厚生労働省の第58報(8月25日10時現在)によれば、熊本県内ではDPATが8隊、DMATが15隊、JMATが29チーム104人、JDATが4チーム活動している。熊本県は8月25日時点で、保健医療活動の派遣者を1,018人(うち対口支援808人)と報告している。DPATは一度、本部機能のみに縮小したのち、現地での活動に戻った。
この記事は、被災地の産業医・保健師と人事総務に向けたものである。扱うのは、職場で拾った心身の不調を、どの窓口に、どの順序で渡すかという実務である。支援チームが薄くなる局面で職域が引き受ける範囲は記事047に、災害後のメンタルヘルスを時間軸でどう見るかは記事015に整理した。ここでは「つなぐ先」そのものを一覧にする。
発災1か月を越えたいま、この整理が必要な理由が2つある。1つは、支援チームの構成が週単位で入れ替わっていて、先月使えた窓口が今月も同じとは限らないこと。もう1つは、DPATのような急性期の支援がいずれ撤収し、地域の常設の仕組みへ引き継がれる時期が近いことである。
いま動いている支援の層を、性格ごとに分けて把握する
現地に入っている支援を一枚にすると混乱するので、性格で3つに分けたい。
第一に、急性期の派遣チームである。DPAT(災害派遣精神医療チーム)は、精神科医療の需要が急増した状況に対し、外部から時限的に入るチームである。DMATと同様、いずれ撤収する。第二に、行政の健康危機管理を支える層である。DHEATは自治体の保健所機能そのものを支援する立場で、個々の相談を受ける窓口ではない。県保健師の対口支援(8月25日時点で808人)もここに含まれ、避難所や在宅の巡回、健康調査を担っている。第三に、地域に元からある常設の窓口である。保健所の精神保健福祉相談、市町村の保健センター、精神科医療機関、そして事業場側の産業保健体制がこれにあたる。
職域からの紹介先として現実的なのは、原則として第三の層である。第一・第二の層は撤収を前提とした体制であり、そこに直接つなぐと、撤収時に受け皿が消える。過去の大規模災害では、急性期の支援が引くタイミングと、地域の常設窓口への引き継ぎがずれ、支援から抜け落ちる人が生じた。いま職域が確認しておくべきなのは、「誰が最後まで残る窓口か」である。
職場で拾える所見と、渡す先の対応
産業保健職が実際に出会うのは、診断名ではなく所見である。所見の性格によって、渡す先が変わる。
明らかな精神科的な症状(睡眠が数週間とれない、強い不安や抑うつが持続する、業務遂行が困難になっている)は、精神科医療機関への受診勧奨が本筋である。被災地では医療機関の受診しやすさが平時と異なるため、事前に受診可能な施設を確認しておく必要がある。厚生労働省の第58報では、被災医療機関のうち断水が続くのは15施設まで減っており、精神科の外来機能は多くの地域で戻っているとみてよいが、個別の診療状況は施設ごとに確認したい。
生活基盤の問題が主で、そこから不調が生じているもの(住まいが決まらない、罹災証明の判定を待っている、収入の見通しが立たない)は、医療ではなく市町村の生活再建の窓口が本来のつなぎ先である。罹災証明は8月25日時点で申請60,362件に対し交付22,641件(37.5%)にとどまっており、待っている従業員は多い。記事063で扱ったとおり、判定の確定は9月にずれ込む。ここを医療につないでも、原因は解決しない。
遺族となった従業員や、身近な人を亡くした従業員については、記事067で扱った論点が続いている。災害関連死の可能性がある死者2名について、熊本県は市町村の審査会を経て正式に決定されるとしており、手続きが長期化する。この間の見守りを職場だけで抱えないよう、地域の窓口と分担を決めておきたい。
支援に入った側の医療職・自治体職員の惨事ストレスは、また別の経路が要る(記事007)。所属先の産業保健体制が第一義的な受け皿であり、派遣元が撤収後の1か月をどう見るかを決めておく必要がある(記事074)。
つなぐ前に、職域の側で決めておく3つのこと
紹介先を並べる前に、渡す側の準備がある。
1つめは、本人の同意の取り方である。産業保健職が把握した健康情報を地域の窓口に伝えるには、本人の同意が要る。「保健所に相談してよいか」ではなく、「誰に、何を、どこまで伝えるか」を具体的に確認しておくと、後で齟齬が生じない。
2つめは、つないだ後の関与をどこまで続けるかである。紹介して終わりにすると、受診したかどうかも分からなくなる。次にいつ本人と話すかを、紹介と同時に決めておく。1〜2週間後の短い面談を1回設定しておくだけで違う。
3つめは、職場側で調整できる要素を先に動かすことである。勤務時間、担当業務、通勤経路。これらは医療機関に紹介しても変わらない。むしろ職場が変えられる部分を先に整えたほうが、症状が軽くなることは珍しくない。記事036で触れたとおり、この時期は不調が申告されにくくなる。申告を待つのではなく、勤怠の変化を手がかりに声をかける設計にしておきたい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 確認項目 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 窓口の確認 | 事業場が所在する市町村を管轄する保健所の精神保健福祉相談の連絡先と受付時間を確認したか | 産業保健職 |
| 窓口の確認 | 市町村の保健センターの健康相談窓口を確認したか | 産業保健職 |
| 窓口の確認 | 従業員が受診できる精神科医療機関を3か所以上、診療状況とあわせて確認したか | 産業保健職 |
| 窓口の確認 | 生活再建(罹災証明・応急住宅・各種給付)の市町村窓口を確認したか(記事020) | 人事総務 |
| 窓口の確認 | 撤収を前提とした支援(DPAT等)と、常設の窓口を区別して一覧にしたか | 産業保健職 |
| 手順 | 健康情報を外部窓口へ伝える際の同意の取り方を、伝える相手と内容まで具体化したか | 産業保健職 |
| 手順 | 紹介した従業員について、1〜2週間後のフォロー面談を同時に設定する運用にしたか | 産業保健職 |
| 手順 | 勤務時間・担当業務・通勤経路のうち、職場側で先に調整できる項目を洗い出したか | 人事総務 |
| 対象の把握 | 罹災証明の交付を待っている従業員を把握しているか | 人事総務 |
| 対象の把握 | 遺族となった従業員、身近な人を亡くした従業員の見守りの分担を地域と決めたか | 産業保健職・人事総務 |
| 対象の把握 | 支援に派遣した自社の職員について、帰任後1か月のフォロー計画があるか | 人事総務 |
| 発見の設計 | 申告を待たず、勤怠(遅刻・早退・欠勤・時間外の急増)の変化から声をかける運用にしたか | 産業保健職・管理職 |
| 見直し | 支援チームの構成が週単位で変わることを前提に、窓口一覧を月1回更新する担当を決めたか | 産業保健職 |