8月26日、八代市の上水道が全域で解消した。断水が残るのは宇城市と氷川町の一部だけになり、報道では約270戸である。1か月にわたって事業場を縛ってきた「水がない」という前提が、多くの事業場で外れた。
この記事は、水が戻った事業場の総務・設備担当と産業保健職に向けたものである。扱うのは、断水中に買い足した飲料水と、借りたり買ったりした応急給水設備を、いつ・どういう基準で手放すかという判断である。設備を再稼働させる手順は記事027に、給水支援そのものが閉じていく順番は記事077に整理した。ここではその先、「復旧したあとに残った物」の始末を扱う。
急いで畳むと、まだ水が出ない従業員や、9月に控える台風への備えを落とす。かといって放置すると、レンタル料が積み上がり、備蓄水は期限を迎え、仮設タンクは衛生上の問題を起こす。判断を先送りにしないことが、この時期の実務である。
「事業場の水が戻った」と「従業員の水が戻った」は別に確認する
最初に切り分けるべきなのは、事業場の蛇口の話と、従業員の自宅の話である。この2つは同じ市内でも一致しない。
宇城市を例にとると、8月26日時点で断水が続いているのは小川町の北部田・南部田・河江の各一部だけで、他の地区は断水を解消したうえで給水制限に移行している。つまり同じ宇城市の従業員の中に、(1)水が出て制限もない人、(2)水は出るが制限がかかっている人、(3)まだ出ない人、の3種類がいる。市町村単位の「解消」の発表では、この区別がつかない。
さらに八代市では、上水道が復旧しても井戸水を使っている世帯で濁りが続いているとの報道がある。水道の集計に井戸利用世帯は載らないため、行政の数字だけを見ていると存在しないことになってしまう。記事060で触れた「水の自立」の論点は、断水解消の宣言をもって終わらない。
事業場の備蓄を減らす前に、従業員名簿に地区名の欄を足して、上の3区分と井戸利用の有無を1回だけ聞き取ってほしい。聞き方は「自宅の水道は、いま制限なく使えますか」で足りる。全員に配る必要はなく、対象は被災3市町に住む従業員に絞ってよい。
備蓄水は「減らす」ではなく「入れ替える」で考える
断水中に買い足した飲料水は、多くの事業場で平時の備蓄量を大きく超えているはずである。これを消費して元の水準に戻すのが自然だが、その「元の水準」自体をこの機会に見直したい。
今回の断水は最大で約108,100戸に及び、県が応急復旧の完了を8月末に見込むまで1か月かかった。従来の防災計画が想定していた3日分の備蓄では、明らかに足りなかった局面である。3日分に戻すのか、7日分にするのかは事業場ごとの判断になるが、根拠となる日数を今回の実績から取り直しておくことに意味がある。
実務としては次の順で処理する。第一に、賞味期限が近いものから社内で消費する。夏場の熱中症対策として作業現場に配れば無駄にならない。第二に、期限に余裕があるものを新しい備蓄水準まで残す。第三に、余剰分の扱いを決める。廃棄する前に、まだ断水が続く地区や避難所への提供が可能か自治体に確認するのが望ましいが、受け入れ体制が縮小している時期でもあるため、断られることも織り込んでおく。
購入費用の会計処理は、災害対応として費用計上したものと、今後の備蓄として資産に振り替えるものが混在しやすい。経理と早めに突き合わせておくと、後で罹災関連の記録を整理するときに手間が減る。
借りている設備は、返却日と保管場所を今週中に決める
仮設タンク、給水用ポリタンク、可搬式ポンプ、簡易トイレ、手指消毒用の設備。断水中にレンタルしたものは、契約が月単位になっていることが多い。8月末で自動更新される契約があるなら、判断の期限は今週である。
ここで迷いやすいのが、9月の台風シーズンを理由に残すかどうかである。判断材料は3つある。1つめは、その設備が短期間で再調達できるかどうか。仮設トイレや可搬式ポンプは災害時に一斉に需要が立つため、再調達は難しい。2つめは、保管に場所と手間がかかるかどうか。仮設タンクは使わないまま置くと内部に水が残って衛生上の問題になるため、完全に排水・乾燥させて保管できる場所があるかを確認する。3つめは、レンタル料の総額と再調達費用の比較である。
購入したものについては、返す先がないぶん判断が単純になるが、保管責任が残る。誰がどこに置き、次にいつ点検するかを決めて、防災計画に書き込むところまでやって終わりにしたい。書き込まないと、3年後に誰も存在を知らない設備になる。
給水拠点が閉じるほど、汲みに行く時間は延びる
宇城市の給水所は、8月26日時点で小川防災拠点センターの1か所だけになった。給水車は8時30分から17時、仮設タンクは24時間利用可能で、1人1日4リットル以内という制限がついている。
拠点が減れば、まだ水が出ない世帯の移動距離は延びる。断水戸数が10分の1になったからといって、当事者の負担が10分の1になるわけではない。むしろ、周囲が復旧していくなかで自分だけが水を汲みに行く状況は、目に見える不便さよりも申告しにくい。記事030で扱った「水を汲みに行く時間を勤務のどこに置くか」という配慮は、対象人数が減った今こそ個別に続ける必要がある。
給水車の稼働が8時30分から17時であることは、日勤者にとって勤務時間とほぼ完全に重なる。仮設タンクの24時間利用があるとはいえ、1人1日4リットルでは家族分に足りない。該当する従業員がいるなら、始業時刻をずらす、中抜けを認める、あるいは事業場の備蓄水から持ち帰りを認めるといった形で、事業場側が引き取れる部分がある。備蓄を減らす判断は、この持ち帰り分を差し引いてから行いたい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 区分 | 確認すること | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 従業員の状況 | 被災3市町に住む従業員について、自宅の水道が(1)制限なく使える(2)制限付きで使える(3)まだ出ない、のどれかを地区名とあわせて確認したか | 今週中 |
| 従業員の状況 | 井戸水を使っている世帯があるか、濁りが続いていないかを確認したか | 今週中 |
| 従業員の状況 | 水を汲みに行く必要が残る従業員に、始業時刻の調整・中抜け・備蓄水の持ち帰りのいずれを認めるか決めたか | 今週中 |
| 備蓄水 | 賞味期限の一覧を作り、期限が近いものから社内で消費する計画を立てたか | 8月末 |
| 備蓄水 | 今後の備蓄日数を今回の実績(応急復旧までおよそ1か月)を踏まえて決め直したか | 9月中 |
| 備蓄水 | 余剰分の提供先を自治体に確認したか(断られる前提で代替案も持つ) | 8月末 |
| 備蓄水 | 災害対応費用として処理するものと、資産計上するものを経理と突き合わせたか | 9月中 |
| 応急給水設備 | レンタル契約の更新日と解約通知の期限を全件洗い出したか | 今週中 |
| 応急給水設備 | 残すものについて、再調達の難易度・保管場所・レンタル総額の3点で判断したか | 今週中 |
| 応急給水設備 | 仮設タンクを保管する場合、排水と乾燥の手順を決めたか | 返却・保管時 |
| 応急給水設備 | 残置する設備の保管場所・管理責任者・次回点検日を防災計画に書き込んだか | 9月中 |
| 記録 | 断水期間中の対応(費用・時間・判断)を数字で残したか(記事061) | 9月上旬 |