045_復旧作業で人が倒れたとき、どの制度で受け止めるか — 労災・災害弔慰金・災害障害見舞金の切り分けを、負傷が17人になった週に整理する

厚生労働省第48報(8月13日10時現在)によると、復旧作業に伴う労働災害は死亡17人・負傷17人(8月12日12時時点の確認分)となった。前日整理時点の負傷13人(8月10日12時時点)から4人増えており、増加はお盆の連休に入ったあとに起きている。復旧工事は休まない。この記事は、事業場で死傷が生じたときに「どの制度の入口に載せるのか」を迷わないために、産業保健職と人事総務が押さえておく切り分けを整理する。制度の選択を誤ると、遺族や本人が本来受けられる給付にたどり着くまでに何週間も余分にかかる。

目次

入口は「業務上か否か」でまず分かれる

同じ地震による死傷でも、業務上の事由によるものは労災保険、そうでないものは災害弔慰金の支給等に関する法律(災害弔慰金・災害障害見舞金・災害援護資金)という別の制度で受け止める。両者は所管も申請先も異なり、労災保険は労働基準監督署、災害弔慰金等は市町村が窓口になる。

現場で判断に迷いやすいのは次の三つである。第一に、勤務時間中に事業場の建物が損壊して被災した場合。第二に、事業主の指揮命令のもとで復旧作業・応急修理・片付けに従事していて被災した場合。第三に、通勤経路上で被災した場合。いずれも業務上または通勤による災害として労災保険の対象になりうる。逆に、休日に自宅の片付けをしていて負傷した、家族が自宅で被災して亡くなった、という場合は労災保険の対象外で、市町村の災害弔慰金等の枠組みで扱われる。

判断は最終的に労働基準監督署が行う。事業場が「これは労災ではない」と自己判断で結論を出さないことが重要である。迷う事案はすべて監督署に相談したうえで、必要なら請求書を提出しておく。

労災保険で受け止める場合 — 請求手続の特例が出ている

今回の地震では労災保険の請求手続に特例が設けられている。厚生労働省が公表している雇用・労働の特例措置によれば、事業主や医療機関の証明が得られない場合でも請求を受け付ける取扱いとなっている。事業場が損壊して印章や書類が失われている、あるいは受診した医療機関が断水で機能していない、という状況を想定した措置である。

このほか、労災年金証書の再交付、通帳やキャッシュカードを紛失した場合の本人確認による払い戻し、送金通知書がなくても郵便局窓口で受け取れる特例(令和8年10月6日まで)、義肢等補装具の修理・購入費用の支給、アフターケア手帳の提示が不要となる取扱いなどが並んでいる。過去に労災給付を受けている従業員が被災地にいる場合は、これらを個別に案内する価値がある。

熱中症による死傷も、業務に起因すると認められれば労災保険の対象である。屋外での復旧作業中に発症した事案は、記録が薄いと後から立証しづらい。作業場所・作業時間・休憩の取り方・その日の気温を、発生の当日に記録しておく。8月14日は熱中症警戒アラートが熊本県を含め全国で発表されていないが、八代市の予想最高気温は34度である。アラートの有無は労災認定の基準ではない(記事043)。

災害弔慰金・災害障害見舞金で受け止める場合

業務外の死亡・障害は市町村が支給主体となる。内閣府の資料によれば、災害弔慰金は生計維持者が亡くなった場合500万円、その他の場合250万円。災害障害見舞金は両眼失明・常時介護を要する状態・両上肢のひじ関節以上の切断など重度の障害が対象で、生計維持者250万円、その他125万円である。受給できる遺族は配偶者・子・父母・孫・祖父母、これらがいない場合は死亡当時に同居し生計を同じくしていた兄弟姉妹とされる。

見落とされやすいのが災害関連死の扱いである。避難生活や被災後の環境変化が原因で亡くなった場合、市町村の審査を経て災害関連死と認定されれば災害弔慰金の対象になる。熊本県の発表では8月13日時点で災害関連死の可能性がある死亡が1人、調査中が2人ある。従業員の家族が避難生活のさなかに亡くなったという相談を受けたとき、「地震で直接亡くなったわけではないから対象外」と説明してしまわないこと。市町村の窓口に相談するよう案内するのが正しい。

生活資金が必要な段階では災害援護資金がある。世帯主が1か月以上負傷した場合は150万〜250万円、住居が全壊した場合は250万円(特別の事情がある場合350万円)などの貸付で、利率は年3%、据置期間中は無利子、据置期間3年・償還期間10年が原則である。所得制限があり、世帯人員1人で220万円、4人で730万円などとなっている。

労働保険料の納期限延長が告示された(8月12日)

事業者側の手続としては、8月12日に労働保険料等の申告・納期限の延長が告示されている。対象は熊本県八代市・宇土市・宇城市・八代郡氷川町に所在する事業場で、申告書の提出、納付または徴収の期限が令和8年7月28日以降に到来するものが延長される。被災事業主向けのリーフレットと適用徴収に関するQ&Aも公表された。あわせて、財産に相当の損失を受けた場合の納付猶予制度(猶予期間中の延滞金の免除、財産の差押えの猶予)も利用できる。

対象4市町以外の事業場でも、被災により期限までの申告・納付が困難な場合は労働局労働保険徴収室に相談する。公的支援の一覧は記事020に整理しており、今回の告示は同記事の更新対象である。

実務でそのまま使えるチェックリスト

確認事項判断・行動窓口
死傷は事業主の指揮命令下で発生したか該当すれば労災保険の請求へ。迷う事案も相談する労働基準監督署
通勤経路上で発生したか通勤災害として請求を検討。迂回経路も含めて経路を記録労働基準監督署
事業主証明や医療機関の証明が取れないか特例により証明なしで請求を受け付ける取扱い労働基準監督署
業務外の死亡・重度障害か災害弔慰金・災害障害見舞金の対象となりうる市町村
避難生活の中での死亡か災害関連死として審査対象になりうる。対象外と説明しない市町村
生活資金が不足しているか災害援護資金の貸付を案内(所得制限あり)市町村
熱中症の疑いがあるか作業場所・時間・休憩・気温を当日中に記録事業場内で記録
労働保険料の期限が7月28日以降に到来するか対象4市町は延長告示済み。他は徴収室に相談労働局労働保険徴収室
過去に労災給付を受けている従業員がいるか証書再交付・払い戻し・補装具の特例を個別案内労働局労災補償課

事業場でまとめておくべき記録は多くない。被災した日時と場所、そのとき誰の指示でどの作業をしていたか、目撃者、受診先、この四点である。書式は問われない。連休の間に発生した事案ほど記録が薄くなりやすいので、記事042で整理した現場管理とあわせて、連休明けを待たずに埋めておきたい。

参考

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