この記事は、被災地の人事総務・経営層と、通勤の負担を面談で拾う産業保健職に向けたものです。8月31日から9月1日にかけて、通勤と物流に関わる交通の見通しが立て続けに示されました。ひとつは「9月1日に戻った」経路、ひとつは「2年かかる」経路です。同じ会社の中で、経路ごとに終わりの日付がまったく違う状態になりました。ここを一律の「災害時暫定運用」で括ったままにすると、戻せるはずの制度が戻らず、逆に2年続く負担が暫定扱いのまま放置されます。本日時点で分かっている四つの時間軸を並べ、9月のうちに手を付ける順番を整理します。
いま、時間軸は四つに割れている
9月2日7時時点で公表・報道されている見通しを、早く戻る順に並べると次のようになります。
第一に、すでに戻った経路。肥薩おれんじ鉄道の肥後田浦〜水俣間が、9月1日の始発から運行を再開したと報じられています。代行バスと自家用車で凌いでいた区間の一部が、9月1日から鉄道に戻りました。
第二に、9月18日。九州新幹線の熊本〜新水俣間が同日に再開する見込みです。これは記事081で扱ったとおり、出張・受援・単身赴任の暫定運用に初めて終わりの日付が入った局面でした。あと2週間強です。
第三に、10月中旬。鹿児島本線の宇土〜八代間の再開見込みです。記事053で組み直した代行バス前提の勤務設計は、少なくともあと6週間続きます。
第四に、およそ2年。西日本高速道路が8月31日、南九州自動車道の八代市内の高架橋について、1メートル以上の段差が生じており、復旧には少なくとも2年かかるとの見通しを示したと報じられています。ここが決定的に性質の違う数字です。
「2年」は暫定運用の対象から外す
災害時の暫定運用は、原則として「元に戻るまでの間」を前提に設計されています。特別な通勤手当、始業時刻の繰り下げ、直行直帰の許可、単身赴任の据え置き。いずれも終わりが見えているから、例外として回せます。
2年という数字は、この前提を壊します。2年は、新入社員が一人前になり、健診が2回まわり、就業規則が改定される長さです。ここを「暫定」のまま放置すると、根拠の弱い運用が既成事実として積み上がり、担当者が交代したときに誰も理由を説明できなくなります。
南九州自動車道の通行止めを日常的な通勤・配送の前提としている事業場は、9月のうちに次の切り替えを検討したいところです。ひとつは、迂回に要する時間を所定労働時間の外側に置き続けるのか、始業・終業時刻そのものを改定するのか。ひとつは、通勤手当の経路認定を「災害特例」ではなく通常の合理的経路として認定し直すこと。ひとつは、配送・出張の所要時間を見積もりの標準値として更新し、無理な行程が現場判断で組まれないようにすることです。
戻った経路から、順に解除する
一方で、戻った経路の暫定措置は速やかに畳む必要があります。畳まないと、地域や職種による不公平が社内に残ります。
肥薩おれんじ鉄道の一部再開は、対象がごく限られた区間です。まず、その区間を使う従業員が誰なのかを名簿で特定してください。記事085で扱った減圧給水地域と同じで、「市町村単位で線を引くと、実際に困っている人と一致しない」のがこの局面の特徴です。
そのうえで、解除は当人に予告してから行います。マイカー通勤許可や特別手当を、本人の知らないところで月初に打ち切ると、生活の組み立てが崩れます。記事089で整理した学校再開に伴う時差出勤の解除と同じ考え方で、「何を、いつ、誰から順に戻すか」を書面にしてから動かすのが安全です。
二つの日付を、いまから準備する
9月18日と10月中旬は、まだ来ていません。だからこそ、準備は9月上旬にしかできません。
9月18日の新幹線再開に向けては、出張規程の暫定運用(航空機利用の特例、宿泊上限の緩和、前泊の許可など)の切り戻し日を決め、そこから逆算して周知します。再開日当日は混雑が予想されるため、切り戻しを再開日と同日にせず、数日から1週間の重なりを置く運用が現実的です。
10月中旬の鹿児島本線再開は、代行バスの終期と重なります。代行バスは輸送力が鉄道より小さく、遅延も出やすい前提で始業時刻を繰り下げてきた事業場が多いはずです。切り戻しの検討材料として、9月中に代行バスの実際の所要時間と遅延実績を各人から集めておくと、10月の判断が具体的になります。
通勤経路が変わる人は、届出と労災の扱いも変わる
経路が戻る、あるいは変わるということは、通勤災害の認定に関わる「合理的な経路及び方法」が変わるということです。記事076で扱った応急住宅への入居と同じく、届出の更新が漏れると、事故が起きたときに扱いが不安定になります。
また記事082のとおり、通勤手当の非課税限度額は経路と距離で変わります。経路が戻った人、応急住宅に移った人、迂回が2年続く人が同じ職場に混在するのが9月です。人単位で確認しないと合いません。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認事項 | 期限の目安 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1 | 従業員の通勤経路を、四つの時間軸(再開済/9月18日/10月中旬/約2年)のどれに当たるか名簿で分類した | 9月上旬 | 人事総務 |
| 2 | 肥薩おれんじ鉄道の再開区間を使う人を特定し、暫定措置の解除日を本人に予告した | 9月上旬 | 人事総務 |
| 3 | 南九州自動車道の迂回を前提とする勤務・配送を、暫定ではなく恒常の運用として設計し直す方針を決めた | 9月中 | 経営層・人事総務 |
| 4 | 出張規程の暫定運用について、9月18日を起点とした切り戻し日を決め、重なり期間を設けた | 9月上旬 | 人事総務 |
| 5 | 代行バスの実所要時間と遅延実績を9月中に収集する仕組みを作った | 9月中 | 人事総務・管理職 |
| 6 | 通勤経路変更の届出を、経路が変わった人全員から取り直した | 9月中 | 人事総務 |
| 7 | 通勤手当の非課税限度額を、変更後の経路・距離で再計算した | 9月中 | 人事総務 |
| 8 | 迂回・長時間通勤が続く人の疲労と睡眠を、9月の面談項目に入れた | 9月の面談前 | 産業保健職 |
| 9 | 解除・変更の理由と根拠を、担当者交代に耐える形で文書化した | 9月中 | 人事総務 |
最後の項目が、実は一番落ちやすいところです。2年続く運用は、いまの担当者では終わりません。