本記事は2026年7月28日19時台時点の情報に基づく。状況は流動的であり、最新の公的発表を優先すること。被害状況については断定を避け、報道時点の情報として記載している。
7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市豊野町と氷川町島地で震度7を観測した。震度7の観測は2024年の能登半島地震以来である。これから被災地には、DMATをはじめとする医療チーム、自治体の応援職員、そして企業の復旧要員が入っていく。この記事はその人たちを送り出す側、そして自ら入っていく人に向けたものである。支援者の健康管理は「余裕があればやること」ではなく、支援の質と継続性を決める前提条件だと考えたい。
支援者は「被災者でもある」
災害対応で最も消耗しやすいのは、外から入る応援者よりも、被災地の内側にいながら支援側の役割を負う人たちである。地元自治体の職員、被災地の医療機関のスタッフ、被災した事業場の管理職。自宅が損壊し家族の安否に不安を抱えたまま、住民や部下の対応にあたる。2024年の能登半島地震では被災自治体職員のメンタルヘルス不調が問題となり、自治労石川県本部が実態調査を行っている。厚生労働省も令和7年3月に、能登半島地震の教訓を踏まえた対応を整理している。
この二重の立場は本人からは見えにくい。「自分は職員だから」と役割の側に自分を寄せてしまい、被災者としての支援対象から自分を外してしまう。組織の側が「あなたも被災者である」と明示的に伝える必要がある。
惨事ストレスをどう理解するか
強い衝撃を受ける現場に接した後、眠れない、その場面が繰り返し頭に浮かぶ、集中できない、いらだつ、といった変化が生じることがある。これは異常な出来事に対する正常な反応であって、弱さや適性の問題ではない。この理解を派遣前に全員で共有しておくこと自体が予防的に働く。
今回は条件が重なっている。18時20分時点でイオンモール熊本での爆発の可能性と2階崩落による多数の閉じ込めが報じられており、17時39分時点でも家屋倒壊、閉じ込め、要救助事案が複数報告されている。いずれも同時点の報道であり、確定した被害像ではない。ただし支援者を送り出す側としては、多数傷病者への対応や、救出が間に合わなかった場面に立ち会う可能性を想定しておく必要がある。さらに、九州7県全県に熱中症警戒アラートが出るなかでの活動であり、停電により空調が停止している地域もある。身体的な消耗が判断力を落とし、そこにストレス反応が重なる構図を想定しておきたい。
なお、症状を精神疾患として断定的に扱う必要はない。産業保健職としては、診断名ではなく「業務に支障が出ているか」「安全に活動できるか」で判断すればよい。
派遣前 — 決めておくことが多いほど現場は楽になる
派遣前に固めるべきは、任務の範囲、期間、そして撤収基準である。「状況を見て」は決めていないのと同じで、現場では必ず延びる。撤収の条件を先に文書化しておく。
あわせて、派遣予定者の健康状態と個人的事情を確認する。持病、服薬、睡眠状況、家族の介護や育児の事情。本人が申告しにくい空気があると意味がないので、申告が不利益にならないことを明言する。行動基準として「安全が確認できない建物には入らない」「単独行動をしない」を最低限のルールとし、家族との連絡手段と、家族側からの連絡先も決めておく。
活動中 — 上限は先に決める
勤務時間の上限は、活動を始める前に決めておく。後から決めると必ず延びる。二人一組を崩さない、定期的な休憩と水分・塩分の補給、睡眠時間の確保、そして交代要員をあらかじめ確保しておくこと。交代要員がいない派遣は、その時点で計画として不完全である。
現場では「もう少しやれる」という自己判断が働くが、疲労下でのこの判断は当てにならない。だからこそ、本人の意思ではなく時間と体制で区切る。猛暑下では熱中症のリスクが直接的に重なる。2025年6月1日からは改正労働安全衛生規則により職場の熱中症対策が罰則付きで義務化されており、WBGT28℃以上または気温31℃以上の場所で連続1時間以上または1日4時間超の作業が対象となる。報告体制の整備、作業離脱・身体冷却・搬送の手順作成、関係者への周知は、自社の復旧要員にも当然に及ぶ。
帰還後 — 何をして、何をしないか
強い体験の直後に感情を語らせる形式の心理的デブリーフィングを全員に一律実施することについては、有効性に疑問が示されており、推奨されないという知見がある。良かれと思った介入が負担になりうるという前提で組み立てたい。
