8月10日の月曜で、発災から2週間になる。この時期は、初期の緊張が切れる一方で、外からの関心と支援が細り始め、職場の中では「そろそろ普通に戻ろう」という空気が生まれる。不調が最も申告されにくくなるのは、被害が最も大きかった日ではなく、周囲が日常に戻り始めた日である。この記事は、被災地の産業保健職・人事総務・管理職に向けて、申告を待たずに不調を見つける仕組みを、来週の実務として設計するためのものである。発災数日以内に働く「自分はまだマシだ」という抑制の心理は記事009で、1か月後以降の長期の見方は記事015で扱った。ここでは、その間にある2週間目に絞る。
なぜ2週間目に申告が減るのか
理由は三つある。
一つ目は、生理的な反動である。発災直後は交感神経が優位になり、疲労も痛みも自覚されにくい。その状態が2週間続いたあと、緊張が切れると、不眠・食欲不振・頭痛・易疲労といった形で症状が一気に表面化する。ただしこのとき本人は、症状の原因を地震ではなく「夏バテ」や「気のゆるみ」に帰属させやすい。だから受診にも申告にもつながらない。
二つ目は、比較の基準が動くことである。2週間経つと、周囲の被害状況が見えてくる。家が全壊した同僚、家族を亡くした同僚が身近にいるとわかった時点で、断水が続いているだけの人、避難所から通っているだけの人は「自分は言うほどではない」と判断する。熊本県の8月7日14時時点の集計では、住家被害は計1万7,306棟、うち全壊699棟である。同じ職場の中に、全壊した人と一部破損の人が並んでいる。
三つ目は、職場側の空気である。復旧が進み始めると、業務量は減らないまま「もう平常運転」という前提が敷かれやすい。停電は8月1日に全面解消し、八代市の都市ガスも来週中に概ね復旧する見通しが示された。復旧の報が続く時期こそ、まだ復旧していない人が声を上げにくい。
熊本の2週間目は「差が開く」時期になる
今回の特徴は、地域によって回復の速度が大きく違うことである。断水は8月7日14時時点で約3万6,730戸が続いており、八代市・宇城市・甲佐町・氷川町に集中している。解消は8月末を目途とされ、あと3週間ある。一方で熊本市の断水はほぼ解消し、停電も全県で解消した。九州新幹線の熊本〜新水俣と鹿児島本線の宇土〜八代は8月中の再開が困難とされ、通勤の負荷も地域で割れている。
同じ会社の中に、水が出る事業場と出ない事業場、通勤が戻った人と戻らない人が同時に存在する。この「差」が、申告のしにくさを増幅させる。復旧が進んだ側から見ると、遅れている側の困りごとが見えなくなる。被災地外の本社が判断を誤りやすいのもこの局面で、その点は記事008で扱った。
手続きの負荷が、この2週間に集中する
2週間目は、生活再建の手続きが本格化する時期でもある。住家被害認定調査は災害救助法適用21市町村のうち18市町村で始まり、住宅の応急修理は17市町村、賃貸型応急住宅は12市町村で受付中である。ホテル・旅館への宿泊支援は申込868件のうちマッチング済みが88件、調整中が349件(いずれも8月7日14時時点)で、待たされている人が多い。
これらはすべて平日の日中に動く手続きである。仕事を持つ被災者は、勤務時間と窓口の時間を奪い合うことになる。罹災証明の窓口対応をどう支えるかは記事022で扱った。ここで押さえたいのは、手続きの負荷それ自体が疲労とストレスの源になっており、しかも「休みをもらっている」という負い目を通じて、体調の申告をさらに抑える方向に働くという点である。
申告を待たずに見つける三つの経路
勤怠データ。この時期に見るべきは、欠勤ではなく、遅刻・早退・時間単位有給の増加、休憩の取得パターンの変化、そして残業の「不自然な減少」である。作業速度が落ちていることを本人が気づかずに、定時で帰るようになることがある。逆に、避難所にいたくないために残業が増える人もいる。どちらも方向は違うが変化である。
管理職からの二次情報。本人に「大丈夫ですか」と聞くより、管理職に「最近、様子が変わった人はいますか」と聞くほうが拾える。表情、口数、ミスの質(うっかりミスか、判断ミスか)、身だしなみの変化を具体的に挙げて聞くと精度が上がる。
生活状況の変数。避難所・車中泊・在宅避難の別、断水の有無、家族の被災状況、通勤時間の変化。これらは体調を聞かなくても把握でき、しかも聞かれることに抵抗が生じにくい。生活状況が悪い人から順に面談を設定すれば、「不調だから呼ばれた」という形を避けられる。
面談の入り口を、本人の申告に依存させない
来週、次の三つを決めておきたい。
第一に、面談を「全員対象」にすること。個別に呼び出すと選別のニュアンスが出る。全員に短時間の面談枠を割り当て、その中で生活状況を聞く形にすれば、申告のハードルが消える。人数が多い場合は、生活状況の変数で優先順位をつけて順番に回す。
第二に、聞き方を体調から始めないこと。「よく眠れていますか」より「昨夜はどこで寝ましたか」「水はどうしていますか」のほうが答えやすく、そこから睡眠や食事の話に入れる。給水に費やしている時間の話は記事030で扱った枠組みが使える。
第三に、受診につなぐ先を先に決めておくこと。医療機関の断水は30施設まで減ったが、かかりつけが動いていない人はまだいる(厚生労働省第42報・8月7日13時現在)。どこに紹介するかを決めずに面談すると、拾っても行き先がない。記事033で整理した経路を、面談の前に確認しておきたい。
なお、この時期に最も申告しないのは、支援する側と経営者本人である。惨事ストレスは記事007、経営者自身の健康は記事018で扱った。面談の名簿から自分と管理職を外さないことを勧めたい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 区分 | 実施すること | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 設計 | 全員対象の短時間面談を設定し、日程を週内に確定する | 8月10日〜14日 |
| 設計 | 生活状況(避難所・断水・家族・通勤)で優先順位をつける | 8月10日 |
| 設計 | 面談の質問は「昨夜どこで寝たか」「水はどうしているか」から始める | 事前 |
| 設計 | 受診・相談の紹介先を先に確定し、面談者全員に共有する | 面談開始前 |
| 把握 | 遅刻・早退・時間単位有給・残業の増減を個人別に確認する | 週次 |
| 把握 | 管理職に「様子が変わった人」を具体的な観点で聞く | 週次 |
| 把握 | 手続き(罹災証明・応急修理・仮設申込)の進み具合を聞き、休暇を出す | 面談時 |
| 環境 | 「もう平常運転」という発信を管理職から出させない | 即日 |
| 環境 | 復旧が進んだ部署と遅れた部署の負荷差を、業務量の再配分で調整する | 週内 |
| 対象 | 産業保健職・管理職・経営者自身を面談対象に含める | 週内 |
| 記録 | 拾った不調は軽微なものも記録し、1か月後の面談で再確認する | 継続 |
| 準備 | お盆期間の勤務・帰省・受援の設計と突き合わせる | 8月12日まで |
2週間目に見つからなかった不調は、次に表面化するのが1か月後か3か月後になる。そのときには、原因が地震だったことすら本人がたどれなくなっている。来週の面談は、その時間差を縮めるための投資である。