074_送り出した応援を、どう終わらせるか — 断水が3市町に絞られた週に、派遣元が決めておく撤収の条件と帰任後の1か月

断水は8月23日7時30分時点で3市町・約3,600戸まで絞られ、8月末の解消に向けて作業が進んでいる。給水車は前日の129台から119台へ減った。DMATは現場活動14隊、DPATは11隊で、いずれもピーク時から大きく縮小している。

支援の終わりが、数字の上で見えてきた。

この記事は、被災地に人を送り出した側——被災地外の本社・支社、応援要員を出した企業、支援に職員を派遣した医療機関や自治体——の産業保健職と人事総務に向けたものである。受け入れる側が支援縮小をどう引き継ぐかは記事047で扱った。ここでは、送り出した側が「いつ、どう終わらせるか」を決めるための材料を整理する。応援に入る側の宿泊・移動・水の組み方は記事048にある。

目次

終わりが見えた局面が、なぜ危ないのか

撤収の直前は、派遣期間の中で負荷が最も集中しやすい時期である。理由は3つある。

第一に、引き継ぎの作業が本来の業務に上乗せされる。記録の整理、後任への説明、現地との調整が、日常の支援活動と並行して発生する。

第二に、「あと数日だから」という判断が働く。休憩を削る、無理な段取りを組む、体調不良を申告しないといった選択が、終わりが見えているという理由で正当化されやすい。

第三に、今年はここに猛暑が重なっている。本日8月24日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む28府県に発表され、6日連続となった。熊本市の予想最高気温は38度、明日は39度が見込まれている。屋外での給水支援や物資対応に入っている要員にとって、撤収週は最も暑い週になる可能性がある。

撤収の条件を、感覚ではなく指標で決める

「そろそろ引き上げどきだろう」という判断は、現地の空気に流されやすい。派遣元が事前に指標を決めておくと、現地の要請と自社の限界の両方を説明できるようになる。

使いやすい指標は、日々公表されている数字の中にある。

指標現在の水準(8月23〜24日時点)撤収判断への使い方
断水戸数約3,600戸/3市町。8月末の解消見込み給水支援・生活支援の要員は、断水解消の宣言を一つの区切りに置ける
給水車の台数119台(前日129台)供給側の縮小と歩調を合わせる
避難所・避難者65か所・2,794人(8月23日14時)避難所支援の要員は、集約の進度に合わせる
支援チーム数DMAT現場14隊、DPAT11隊、JMAT32チーム医療系の派遣は、公的チームの規模と並べて考える
応急住宅の着工368戸・18団地、7市町村入居が始まる9月は、生活支援の性格が変わる

数字を指標にする利点は、現地に「もう十分です」と言わずに済むことにある。断水が解消したから、避難所が集約されたから、という説明は、現地の努力を否定しない形で終期を伝えられる。

終わらせ方を、送り出す前と同じ丁寧さで設計する

派遣を始めるときには、宿泊、移動、装備、連絡体制を細かく決める。終わらせるときにも同じ設計がいる。最低限、次の3点を文書にしておきたい。

終期の候補日と、その根拠。「8月末の断水解消をもって最終班とする」「9月第1週で後任を出さない」といった形で、いつまでかを先に示す。終わりが見えない派遣は、それ自体が負荷になる。

後任を出さない場合の引き継ぎ先。自社が抜けたあと、その役割を誰が担うのか。現地に残る組織なのか、そもそも不要になるのか。ここが曖昧なまま撤収すると、派遣者本人が「途中で放り出した」という感覚を抱えたまま帰任することになる。

最終班の負荷を軽くする措置。撤収に伴う荷物の片付けや記録の整理は、通常業務に上乗せせず、そのための人員か日数を確保する。最終班に最も経験の浅い要員を当てない。

帰任後の1か月に見るもの

支援者の惨事ストレスと中長期のメンタルヘルスは記事007記事015で扱った。ここでは、帰任のタイミングに固有の実務だけを挙げる。

帰任直後の面談は、必ずしも有効ではない。帰ってきた直後は、達成感と安堵が前面に出ていて、疲労も違和感も自覚されにくい。不調が形になるのは、日常の業務に戻って数週間経ってからのことが多い。面談を一度で済ませるなら帰任後2〜4週の時点に置き、帰任直後には「話したいときに来られる窓口がある」ことだけを伝えておくほうが機能しやすい。

見ておきたい変化は、本人の言葉よりも周囲から見える事実に現れる。遅刻や欠勤の増加、飲酒量の変化、被災地の話題を避ける、あるいは逆に繰り返し語る、以前は問題にしなかったことに苛立つ、といった変化である。管理職に対して「何を見たら産業保健職につないでほしいか」を具体的に伝えておくと、拾える確率が上がる。

もう一つ、帰任者が抱えやすいのが、被災地に残る人への負い目である。自分は水の出る家に帰り、冷房の効いた職場に戻る。この落差は、支援が中途で終わったと感じているときにとくに重くなる。撤収の根拠を数字で説明しておくことが、ここでも効いてくる。

累積した負荷を、9月の設計に引き継ぐ

派遣が終わったら、負荷を数えて記録に残す。8月28日で発災1か月を迎えるため、記事061で扱った1か月の記録づくりと合わせて処理すると効率がよい。

数えておきたいのは、延べ派遣日数、一人あたりの連続従事日数、猛暑下での屋外作業時間、派遣期間中の時間外労働時間、体調不良の申告件数である。これらは、9月の健診とストレスチェックの対象者名簿や実施設計に直接効いてくる。秋の法定業務の組み直しは記事058に整理している。

派遣に伴う長時間労働があった場合、面接指導の対象になる従業員が出る可能性がある。派遣期間中は勤怠の入力が滞りがちなので、締めの段階で実績を確定させておきたい。

実務でそのまま使えるチェックリスト

時期やること
今週終期の候補日と根拠となる指標(断水解消、避難所集約など)を決めて文書化する
今週後任を出すか出さないかを決め、出さない場合の引き継ぎ先を現地と確認する
最終班の前撤収作業のための人員・日数を別枠で確保し、通常業務に上乗せしない
最終班の前最終班の要員構成を確認する(経験の浅い要員だけにしない)
帰任日相談窓口の連絡先を紙で渡す。この日の面談は必須にしない
帰任後1週勤怠実績を確定させ、長時間労働の面接指導対象者を洗い出す
帰任後2〜4週個別面談を実施する。周囲から見える変化を管理職から聴取しておく
帰任後1か月延べ派遣日数・連続従事日数・猛暑下作業時間を集計し、9月の健診設計に反映する
随時撤収の根拠を派遣者本人に説明する(負い目を残さないため)

参考

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