学校も保育所も止まっているとき — 育児・介護を抱える従業員の就業をどう支えるか

本記事は2026年7月28日23時時点の情報に基づく。状況は流動的であり、最新の公的発表を優先すること。また本記事は法的助言ではなく、育児・介護休業法をはじめ個別の制度の適用可否・手続きの取扱いは、所轄労働局雇用環境・均等部(室)および社会保険労務士に確認のうえ判断されたい。

2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市豊野町と氷川町島地で震度7を観測した。県内およそ4万8,000戸の停電や熊本市電の全線運休が報じられている(17時25分から18時時点)。
事業を立て直す局面で最初に詰まるのは、設備でも受注でもなく人の生活基盤である。学校と保育所が止まった瞬間、出勤できなくなる従業員は特定の層に集中する。

目次

最初に出勤できなくなるのは誰か

学校施設が避難所となれば、教育活動の再開はその分だけ後ろにずれる。文部科学省の資料は、教職員の第一義的な役割を児童生徒の安全確保・安否確認と学校教育活動の早期正常化に置き、避難所運営はこれを補完する措置と整理している。保育所も、令和6年能登半島地震ではこども家庭庁が代替保育や定員の弾力運用、保育料減免の取扱いを示した。制度上の道はあるが、動き出すには時間がかかる。

その間に出勤できないのは「休みやすい人」ではない。小さな子を抱える人、要介護の家族を抱える人、テレワークができない職種の人、単身で子を育てる人である。放置すれば、起きるのは「休みやすい人が休む」ことではなく「立場の弱い人が辞める」ことである。

現行の法定制度を正確に把握する

育児・介護休業法は2024年に改正され、令和7(2025)年4月1日と10月1日から段階的に施行されている。改正前の知識のまま運用している事業場は少なくない。

制度現行の内容(2025年改正後)
子の看護等休暇小学校第3学年修了までの子。年5日(2人以上は10日)、時間単位可。事由に感染症に伴う学級閉鎖等が追加
介護休暇対象家族1人につき年5日(2人以上は10日)、時間単位可
介護休業対象家族1人につき通算93日、3回まで分割
所定外労働の制限育児は小学校就学前まで対象が拡大。介護も請求可
時間外労働の制限1か月24時間・1年150時間を超えて延長させない
短時間勤務等育児は3歳未満で義務。介護は対象家族1人につき3年以上の間で2回以上
柔軟な働き方の措置3歳から小学校就学前の子について、フレックス・時差出勤、テレワーク等、養育両立支援休暇ほかから2つ以上を選択

子の看護等休暇と介護休暇は、労使協定で除外できるのが「週の所定労働日数2日以下の労働者」のみとなり、継続雇用期間6か月未満を理由に除外できない。入社直後の従業員も対象である。

制度の隙間を先に見つけておく

注意したいのは、子の看護等休暇に追加された事由が「感染症に伴う学級閉鎖等」である点である。人事院のQ&Aも、学校保健安全法の規定による休業・出席停止を軸に説明している。地震による臨時休業が含まれるかは条文上明らかでなく、含まれなければ法定の看護等休暇で今回の休校はカバーできない。所轄労働局に確認したい。

代替は三つ。年次有給休暇の時間単位取得(労使協定により年5日の範囲で可能。送迎や一時預かりの往復といった細切れの離席に適する)、法定を上回る特別休暇の臨時創設、就業時間そのものの組み替えである。

なお過去には、学校等の休業に伴い保護者が休暇を取得した場合に事業主を助成する制度が設けられたことがある(小学校休業等対応助成金・支援金。令和5年3月末で終了)。同種の措置が今回設けられるかは確認されていない。

偏りは自然発生ではなく、運用の結果である

令和6年度雇用均等基本調査では、育児休業取得率は女性86.6%、男性40.5%であった。災害時に「どちらかが家庭に残る」選択が生じると、この差はそのまま出勤可否の差になる。

対策は難しくない。休暇や在宅勤務の案内を、対象となりうる全員に同じ文面で送ることである。「子育て中の女性社員へ」ではなく「未就学児・小学生を養育する従業員へ」と書く。上司が個別に声をかける運用は、相手の選び方に偏りが入り込む。一斉周知を基本に置きたい。

