本記事は2026年7月28日23時時点の情報に基づく。状況は流動的であり、最新の公的発表を優先すること。また本記事は法的助言ではなく、在留資格・雇用・労災保険の個別の取扱いは、地方出入国在留管理局、所轄労働基準監督署、社会保険労務士に確認のうえ判断されたい。
2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市豊野町と氷川町島地で震度7を観測した。有明海・八代海には津波注意報が発表され、その後解除された。九州7県に熱中症警戒アラートが出るなかでの被災である(記事02参照)。
熊本県の半導体・自動車部品・食品加工・農業には、多くの外国人労働者が働いている。本稿は、日本語の情報から構造的に外れた位置にいる人たちに事業場として何ができるかを整理する。
「余震」「津波注意報」は、災害でしか使わない日本語である
日常会話ができる人でも、災害用語は通じないことがある。日常生活で見聞きせず、学習の対象にもなりにくいからである。福岡アジア都市研究所の報告は、2016年熊本地震の際に津波注意報の解除を知る手段がなく約30時間不安を抱え続けた外国人の事例を挙げ、震度7がどの程度の揺れか想像できない人がいることにも触れている。地震を経験したことがない人、緊急地震速報の警報音の意味を知らない人がいる。そこから始めたい。
弘前大学社会言語学研究室の「やさしい日本語」は、この壁への処方である。簡単な語彙、短い一文、曖昧表現と二重否定の回避、漢字へのふりがな。災害用語の言い換え例も示されている。
| 通常の表現 | やさしい日本語 |
|---|---|
| 避難してください | にげてください/あんぜんなところへ いってください |
| 余震 | あとから くる じしん |
| 断水 | みずが でません |
| 給水車 | みずを くばる くるま |
| 炊き出し | あたたかい たべものを つくって くばります |
出入国在留管理庁・文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月)は、一文に言いたいことは一つだけ、三つ以上は箇条書き、外来語は避ける、すべての漢字にふりがなを付けることを求めている。ふりがなは漢字の上か、後ろにかっこ書きで添える。消防庁の資料にも「落ち着いて避難してください」を「すぐ逃げてください」とする例がある。
届かないのは、語学力の問題ではなく経路の問題である
防災行政無線、日本語のテレビ、回覧板、自治会の連絡網。いずれも地域社会の成員であることを前提に組まれた経路である。寮に住み地縁組織に入っていない人は、語学力と無関係にこの経路の外側にいる。だからこそ、職場が唯一の情報入手経路になっている人がいる。事業場が発信をやめれば何も届かない。ここに事業場の責任が生じる。翻訳を自前で用意する必要はない。
| 資源 | 内容 |
|---|---|
| 気象庁ホームページ | 警報・地震・津波情報の多言語提供。「緊急地震速報の多言語辞書」にはやさしい日本語版もある |
| Safety tips(観光庁監修) | 緊急地震速報等のプッシュ配信、避難行動フローチャート、指さしカード |
| 外国人生活支援ポータルサイト/CLAIR | 生活・仕事ガイドブック多言語版、災害時多言語表示シート |
| FRESC/外国人労働者向け相談ダイヤル/技能実習機構母国語相談 | 在留・労働・人権・実習環境の相談 |
| AMDA国際医療情報センター/外国人患者受入れ情報サイト | 多言語の電話医療相談・電話医療通訳 |
そのまま使える連絡文例
安否確認と生活情報は同じ文面で送るのが現実的である。配布時はすべての漢字にふりがなを付す(ワープロのルビ機能で足りる)。一文が短いほど翻訳アプリの誤訳も減る。
かいしゃから おしらせ
7月28日、おおきい じしんが ありました。
- きょうと あしたは かいしゃに こないで ください。
- あなたは げんきですか。これを みたら、へんじを ください。「げんきです」だけで いいです。
- けがを しましたか。びょういんに いきたい ときは、でんわして ください。つうやくを よういします。
- あとから くる じしんが あります。たてものが あぶない ときは、そとに でて ください。
- みずが でない ところが あります。みずを くばる くるまが きます。ばしょは あとで しらせます。
- きょうは とても あついです。みずと しおを とって、すずしい ところに いて ください。
- おかね、いえ、かぞくの ことで こまった ときは、かいしゃに そうだんして ください。そうだんしても、あなたの ビザ(ざいりゅうしかく)と しごとは なくなりません。
れんらくさき:〇〇(でんわ 000-0000-0000)
「相談したら不利になる」という恐れが、援助希求を止める
7の一文を太字にしたのには理由がある。在留資格や雇用が事業主との関係に依存していると、体調不良を訴えること、帰国を希望すること、避難所に行くことそれ自体が立場を悪くするのではという恐れにつながり、痛みや発熱を隠す方向に働く。「相談しても不利にならない」と繰り返し伝えたい。社外の相談先を併記すれば、会社に言いにくい事柄の逃げ道にもなる。
労災保険は国籍・在留資格を問わない
