本記事は2026年7月30日8時(JST)時点の公表情報に基づく速報であり、随時更新を前提としています。数値・制度は今後追加・変更されえます。案内の前に、末尾の出典(厚生労働省・経済産業省・熊本県)で最新の内容を確認してください。
シリーズ既刊の記事08・記事14・記事16・記事17・記事18では、制度の一般的な枠組みを紹介しつつ「今回の地震に適用されるかは現時点では確認されていない」と書いてきました。発災翌日の7月29日までに、実際に発表された特例が出そろい始めています。本記事は、人事総務担当者と産業保健職が「今日から従業員・経営層に案内してよいもの」と「まだ発表待ちのもの」を仕分けるための一覧です。社内掲示・イントラ・安否確認後のフォロー連絡に、そのまま流用してください。
従業員に今日案内できるもの
いずれも厚生労働省「令和8年熊本地震について」(第10報・第11報)で確認できた措置です。
- 保険証がなくても保険診療を受けられる:マイナ保険証や資格確認書を医療機関に提示できない場合でも、氏名・生年月日等の申告により医療保険で受診できます。避難時に何も持ち出せなかった人に、まずこれを伝えてください。
- 公費負担医療も受給者証なしで受診できる:難病・自立支援医療などの受給者証がなくても受診でき、緊急の場合は指定医療機関以外でも対応可能とされています。
- 医療費の一部負担金の徴収猶予・減免:災害により被災した被保険者について、窓口負担の徴収猶予・減免を行うことができるとされています。適用の可否・手続きは加入する保険者(健保組合・協会けんぽ・市町村)への確認が必要です。
- 労災請求の証明簡略化:勤務中・通勤中に被災した人の労災請求について、事業主等の証明が受けられなくても請求書を受理する等の簡略化が示されています。業務上外の考え方は記事19を参照してください。
- 介護・障害福祉サービスの負担減免と定員超過の容認:利用者負担が困難な人への減免、施設の定員超過利用の容認が示されています。要介護家族を抱える従業員の両立支援(記事16)に直結する情報です。
- 雇用保険基本手当の特例(7月30日追記):厚生労働省が「雇用・労働に関する特例措置・支援制度」のページを開設し、災害救助法適用地域で事業所が休止・廃止した場合に、離職していなくても失業給付(基本手当)を受給できる特例の案内を掲載しています。休業を余儀なくされる事業場では、従業員の生活資金の選択肢として早めに把握しておきたい制度です(適用条件はハローワークに確認)。
事業主が今日使えるもの
経済産業省が7月29日、被災中小企業・小規模事業者向けの支援措置を発表しました。いわゆる5点セットです。
- 特別相談窓口:日本政策金融公庫・商工中金・信用保証協会・商工会議所・商工会連合会等に設置
- 災害復旧貸付:運転資金・設備資金の融資
- セーフティネット保証4号:融資額100%保証。対象は災害救助法適用の21市町村
- 既往債務の返済条件緩和:返済猶予等の条件変更、手続き迅速化の要請
- 小規模企業共済災害時貸付:原則即日・低利の融資
厚労省第11報では、労働保険料の申請に基づく猶予措置等、未払賃金立替払制度の申請手続き簡略化も確認できます。
記事18(経営者の健康)で書いたとおり、資金繰りの不安は経営者・人事の睡眠と判断力を直接削ります。相談窓口が開いた今日が、資金繰りの相談と健康の相談を同時に始めるタイミングです。
| 措置 | 対象 | 窓口 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 保険証なしでの保険診療(申告のみ) | 全被災者 | 受診先の医療機関 | 厚労省第11報 |
| 公費負担医療の受給者証なし受診 | 受給者 | 受診先の医療機関 | 厚労省第11報 |
| 一部負担金の徴収猶予・減免 | 被災した被保険者 | 加入する保険者 | 厚労省第11報 |
| 労災請求の証明簡略化 | 勤務中・通勤中の被災者 | 労働基準監督署 | 厚労省第11報 |
| 介護・障害福祉の負担減免・定員超過容認 | 利用者・施設 | 市町村・事業所 | 厚労省第11報 |
| 中小企業向け5点セット | 被災中小企業・小規模事業者 | 日本公庫・商工中金・信用保証協会・商工会議所等の特別相談窓口 | 経産省7月29日発表 |
| 労働保険料の猶予措置等 | 事業主等 | 都道府県労働局・労基署 | 厚労省第11報 |
| 未払賃金立替払の手続き簡略化 | 賃金未払のまま退職を余儀なくされた労働者 | 労働基準監督署 | 厚労省第11報 |
災害救助法の適用地域(21市町村)
7月28日付で熊本県内21市町村(10市10町1村)に災害救助法が適用されています(熊本県・内閣府)。セーフティネット保証4号や介護・障害福祉の減免など、適用地域かどうかで使える措置が変わります。従業員の居住地・事業場所在地を照合してください。
| 区分 | 市町村 |
|---|---|
| 市(10) | 熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市 |
| 町(10) | 美里町、大津町、菊陽町、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、氷川町、芦北町、津奈木町 |
