断水は減り始めたが、医療機関の断水はまだ34施設で続いている(厚生労働省第40報・8月6日16時時点)。しかもその半分以上が八代市に集中している。従業員から「病院が閉まっていて薬がもらえない」「透析の場所が変わった」という話が出てくるのはこれからで、しかも本人はたいてい職場に言わない。この記事は、被災地の産業保健職と人事総務が、今週のうちに手を打てることを整理したものである。健診・ストレスチェックの扱いは記事014を前提とし、ここでは日常の受診と処方に絞る。
いま熊本の医療機関で何が起きているか
厚生労働省第40報(8月6日16時時点)によると、被災した医療機関は熊本県内92施設。浸水は最大39施設から0に、停電は最大22施設から0に、医療用ガスは最大13施設から1施設まで戻った一方、断水だけが最大88施設から34施設と、他より遅れて減っている。八代市26施設(うち断水19施設)、宇城市14施設と地域が偏っているのが今回の特徴である。
薬局は被害136施設、営業不可19施設(8月5日14時時点)。八代市44施設のうち5施設、宇城市23施設のうち7施設が営業不可で、断水しているのは56施設にのぼる。営業不可の数は前日の24施設から減っており、再開は進んでいる。ただし「営業している」ことと「いつもの薬が置いてある」ことは別で、在庫が偏る局面はもう少し続くとみておきたい。
透析は県内94か所中、最大13か所が実施困難となった。給水支援で4か所、ライフライン復旧で6か所が再開し、残る3か所は機材損傷のため他の医療機関での実施が手配済みとされている。つまり透析患者の受け皿そのものは確保されているが、通う場所と時間が変わった人がいる、という状態である。
高齢者施設315施設、障害者施設173施設でも断水が続く。従業員本人ではなく、家族の介護先が動いている可能性を含めて見る必要がある。
「薬が切れる」を職場から防ぐ
災害時には、処方箋がなくても薬剤師が必要な医薬品を交付できる取扱いが認められる。今回も災害処方箋への対応が現場で行われており、モバイルファーマシーはその拠点として動いている。8月7日時点で稼働しているのは3台で、熊本県薬剤師会が宇城市小川防災拠点センター(8月1日から)、福岡県薬剤師会が八代市総合体育館(8月2日から)、宮崎県薬剤師会が氷川町健康センター(8月2日から)である。災害薬事コーディネーター4人も活動している。
職場からできることは、この情報を「知っている人だけが使える情報」にしないことに尽きる。具体的には次の3つである。
第一に、慢性疾患で服薬している人が社内に何人いるかを、名簿ではなく概数で把握しておく。高血圧、糖尿病、脂質異常症、抗凝固薬、抗てんかん薬、向精神薬、吸入薬。人事が知る必要はなく、産業保健職が「声をかける相手の見当がつく」程度で足りる。
第二に、お薬手帳やアプリの画面、薬の写真でも代替になることを周知する。手帳を流された人ほど「もう受診できない」と思い込みやすい。写真1枚でも受け付けてもらえる可能性がある、と伝えるだけで動き出す人がいる。
第三に、受診と薬の受け取りのための時間を、勤務のなかに明示的に置く。給水に通う時間の設計は記事030で扱ったが、受診も同じ構造の問題である。営業している医療機関・薬局が遠くなっているぶん、往復に半日かかることを前提に、時間単位の休暇や中抜けを使えるようにしておく。
待てない人を先に見つける
一般論としての「体調が悪ければ受診を」では届かない層がいる。今の熊本で先に見つけるべきは次の人たちである。
透析を受けている人。実施場所が変わっていないか、送迎はどうしているかを直接確認する。在宅酸素療法や在宅人工呼吸器を使っている人。停電はおおむね解消したとはいえ、余震で再び停電する可能性がある以上、電源の確保と連絡先を本人と共有しておく。インスリンなど冷蔵保管が必要な薬を使っている人。断水が残る地域では冷蔵庫が動いていても保管環境が不安定になりうる。抗凝固薬や抗てんかん薬など、中断すると数日で危険が生じる薬を使っている人。妊娠中の人と、生後まもない子を持つ人。
この確認は「調査」の形にすると答えが返ってこない。管理職を通じた一斉メールより、産業保健職が1人ずつ短く声をかけるほうが実際には早い。記事009で書いたとおり、この時期は「自分より大変な人がいる」という理由で申告が止まる。
健診機関と、次の1か月
健診機関そのものも被災している。定期健康診断やストレスチェックを予定どおり実施できない事業場は多いが、実施の遅れが直ちに法違反として扱われるわけではないという考え方は記事014で整理した。今の局面で決めておきたいのは、「いつやるか」ではなく「どこまで遅らせるかの上限と、その間の代替」である。
具体的には、①健診機関に現時点での再開見込みを問い合わせ、記録に残す、②遅れる場合に何月までに実施するかを衛生委員会で決めて議事録に残す、③その間、高血圧・糖尿病などで通院が中断している人を産業保健職が個別に把握する、の3点で足りる。③が実質的な安全網であり、健診の日程調整より優先度が高い。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 確認項目 | 誰が | いつまで |
|---|---|---|
| 慢性疾患で服薬中の従業員の概数把握 | 産業保健職 | 今週中 |
| 透析・在宅酸素・在宅人工呼吸器の利用者の個別確認 | 産業保健職 | 本日中 |
| インスリン等の冷蔵保管が必要な薬の利用者の確認 | 産業保健職 | 本日中 |
| お薬手帳がなくても相談できることの周知 | 人事総務 | 今週中 |
| モバイルファーマシー3か所(宇城・八代・氷川)の場所を社内掲示 | 人事総務 | 本日中 |
| 近隣で営業している医療機関・薬局の一覧を掲示・更新 | 人事総務 | 週2回更新 |
| 受診・薬の受け取りのための時間単位休暇・中抜けの運用整備 | 人事総務 | 今週中 |
| 健診機関の再開見込みの問い合わせと記録 | 人事総務 | 今週中 |
| 健診・ストレスチェックの実施時期を衛生委員会で決定・記録 | 衛生委員会 | 今月中 |
| 通院が中断している従業員の個別把握 | 産業保健職 | 継続 |
| 家族の介護先・通所先が止まっている従業員の把握 | 産業保健職/管理職 | 今週中 |