業務上の負傷・疾病であれば、労災保険の給付は国籍や在留資格によって左右されるものではない。外国人労働者の雇用管理指針(平成19年厚生労働省告示)は、事業主に労働基準法・労働安全衛生法・労働者災害補償保険法等の遵守を求め、労働災害等が生じた場合には請求手続の相談に応じ、手続を代行するなど必要な援助に努めることを求めている。復旧作業中の負傷を「天災だから労災ではない」と自社で整理しないこと。同指針は安全衛生教育を本人が理解できる方法で行うことも求める(記事05参照)。
熱中症の説明は、とりわけ届きにくい
停電で空調が止まり、避難所や車中で夜を過ごす人が出る(記事03参照)。ところが熱中症の初期症状を訴える語彙は、日常の日本語学習でまず扱われない。「めまい」「立ちくらみ」「こむら返り」を自分から言える人は少なく、我慢が重症化に直結する。厚労省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」は予防リーフレットを多言語で公開している。2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、事業者には報告体制の整備、対応手順の作成、関係労働者への周知が罰則付きで義務づけられた。周知は「理解できる方法で」行われてはじめて周知である。
帰国したい人、留まる人、母国の家族
帰国を望む人と、仕事を続けるため留まる人の双方が出る。どちらの希望も生活再建の方針として尊重されたい。在留手続については、過去の災害で特例的な取扱いが示された例がある。令和6年能登半島地震では、出入国在留管理庁が、一時避難した人は滞在先を管轄する入管で申請できること、被災地の就労資格者への1日8時間以内の資格外活動許可の特例、被災事業所での瓦礫の片付け等の復旧作業には技能実習生も資格外活動許可なく従事できること、在留期間の満了日の延長などを示した(いずれも期限をもって終了)。今回同様の措置があるかは現時点では確認されていない。自社で解釈せず、地方出入国在留管理局に確認する。
母国の家族が心配していることも忘れたい。充電とWi-Fiを確保し、「本人は無事」と会社から言えるようにするだけで負担は軽くなる。
避難所・寮での宗教・文化的配慮
内閣府の「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」は、文化・宗教上の理由で食べられない食料がある避難者への配慮、分かりやすい言葉や絵・写真による情報提供、通訳を配置した相談体制への配慮を挙げている。前掲の福岡アジア都市研究所の報告は、2016年熊本地震で避難した外国人が最も困ったこととして食事を挙げ、ハラル食やベジタリアン食がなかったこと、礼拝スペースやアルコール製品への配慮が不足したことを記録している。備蓄や炊き出しでは原材料表示(豚・牛・アルコール・ゼラチン)を残し、更衣・入浴・トイレの性別区分と時間帯を明示する。
実務チェックリスト
- [ ] 在籍者リスト(国籍、使用言語、日本語の理解度、寮か自宅か)を確認した
- [ ] 安否確認をやさしい日本語+ふりがなで送り、既読でなく返信で確認した
- [ ] 「相談しても在留資格・雇用に不利にならない」と伝え、社外窓口も併記した
- [ ] 寮・社宅の被害、電気・水・食料、Wi-Fiと充電手段を確認した
- [ ] 医療通訳の手配方法と、熱中症を絵と指さしで伝える資料を用意した
- [ ] 復旧作業の安全衛生教育と、労災請求手続の代行・援助の体制を決めた
- [ ] 帰国希望を聴き、在留手続を地方出入国在留管理局に確認した
- [ ] 食事・礼拝・性別への配慮を避難所運営者・給食担当と共有した
日本語で流している限り、自分は伝えたつもりでいられる。そこがこの問題のいちばん厄介なところである。
参考
- 弘前大学 減災のための「やさしい日本語」資源公開のお知らせ
- 弘前大学社会言語学研究室〈増補版〉「やさしい日本語」作成のためのガイドライン(消防庁検討会資料)
- 京都市 「やさしい日本語」12のルール(弘前大学ガイドライン参照)
- 消防庁 場面別「やさしい日本語」例文(検討会参考資料)
- 出入国在留管理庁 在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
- 文化庁 在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(2020年8月)本文PDF
- 気象庁・内閣府・観光庁 緊急地震速報の多言語辞書
- 気象庁 防災気象情報の多言語提供について
- 訪日外国人旅行者用災害時に役立つツール
- 内閣府(防災担当)外国人への災害情報の発信について
- 内閣府 避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針
- 菊澤育代 災害時に外国人が抱える課題(福岡アジア都市研究所)
- CLAIR 災害時の多言語支援
- 出入国在留管理庁 外国人生活支援ポータルサイト
- 出入国在留管理庁 外国人在留支援センター(FRESC)
- 出入国在留管理庁 FRESCの問合せ先
- 出入国在留管理庁 令和6年能登半島地震について
- 出入国在留管理庁 令和6年能登半島地震に伴う在留諸申請の取扱いについて
- 外国人技能実習機構 母国語相談
- 厚生労働省 外国人の雇用
- 埼玉労働局 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針
- 厚生労働省 外国人労働者の雇用管理指針(抄)
- 厚生労働省 確かめよう労働条件 外国人労働者向け相談窓口
- 厚生労働省 STOP!熱中症 クールワークキャンペーン
- AMDA国際医療情報センター
- 外国人患者受入れ情報サイト 医療通訳