介護を抱える従業員は、そもそも見えていない

同じ調査で、介護休業取得者がいた事業所の割合は1.9%、常用労働者に占める介護休業利用者の割合は0.10%にとどまる。一方、介護離職者は毎年およそ10万人とされ、2030年には家族介護者のうち約318万人が就業しながら介護を担うと推計されている。制度が使われていないのであって、対象者がいないのではない。

被災下では、この不可視の層が最も急激に追い込まれる。施設が被災すれば在宅に戻り、通所や訪問が止まれば家族が代わりを務め、停電で医療機器や空調が止まれば付き添いが要る。令和6年能登半島地震では、短期入所の区分支給限度基準額超過や要介護認定の区分変更申請について柔軟な取扱いが示された。本人がそこまでたどり着けるとは限らず、地域包括支援センターや自治体窓口を案内するだけでも意味がある。

介護に直面した旨の申出をした従業員への個別周知・意向確認、40歳到達時期の情報提供、雇用環境整備は2025年4月から事業主の義務である。平時に回していれば、被災時に誰が介護を抱えているかを一から探さずに済む。

「休ませる」だけでなく「働き続けられるように」する

休暇だけで設計すると、休暇が尽きた時点で退職が選択肢に上がる。就業継続の側を並行して組み立てたい。

  • 時差出勤:始業を2時間遅らせるだけで、代替保育や親族への預けが成立する場合がある
  • 業務の切り分け:終日拘束が必要な業務と断続的にできる業務を分け、後者を在宅に寄せる
  • 代替要員の事前指定:属人化した業務に代替者を割り当てる。被災後に探すのでは遅い
  • 短時間勤務の一時適用:法定要件に当たらない従業員にも期間を区切って任意に適用する

テレワーク可能な職種とできない職種が混在する事業場では、公平性への配慮が要る。現場職から「一部だけ優遇されている」と受け止められると、制度そのものが使われなくなる。テレワークは報酬ではなく業務特性に基づく手段であること、現場職には交通費・シフト調整・特別休暇など別の形で手当てすることを、同時に説明したい。

子ども自身が被災している

親である従業員に、子どもの反応を伝えておきたい。文部科学省の資料によれば、幼稚園から小学校低学年では腹痛・嘔吐・食欲不振・頭痛といった身体症状が出やすく、興奮や混乱、落ち着きのなさが目立つ。小学校高学年以降は引きこもりがち、些細なことで驚く、夜間に何度も目覚めるなど大人に近い症状が現れやすい。一時的な幼児返りは「無理に制止することなく経過観察する」とされ、日本児童青年精神医学会の手引きも年少児の排尿排便の失敗や赤ちゃん返りを挙げる。

要点は、これらの多くが自然な反応であること、そして保護者や周囲の大人の状態が子どもの反応に大きく影響することである。日本ユニセフ協会の資料は、乳幼児は時間感覚が未発達なため録画映像を「今この瞬間に起きている」と受け取ると指摘し、報道の繰り返し視聴を避けるよう勧めている。映像の反復曝露が大人に及ぼす影響は記事09で扱ったが、子どもには大人以上に距離が要る。親である従業員は、自分の不安を抱えたまま子どもに向き合っている。本人へのケアが、そのまま子どもへの支援になる。

実務チェックリスト

  • [  ] 就業規則・社内案内を育児・介護休業法の2025年改正後の内容に更新した
  • [  ] 子の看護等休暇が今回の休校に使えるかを所轄労働局に照会し、回答を記録した
  • [  ] 年休の時間単位取得の労使協定を確認し、特別休暇の臨時創設を判断した
  • [  ] 休暇・在宅勤務の案内を対象者全員に同一文面で一斉周知した
  • [  ] 未就学児・小学生を養育する従業員、要介護家族を抱える従業員の概数を把握した
  • [  ] テレワーク不可の職種への代替措置を決め、理由とともに説明した
  • [  ] 時差出勤・業務切り分け・代替要員を休暇と並行して設計した

人事が把握していない介護者は必ずいる。被災してから探すのでは間に合わない。今回の対応で得た名簿とやり取りは、次に備えた最も実用的な資産になる。制度の適用可否で迷う点は、所轄労働局雇用環境・均等部(室)および社会保険労務士に確認されたい。

参考

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