可能なら長袖・長ズボンで作業するなど皮膚を露出させないことが重要で意図せずがれきと接触しかすり傷を負うことを防ぐ、ただし熱中症に注意。
  • けがをした場合放置せず直ちに病院を受診
    症状があとから出てくることを念頭に大したけがでなくても受診するよう心掛ける。出血していなくてもかすり傷がある場合は受診することが基本。
  • 一度受診した後にでてくる症状への注意
    受傷後、破傷風を疑わせる症状として神経障害・開口障害がある場合、ガス壊疽を疑わせる皮膚や筋肉がガスでブヨブヨする場合には夜間や休日であっても大至急医療機関受診。

過去事例

・2015年の常総水害における破傷風の疑い症例

つつが虫病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

概要

山間部での作業はもとより山間部から洪水により土砂が流されることで、洪水被災地には普段は生息しない昆虫(ダニ・蚊など)が発生しやすくなります。
洪水被災地のの復旧作業を行うときにダニなどの昆虫に刺されることで病気が発生します。ダニの一種であるつつが虫に刺されたら、38度以上の高熱、頭痛、倦怠感、数日後に前身の発疹などの症状が発生します。また、マダニに刺されると発熱・嘔吐・腹痛などが起こり、症状が進むと血が固まりにくくなり全身の皮膚等からの出血および内出血が起こり重篤な障害を発症します。いずれも命に係わる可能性があるので十分な注意が必要です。

片づけなどの作業時の予防策

  • 皮膚の露出部を少なくする
    山間部や山間部の土砂が流入した地域などはダニが多くいる可能性があります。皮膚の露出部を防ぐため長袖・長ズボンのみならず帽子をかぶること。特に髪の毛の中にダニが入り込むケースは多く存在するので注意が必要です。
  • 防虫剤を使用する
    作業に入る前にダニ専用の防虫剤を使用すること。成分としてディート、イカリジンなどが含まれているものを選択する。ディートは30%程度含まれているものが望ましい。ディートには年齢制限があるので小さい子供がいる職員等が利用するためにはイカリジンを利用することも検討する。
  • 作業終了後にダニに刺されていないか確認する
    マダニは作業後にずっとかみついています。噛みついているマダニを見つけたら自分で取らずに医療機関に受診して取ってもらう。自分で取るとマダニの一部がから名の中に残る。
  • 作業後に発熱等の症状が出た場合には医療機関を受診する。
    発熱などの症状が出た場合にはすぐに医療機関を受診する。躊躇せず受診する。

過去事例

・2020年の人吉球磨地区水害におけるつつが虫病の多発

カビなどの対策

概要

浸水した家屋・家財においてはカビが発生することが知られています。カビを吸い込むことでアレルギー症状を引き起こすことが知られています。カビの対策は発生させないようにすること・発生したカビを吸わないようにすることが必要です。

片づけなどの作業時の予防策

  • 保護具を着用する
    主にカビが体内に侵入するのは呼吸からです。マスクを着用し可能な限りマスクを着用しないようにします。また、アレルギー症状が強い方は目からのばく露もありますのでゴーグルを着用することも一案です。
  • 可能な限り屋外で作業する
    屋内より屋外のほうが一般的にはカビの濃度は低いとされています。家財の清掃を行うとき、小さいものであれば屋外で作業することも検討してください。
  • 屋内で作業するときにはしっかりと換気し清掃する
    カビの濃度が低いほうが健康障害が出る可能性は低くなります。屋内作業中は換気に心がけしっかりと清掃することが必要です。
  • 家財は確実に乾かす
    浸水した家財は健康面だけで考えると破棄するほうが良いです。しかし、すべてを破棄することは容易ではありません。破棄せず継続しようすると決めた家財についてはしっかりと乾かしましょう。

過去事例

(やや専門的です)1990年代の米国オハイオ州で乳児特発性肺胞出血患者が発生し、患者宅からStachybotrys chartarumが分離されたことからS. chartarum原因説が提唱され、一部の動物実験では胞子の吸入により肺胞出血が出現したと報告されたが、ヒトとの関連性は示せなかったということでした。この住民の自宅はカビのサンプリングを行い異常なカビの検出はありませんでした。東日本大震災の仮設住宅も結露等からの真菌胞子汚染の指摘もあることがありますので水害に限ったことではありませんが清掃、換気、乾燥は重要です。

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