本記事は2026年8月1日(JST)時点の情報に基づいています。罹災証明書の受付開始時期・申請方法・支援制度の内容は市町村により異なり、今後変わります。案内の前に必ず該当市町村の最新発表を確認してください。
発災から5日目、最初の土曜日です。停電は7月31日17時5分ごろ解消しましたが(九州電力送配電発表。ピーク時約4万8,500戸)、断水は約7万7,000〜7万9,100戸で継続しています(国土交通省/熊本県災害対策本部、7月31日7時30分時点。発表主体により数値が異なります)。8月1日には熱中症警戒アラートも出ています。
その一方で、被災した従業員の生活再建は今日から「手続き」の段階に入ります。週明け8月3日(月)から自治体の窓口業務は本格化します。本稿は、この土日のうちに職場が準備できることを罹災証明書を軸に整理します。
1. 日本の被災者支援は「申請しないともらえない」
被災者生活再建支援金も、義援金も、災害援護資金も、税や保険料の減免も、原則として本人が申請して初めて動きます。制度を知らない人、申請できない状況にある人は、支援から静かに漏れます。これは能力の問題ではなく、制度の設計がそうなっているというだけのことです。
そして職場は、被災した従業員と週5日顔を合わせる数少ない継続的な接点であり、「知らないまま損をする」ことを防げる位置にいます。既刊020で整理した公的支援の入口を、今度は「実際に窓口へ行く」ところまで具体化するのが今回のテーマです。
2. 今日・明日いちばん急ぐこと — 片付ける前に、写真を撮る
これだけは断言します。被害箇所を片付ける前・修理する前に、写真を撮ってください。
内閣府の「住まいが被害を受けたとき 最初にすること」は、外観をなるべく4方向から、被災した部屋ごとに全景と被害箇所の近景を、浸水した場合は深さがわかるように(メジャーを当てて)撮ることを求めています。宇土市も「片付けや修理の前に家屋の被害状況を写真に撮っていただきますようお願いいたします」と明示しています(2026年7月31日更新)。
週末は多くの従業員が自宅の片付けに、あるいはボランティアに(既刊021)向かいます。土曜朝の一斉メール・掲示1枚が、後の被害認定を左右します。片付けを止める必要はありません。「撮ってから片付ける」だけです。
3. 罹災証明書とは何か、いま熊本県内はどうなっているか
罹災証明書は災害対策基本法第90条の2に基づくもので、市町村長は被災者から申請があったとき、遅滞なく住家の被害状況を調査し、被害の程度を証明する書面を交付しなければならないとされています(内閣府)。判定に納得できない場合の道も用意されています。地震の場合、第1次調査(外観目視)の判定に納得できなければ第2次調査(建物内部への立入調査)を、その結果にもなお納得できなければさらに再調査を依頼できる仕組みです(内閣府「第5章 罹災証明書の交付と第2次調査・再調査の実施」)。一度目の判定が最終ではないことは、従業員に伝えておく価値があります。
2026年8月1日時点で公式サイト等により受付開始を確認できたのは次のとおりです。
- 熊本市:窓口は7月30日9時から(各区役所福祉課・7か所の総合出張所、平日9〜16時)。オンライン申請は既に受付開始。申請期限は令和8年10月31日で、うち窓口での受付は10月30日(金)まで(市の支援制度冊子第1版、7月29日時点)。10月31日は土曜であり、窓口は開いていません
- 宇土市:7月30日から。市役所庁舎1階会議室、9〜17時、当面の間は土日祝日も受付
- 宇城市:本庁は7月31日から、三角支所・豊野支所は8月1日から。9〜16時、当面の間は土日も開設
- 上天草市:7月29日から
- 益城町:7月29日更新のページで「受け付けをすでに開始しています」。税務課、平日のみ9〜17時
デジタル庁は7月30日、県内16市町で罹災証明書のオンライン申請ができると案内しています(7月29日時点の情報)。うち熊本市・八代市・宇土市・上天草市・氷川町など15市町がマイナポータル、益城町のみ町独自のオンラインフォームです。従業員に案内するときは、自分の市町村がどちらの窓口かまで確認してください。
