発災から1か月が過ぎ、断水は解消し、避難所は61か所・約2,400人まで減った。外から入っていた支援は縮小の局面にある。厚生労働省の8月27日時点の集計で、DMATは本部24隊・現場14隊、DPATは7隊(本部4・現地3)、JMATは25チーム92名、保健師等は33チームである。減った分の役割は、地域と職域に戻ってくる。この記事は、7月28日から一度も休みらしい休みを取っていない産業保健職・人事総務・安全衛生担当、そして本社からその担当者を見ている管理職に向けて、9月の1か月をどう組むかを扱う。担当者自身が対象である。
1か月を越えた地点で、負荷の形が変わる
発災直後の1週間、業務は「切迫していて、内容が単純」だった。安否確認、出勤可否、水の確保。1か月を過ぎた今、業務は「切迫していないが、内容が複雑で終わりが見えない」ものに変わっている。罹災証明の判定に伴う手続き支援、応急住宅入居に合わせた通勤経路の届出、公費解体の予約に絡む労災保険の確認、雇用調整助成金の申請、9月の健診とストレスチェックの再設計。どれも締切があり、どれも一人では完結しない。
この変化が問題なのは、周囲から見て負荷が下がったように見えることである。断水が解消し、鉄道の再開日が決まり、支援チームが減れば、外形的には「収束に向かっている」と読める。しかし担当者の手元では、8月に暫定で処理した判断を9月の本運用に置き換える作業が積み上がっている(記事061)。負荷のピークが8月にあったと決めてかかると、9月の増分を誰も見ないまま担当者だけが抱えることになる。
支援する側に起きる経過は、時期が読める
災害後の支援者の消耗は、個人の弱さの問題ではなく時期の問題として扱える。発災直後の高揚が数週間で薄れ、1か月から3か月にかけて、疲労の蓄積と、やれることの限界が見えてきたことによる落ち込みが重なる。記事007で扱った惨事ストレスは主に強い映像や死に接した場面を想定していたが、9月に問題になるのはむしろ慢性の消耗である。睡眠が短くなる、飲酒量が増える、休日に何もできなくなる、細かい判断でいらだつ、以前なら気づいたミスを見落とす。こうした変化は本人からは申告されにくい(記事009、記事036)。
さらにこの1か月、熊本県には8月20日以降11日連続で熱中症警戒アラートが発表されている。屋外の復旧作業だけでなく、避難所の巡回や被災事業場の現地確認に出る担当者も、暑熱下での移動を毎日重ねてきた。身体的な疲労が判断力を削っている前提で組む必要がある。
「自分は被災していない」と言う担当者ほど注意する
産業保健職と人事担当の多くは、自宅が半壊した従業員や、家族を亡くした従業員に日々向き合っている。その比較の中では、自分の被害は語るに値しないものとして扱われる。だが担当者自身も、断水を経験し、余震の中で寝ており、家族の生活再建を抱えている場合が多い。気象庁は8月25日、今後1か月程度は最大震度5弱程度以上の地震に注意(1か月に1〜2回程度)と評価しており、揺れへの警戒はまだ解けていない。
ここで有効なのは、本人に「大丈夫か」と聞くことではなく、事実を数える枠組みを与えることである。この1か月の時間外労働時間、休日取得日数、深夜・休日の連絡対応回数、現地に出た日数。数えれば、本人が「自分は大したことをしていない」と考えていても、数字が別のことを言う。記事061で扱った1か月の記録は、従業員のためだけでなく担当者自身の労務管理のためにも使える。
組織として、仕組みで守る
意思や心構えではなく、動かせる仕組みは四つある。第一に、業務の棚卸しと期限の再設定。9月にやることを一覧にし、9月中でなくてよいものを10月に送る決定を、担当者ではなく上位の管理職が行う。第二に、交代要員の指定。被災対応業務を一人しか把握していない状態を解消し、最低1名に引き継げるようにする。第三に、承認ラインの短縮。判断待ちで担当者が抱える時間を減らす。第四に、外部の相談先の確保。社内の産業保健職が当事者である以上、その人自身の相談先は社外に置く必要がある。地域の窓口については記事080で整理したつなぎ先の一覧が使える。
派遣元として応援を出した企業は、帰任した要員の1か月のフォローも同時に走る(記事074)。応援に行った人と、送り出して現地対応を続けた人の両方が対象であることを見落としやすい。
9月の段取りに組み込む
9月の衛生委員会に、被災対応業務の負荷を議題として立てる(記事066)。健診とストレスチェックの再設計を進める中で、実施する側の担当者が対象者名簿から漏れていないかを確認する(記事058)。ストレスチェックの集団分析は、被災対応に当たった部署を一つの単位として切り出せるように、実施前に集計区分を決めておきたい。1か月・3か月・1年の節目の考え方は記事015のとおりで、9月末は3か月の手前にあたる観察点になる。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 確認項目 | 期限 | 担当 | 判断の基準 |
|---|---|---|---|
| 被災対応担当者の7月28日以降の時間外・休日取得・深夜連絡回数を集計 | 9月第1週 | 人事 | 月80時間相当や休日ゼロがあれば即面談 |
| 9月に予定した業務を棚卸しし、10月送りを管理職が決定 | 9月第1週 | 管理職 | 担当者に判断させない |
| 被災対応業務ごとに交代要員を1名指定 | 9月第2週 | 管理職 | 一人しか知らない業務をゼロに |
| 産業保健職・人事担当自身の社外相談先を確保 | 9月第1週 | 管理職 | 社内窓口だけでは不十分 |
| 応援から帰任した要員の1か月面談 | 帰任後1か月以内 | 産業保健 | 全員実施、希望制にしない |
| 健診・ストレスチェックの対象者名簿に担当者本人が入っているか確認 | 実施前 | 産業保健 | 実施側の漏れが起きやすい |
| ストレスチェックの集団分析区分に被災対応部署を設定 | 実施前 | 産業保健 | 事後の切り出しは困難 |
| 9月の衛生委員会に被災対応業務の負荷を議題化 | 9月の委員会 | 産業保健 | 議事録に残す |
| 暑熱下の現地確認業務の同行・時間帯・水分補給を運用ルール化 | 9月第1週 | 安全衛生 | アラート日は単独行動を避ける |
| 3か月時点(10月下旬)の再評価日を今のうちに設定 | 9月中 | 産業保健 | 予定表に入れて流さない |