| 村(1) | 西原村 |
まだ発表が確認されていないもの
以下は7月29日時点で発表が確認できていません。「使える」と案内しないでください。ただし過去の災害では発災数日〜数週間後に発表されてきた類型であり、今後発表される可能性が高いものです。
- 雇用調整助成金の特例拡充(確認先:都道府県労働局・ハローワーク。相談窓口の案内は始まっているが、助成率引上げ等の特例拡充の発表は未確認)
- 激甚災害指定(確認先:内閣府防災情報。官房長官は7月29日会見で「現時点で決まったことはない」)
- 厚生年金・健康保険料の納期限延長(確認先:年金事務所)
- 中小企業退職金共済(中退共)の特例(確認先:勤労者退職金共済機構)
- こども家庭庁の保育所関係の事務連絡(確認先:市町村保育担当課)
- 出入国在留管理庁の外国人向け措置・多言語情報(確認先:出入国在留管理庁・FRESC)
厚労省の被害報は掲載ページで随時更新されています。毎朝の確認を日課にすることを勧めます。
案内するときの注意
- 制度名を伝えるだけでは動けない人が多い。 「セーフティネット保証4号が出ました」ではなく、どの窓口に、何を持って、いつ行くか(電話番号・受付時間・必要書類)まで添えて初めて案内になります。
- 「あなたは対象になりうる」と個別に伝える。 記事09で書いた「言えなくなる」問題と同根で、支援を自分から取りに行けない人がいます。全体周知に加え、被災の大きかった従業員には個別に声をかけてください。
- 外国人従業員への案内は記事17を参照。やさしい日本語での言い換えと、母語での確認手段をセットにしてください。
追記
【追記 8月7日】 住宅の応急修理制度は8月6日時点で熊本市・水俣市・菊池市・宇土市・上天草市・天草市・合志市・美里町・大津町・菊陽町・西原村・御船町・嘉島町・益城町・甲佐町・芦北町の16市町村が対象となり、費用上限は全壊〜半壊757,000円、準半壊367,000円とされている。賃貸型応急住宅(みなし仮設)は熊本市・八代市・水俣市・山鹿市・菊池市・天草市・美里町・西原村・御船町・益城町・甲佐町の11市町で受付中で、家賃上限は単身5.5万円、2人6.5万円、3〜4人9.5万円、5人以上13万円。激甚災害の指定政令は8月7日にも閣議決定される方向と報じられているが、本日7時時点で閣議決定は確認できていない。
【追記 8月6日】政府は8月4日、総額242億円の予備費使用を閣議決定した(災害復旧206億円、物資支援24億円、救助業務支援12億円)。激甚災害の指定政令は8月7日にも閣議決定される方向と報じられている。8月3日に内閣府が公表した指定見込みは本激で、適用措置は激甚災害法第3条・第4条、第5条、第6条、第24条であり、雇用保険法による求職者給付の特例(第25条)および中小企業信用保険法の特例(第12条)は含まれていない。内閣府は適用措置や地域が追加される場合があると明記しており、閣議決定の当日に適用条項を原文で確認されたい。詳細は記事031。
【追記 8月4日】 内閣府は8月3日、本地震を激甚災害として指定する見込みを公表した。適用が見込まれる措置は、公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助、農地等の災害復旧事業等に係る補助の特別措置、農林水産業共同利用施設災害復旧事業費の補助の特例、小災害債に係る元利償還金の基準財政需要額への算入等の4項目で、いずれも自治体・事業の復旧に関する措置であり事業場が直接申請するものではない。政府は8月4日に200億円超の予備費使用を閣議決定する方針を示している。熊本県は8月3日から八代・氷川地域の被災企業を対象とした実態調査を開始し、商工政策課に特別相談窓口を設けている。雇用調整助成金の特例および社会保険料・労働保険料の納期限延長については、8月4日8時時点で新たな発表を確認していない。
【追記 8月2日】8月2日8時時点で、労働・社会保険関係の新たな特例の発表は確認していない。運用面では、熊本県が罹災証明の専用窓口を30市町村で設置する予定としている。熊本市は災害救助法による住宅応急修理制度、被災者向けの無料入浴サービス、災害ごみの収集、井戸水の提供について案内を出している(8月1日更新)。8月2日は日曜であり、新たな特例の発表は週明け以降となる可能性がある。
【追記 8月1日】政府は7月31日の令和8年熊本地震非常災害対策本部会議で、被災自治体に対する普通交付税の繰上げ交付616億円を決定した。あわせて熊本県庁に政府現地対策本部(本部長・津島副大臣)が設置され、同日16時に第1回会議が開かれている。激甚災害指定については、8月1日8時時点で指定の公表を確認できていない。雇用調整助成金の特例、社会保険料・労働保険料の納期限延長、こども家庭庁・出入国在留管理庁の新たな措置も、本日8時時点で新規の発表は確認していない。
- 2026年7月30日:雇用保険基本手当の特例(事業所休止時の失業給付)を「従業員に案内できるもの」に追加。雇用調整助成金は相談窓口開設を反映。激甚災害指定の官房長官発言を追記
- 2026年7月29日:初版(以後の更新はここに追記します)