一方で、8月1日時点で全市町村の受付開始状況は確認できていません。上記以外については各市町村の発表を確認してください。開設時間や土日対応は自治体ごとに大きく異なります。なお、自治体職員自身も被災者であり支援の対象です(既刊007)。窓口の混雑は怠慢ではなく、限られた人員に申請が集中する構造の帰結です。
4. 窓口は平日・日中に開く — 休暇の扱いを、今週末に決める
ここが人事総務の判断どころです。窓口の多くは平日9時台から16〜17時台。働いている人は、仕事を抜けなければ行けません。しかも罹災証明の申請→被害認定調査の立会い→交付→各制度への申請と、窓口に行く機会は一度では終わりません。
選択肢は、年次有給休暇を使わせる、特別休暇(災害休暇)を設ける、時間単位年休や中抜けを認める、時差出勤を認める、などです。特別休暇は法律上の義務ではなく企業が任意に設ける制度であり(厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」)、設けるかどうかは経営判断です。個別の適用可否や規程の書き方は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。本記事で断定はできません。
言い切れることは一つ。この判断を月曜の朝までに決めておくこと。「その都度相談」にすると、言い出しにくい人から手続きが遅れます(既刊009)。決めて、掲示して、上長に周知する。それだけで負担はかなり下がります。
5. 主な制度と、職場が案内できること
| 制度 | 窓口 | 罹災証明書 | 職場が案内すべきこと |
|---|---|---|---|
| 罹災証明書の交付 | 市町村(区役所・支所等) | — | 片付け前の写真撮影。開設時間・土日対応・オンライン申請の可否。判定に納得できなければ再調査を依頼できること |
| 被災者生活再建支援金 | 都道府県・市町村(内閣府資料) | 前提となる | 住家の被害程度で区分される。金額・要件・申請期間は市町村の発表を確認 |
| 住宅の応急修理(災害救助法) | 都道府県・市町村 | 前提となる | 応急仮設住宅を利用しない場合が対象(内閣府)。どちらを選ぶかで先の選択肢が変わるため、決める前に窓口で相談を。熊本市は限度額757,000円(全壊〜半壊)/367,000円(準半壊)、期限を令和8年10月27日と公表 |
| 災害援護資金(貸付) | 市町村 | 通常必要(市町村の案内を確認) | 貸付限度額350万円、据置期間中は無利子等の枠組み(内閣府、令和7年6月1日現在)。所得制限あり。今回の適用条件は市町村の発表を確認 |
| 災害弔慰金・災害障害見舞金 | 市町村 | 状況による | 額は市町村条例で定まる。遺族対応の場面で人事が把握しておく |
| 義援金 | 県(配分委員会)・市町村 | 住家被害に係る配分では前提となる | 熊本県が7月29日に受付を開始(受付期間は10月30日までの予定)。死亡・重傷を基準とする区分もある。配分時期・区分は追って発表される |
金額・要件は制度改正や災害ごとの運用で変わります。社内案内では金額を断定せず、「窓口で確認を」と添えてください。
6. 手続き疲れを、健康問題として見る
同じ話を窓口で何度も説明し、書類を揃え直し、猛暑のなか行列に並び、生活再建を左右する判定を待つ。これは相当な負荷です。2024年能登半島地震で震源に近い医療機関1施設の震災関連の新規精神科受診109例を分析した研究では、受診は発災1か月以内に集中したのち中期回復期(2〜12か月)に最も多くの症例が生じ、転居・住宅関連の問題が共通するストレッサーとして挙げられています(DOI: 10.1002/pcn5.70319)。また、米国フリント市の水道汚染事件でコミュニティリーダー6名に聞き取った質的研究は、支援資源として用意されたものが個人や地域の必要と噛み合わないとき、それ自体がストレッサーとして働きうることを示しています(DOI: 10.1007/s11013-024-09887-z)。いずれも小規模かつ文脈の異なる研究であり、そのまま今回に当てはめることはできませんが、手続きそのものが負荷になりうるという視点は共有に値します。