代わりに置くべきは、サイコロジカル・ファーストエイドの考え方に沿った対応である。安全と休息を確保し、必要としている実務的支援につなぐ。無理に語らせず、話したい人には聞く。ラインからの声かけを行い、通常業務へは段階的に戻す。帰還直後だけでなく、数週間後にもう一度フォローの機会を置く。反応が遅れて出ることがあるためで、この「数週間後」を業務予定に組み込んでおかないと実施されない。
支援者に起きやすい変化として、不眠、飲酒量の増加、罪悪感、「自分より大変な人がいる」として不調を訴えられなくなること、が挙げられる。最後の点は特に厄介で、周囲が拾いに行かないと表に出てこない。
管理者向け:支援要員の派出前に決めておく7項目
- 任務の範囲と期間、そして撤収基準を文書で明示する
- 1日あたりの勤務時間の上限と休憩・水分補給のルールを先に決める
- 交代要員を確保したうえで派遣する(確保できないなら規模を縮小する)
- 二人一組と、安全が確認できない場所に入らないという行動基準を徹底する
- 派遣前の健康状態・個人的事情の確認と、申告が不利益にならないことの明言
- 帰還後の産業医面談・相談窓口への接続を、本人の申し出を待たずに自動的に組み込む
- 数週間後のフォロー日程を派遣時点でカレンダーに入れる
組織として仕掛けを持つ
不調を訴えることが人事評価に響かない設計になっているか。相談が本人の申し出頼みになっていないか。この二点が担保されていなければ、制度があっても使われない。
そして、支援者支援の対象には上司自身が含まれる。現場の指揮を執る管理職は、判断の責任を負いながら最も休息が取りにくい。中小企業では、経営者や現場責任者が代われる人がおらず、最も休めない層になりやすい。産業保健の側から「あなたも対象です」と名指しで働きかけることが要る。
支援者支援の実務資料としては、DPATの「災害時の支援者支援マニュアル」と、兵庫県こころのケアセンターが公開している災害救援者向けの資料がある。派遣を計画する段階で、担当者が一度目を通しておきたい。
支援に入る人が倒れれば、支援そのものが止まる。送り出す側の準備が、被災地に届く支援の総量を決める。
参考
- NHK 熊本で震度7 けが人多数: https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015188221000
- NHK 熊本県内 各地で猛烈な暑さ 避難所は熱中症に注意を: https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015188731000
- 熊本日日新聞 リアルタイム速報: https://kumanichi.com/articles/2018619
- ウェザーニュース M7.1 最大震度7: https://weathernews.jp/news/202607/281627quake/
- 西日本新聞 九州7県全県に熱中症警戒アラート: https://www.nishinippon.co.jp/item/1520357/
- DPAT 災害時の支援者支援マニュアル: https://www.dpat.jp/images/Document/Document_q7ATVK33rLJehKBZ_1.pdf
- 兵庫県こころのケアセンター 災害救援者のための資料: https://www.j-hits.org/document/disaster_rescuer.html
- 自治労石川県本部 能登半島地震による被災自治体におけるメンタルヘルス等に関する実態調査結果: https://www.jichiro.gr.jp/.assets/%E3%80%90240816%E3%80%91%E8%83%BD%E7%99%BB%E5%8D%8A%E5%B3%B6%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%AE%9F%E6%85%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90.pdf
- 厚生労働省 令和6年能登半島地震の教訓を踏まえた対応: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001431637.pdf