092_相談先の看板が「対策本部」から「復興本部」に変わる — 体制移行の週に、事業場の窓口と記録を付け替える

この記事は、被災地の人事総務・産業保健職と、被災地外から支援してきた本社担当者に向けたものです。9月1日、政府は閣議で「令和8年熊本地震非常災害復旧復興本部」の設置を決めました。熊本県も8月31日に復旧・復興本部を設置し、10月下旬をめどに復旧・復興プランを策定するとしています。行政の看板が「対策」から「復旧・復興」へ変わる週です。事業場の側から見ると、これは連絡先と根拠資料と判断の枠組みが静かに入れ替わることを意味します。何も動かさずにいると、9月半ばに「どこに聞けばよいか分からない」状態が起きます。

目次

何が変わったのか

政府は9月1日の閣議で非常災害復旧復興本部の設置を決定しました。本部長は内閣総理大臣で、人的被害、家屋・建物の損壊、道路や水道等のインフラの寸断といった被害に対し、中長期的な観点から支援体制を構築する趣旨とされています。

熊本県は8月31日に復旧・復興本部を設置し、10月下旬をめどに復旧・復興プランを策定する方針を示したと報じられています。あわせて県は1,000億円余りの補正予算案を県議会に提出し、総務省は普通交付税616億円を追加で繰り上げ交付する方針を示したとされます。

もう一つ、9月1日には建物などの被害の原因を分析する委員会の初会合が開かれ、国土交通大臣は工場の煙突が倒壊した事案を受けて、法律に基づき劣化状況を報告する対象を広げる方向で再発防止策を検討する考えを示したと報じられています。これは事業場が保有する工作物に将来関わってくる話です。

社内の照会先一覧を、今週のうちに付け替える

7月末から8月にかけて、多くの事業場が「災害時の照会先一覧」を作りました。県の災害対策本部、市町村の対策本部、労働局の特別労働相談窓口、保健所、水道局。この一覧が、9月に入って部分的に古くなります。

やることは単純です。第一に、一覧の各行について「窓口の名称が変わったか」「番号が変わったか」「担当が復旧・復興側に移ったか」を確認します。第二に、変わった行だけを直します。第三に、直した一覧を、従業員に配った案内文・掲示・イントラの三か所すべてに反映します。ここが一番漏れます。掲示だけ直してイントラが古いまま、という状態が最も紛らわしい。

なお、労働・雇用に関する窓口は性質が違います。熊本労働局の震災関係の特別労働相談窓口のように、復旧・復興段階に入っても機能が続くものは、名称も所管も変わりません。記事020で整理した公的支援の一覧のうち、労働・社会保険関係は引き続き有効と考えて差し支えありません。変わるのは主に、復旧事業・インフラ・まちづくりに関わる側です。

「応急」の記録を、いま形にして残す

体制が移行する時期は、記録が失われる時期でもあります。対策本部が畳まれると、そこにあった日々の判断メモ、連絡ログ、シフト表が誰の管理下にあるのかが曖昧になります。

記事061で、発災1か月を数字で残すことを扱いました。9月上旬は、その続きにあたります。少なくとも次の四つは、担当者の記憶が残っているうちに文書化しておきたいところです。

ひとつ、暫定運用の一覧と、それぞれの根拠・開始日・想定終期。ふたつ、休業・休暇・特別扱いをした人数と日数の実績。みっつ、断水・停電・通勤支障で操業を止めた日と、その判断者。よっつ、産業保健の側で拾った不調の件数と、つないだ先。

これらは、来年の防災計画の見直し(記事090)と、災害関連死・労災の判断(記事067)の両方で必要になります。いま作れば10分の作業が、半年後には再現不能になります。

財政が動くと、受注と労働時間が動く

県の補正予算1,000億円余と、普通交付税616億円の繰り上げ交付は、抽象的な財政の話に見えて、地域の事業場には具体的に降りてきます。公共工事、解体、仮設、インフラ復旧。これらの発注が9月以降に本格化すれば、受注する側の労働時間と労働災害のリスクが上がります。

すでに記事056で、復旧・復興事業で外れる規制と外れない規制を分けて管理することを扱いました。9月は、その管理が実際に試される月です。とくに、これまで受注していなかった業種の事業場が復旧関連の仕事を取り始めるときに、安全衛生管理体制が仕事量に追いつかないことがあります。

産業保健職としては、次の兆候を9月の巡視と面談で拾いたいところです。時間外労働の分布が一部の人に偏り始めていないか。新規に採用した人・応援で来た人に、その現場固有の危険が伝わっているか。記事072で扱った注文者としての責任が、発注側に立つ事業場で意識されているか。

体制移行そのものが、担当者に効く

最後に、産業保健の観点からもう一点。行政の体制が移行するとき、事業場側の担当者は「もう終わったのだから、元の仕事に戻れ」という圧力を受けます。しかし実際には、応急対応の仕事は減らず、通常業務が上乗せされるだけであることが多い。

記事086で、支援が引いたあとに担当者が残る問題を扱いました。9月1日の体制移行は、その圧力が制度の形をとって現れる日です。人事総務・安全衛生担当・産業保健職自身の業務量を、9月の衛生委員会で一度数字にして出すことを勧めます。誰かが数字にしない限り、この負荷は見えません。

また、支援チームの側も縮小しています。DPATは4隊、保健師等チームは29チーム(いずれも8月31日時点)で、8月下旬から減っています。記事080で整理したつなぎ先の一覧は、体制移行に合わせて9月中に一度更新しておきたいところです。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#確認事項期限の目安担当
1災害時照会先一覧の各行について、名称・番号・所管の変更を確認した9月上旬人事総務
2変更を、従業員向け案内文・掲示・イントラの三か所すべてに反映した9月上旬人事総務
3労働・社会保険関係の窓口は変わらないことを、社内に明示した9月上旬人事総務
4暫定運用の一覧(根拠・開始日・想定終期)を文書化した9月中人事総務
5休業・休暇・特別扱いの実績(人数・日数)を集計した9月中人事総務
6操業停止の判断日と判断者を記録に残した9月中経営層・安全担当
7産業保健で拾った不調の件数とつなぎ先を集計した9月中産業保健職
8復旧関連の受注増に伴う時間外労働の偏りを確認した9月の衛生委員会安全衛生担当
9つなぎ先一覧(相談窓口・医療機関・保健所)を体制移行後の形に更新した9月中産業保健職
10担当者自身の業務量を数字にして衛生委員会に出した9月の衛生委員会産業保健職・人事総務

看板が変わる週は、仕事が減る週ではありません。整理をする週です。

参考

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