産業保健職への提案は具体的です。面談の聞き取り項目に「手続きの進み具合」を1行入れてください。「眠れていない」「窓口で怒鳴ってしまった」「もう申請するのをやめた」といった訴えは、その人の性格の問題ではなく手続き負担の帰結として見るのが妥当です。放置すれば疲弊・不眠・受診の先送りにつながり、リスク要因になりえます(既刊006、015)。
また、窓口に行くこと自体が構造的に難しい人がいます。日本語での説明や書類記入に困難がある外国人従業員(既刊017)、子どもや要介護家族を抱えて日中に離れられない従業員(既刊016)です。代理申請(委任状)・郵送・オンライン申請の可否を職場が先に調べておけば、負担は大きく変わります。部署単位で窓口に行く日を分散させる配慮も有効です。申請期限には数か月の幅があり(熊本市は令和8年10月31日、うち窓口受付は10月30日までと公表)、初日に並ぶ必要はありません。
従業員向け配布用:申請手続きを進める方へ(9項目)
- 片付け・修理の前に、被害の写真を撮る。外観は4方向、部屋ごとに全景と被害箇所の近景。浸水はメジャーを当てて深さがわかるように
- 撮った写真はスマホの中だけにせず、クラウドや家族の端末にも保存しておく
- 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)を、まず1か所にまとめる
- 自分の市町村の窓口が「いつ・どこで・何時から」開いているかをWebで確認する。土日に開けている自治体もある
- マイナポータルでのオンライン申請、郵送申請、代理申請(委任状)が使えるか確認する。窓口に行かずに済む道があるかもしれない
- 窓口に行く日が決まったら、上長に早めに伝える。休暇の扱いは会社が決めている
- 被害認定の判定に納得できないときは、市町村にもう一度調べてもらうよう依頼できる(第2次調査・再調査)。一度目が最終ではない
- 手続きは一度では終わらない。全部を一日で片づけようとせず、期限を確認して分ける
- 眠れない、食べられない、いらいらが続く——手続き疲れは体に出る。産業医・保健師に遠慮なく声をかける
制度は待っていても向こうから来ません。しかし、被災した従業員がひとりで制度に近づかなければならない理由もありません。掲示1枚と、休暇の扱いを決める10分の会議。今日と明日にできることは、それで十分に大きいと思います。
参考(2026年8月1日確認)
- 内閣府「罹災証明書の概要」(災害対策基本法第90条の2)
- 内閣府「第5章 罹災証明書の交付と第2次調査・再調査の実施」
- 内閣府「被災者支援に関する各種制度の概要」(令和7年6月1日現在)
- 内閣府「6.住宅の応急修理」(応急仮設住宅との関係を確認する目的で参照。記載の限度額は作成当時のもので、今回適用される額は市町村の発表を確認してください)
- 内閣府「住まいが被害を受けたとき 最初にすること」(写真の撮り方)
- 熊本県「令和8年熊本地震に関する情報」
- 熊本県「令和8年熊本地震に係る義援金の受付について」
- 熊本市「住家の『り災証明書』の発行について」
- 熊本市「店舗・事業所等の『り災証明書』の発行について」
- 熊本市「令和8年熊本地震被災者支援制度(第1版・令和8年7月29日時点)」PDF
- 宇土市「令和8年熊本地震における住家の『り災証明書』について」
- 宇城市「令和8年熊本地震の罹災証明・罹災届出証明の申請を受け付けます」
- 上天草市「令和8年熊本地震に関する罹災証明書・被災証明書の発行について」
- 益城町「令和8年熊本地震に伴う罹災証明書の発行について」
- 八代市「令和8年熊本地震 関連情報」
- デジタル庁「罹災証明書(り災証明書)をオンラインで申請する方法【令和8年熊本地震】」
- 熊本日日新聞「罹災証明申請、受け付け開始 熊本市」(2026年7月30日)
- 厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト 特別な休暇制度」