環境省の発信によれば、8月18日に八代市で、二次被害のおそれがある家屋から公費解体が始まった。熊本市は8月25日(火)から予約受付を開始し、申請書類の受付は9月10日から12月10日である。仮置場は宇土市・宇城市・八代市などで順次開設されている。解体と廃棄物処理の作業量は今週から立ち上がり、9月以降に集中する。厚生労働省第55報(8月19日19時時点)の復旧作業に伴う労働災害は死亡17人・休業4日以上81人で、前報の70人から1日で11人増えた。この記事は、解体・廃棄物処理に関わる事業場と、従業員を片付けやボランティアに出す事業場の双方に向け、仮置場と解体現場に固有の危険源を整理する。
8月18日に始まった解体は、9月以降に集中する
熊本市の公費解体の対象は、個人所有の家屋または中小企業者の事業所で、罹災証明書の判定が全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊のもの。申請者は7月28日時点の所有者となる。予約は平日9時〜17時、申請書類の受付は月〜金(9月は土日祝も対応)とされている。
ここから工期の形が読み取れる。熊本市の罹災証明書は申請1万1,982件に対し発行6,629件(8月21日の第24回災害対策本部会議資料、発行率55.3%)で、証明書が出そろうにつれて申請が積み上がる。熊本県第36報(8月20日14時現在)の住家被害は全壊1,555棟・大規模半壊138棟・半壊1,627棟。この母数に対し解体業者・重機・運搬車両・仮置場の受入能力は有限で、9月から12月にかけて人員と工期が逼迫する。
逼迫する時期の安全管理は、逼迫してからでは決められない。今週決めておきたいのは、応援・下請を含む作業員名簿の様式、新規入場者教育の内容、「この条件では着手しない」という中止基準の三つである。中止基準の考え方は記事043、復旧工事の労働災害は記事042、復旧・復興作業に共通する五つのリスクは記事005で扱った。本稿は仮置場と解体現場に固有の危険源に絞る。
仮置場でいま最も警戒されているのはリチウムイオン電池である
環境省は8月17日、リチウムイオン電池が衝撃・圧力・高温環境などにより発火するおそれがあるとして、仮置場への持ち込み時のルール遵守を要請した。報道によれば8月21日にも、仮置場でのリチウムイオン電池の分別徹底が改めて呼びかけられている。
対象はモバイルバッテリー、電動工具、電動アシスト自転車、車載バッテリーなど幅広く、被災家屋の片付けでは家財に紛れて排出されやすい。危険の順序はこうである。重機やパッカー車の圧縮で電池が押し潰され、内部短絡で急激に発熱する。いったん着火すると水をかけても内部の反応が続き、消火は難しい。可燃ごみの山の中で起きれば周囲へ延焼し、鎮火まで仮置場の受入が止まる。
したがって現場でとりうる対策は「混ぜない」に集約される。分別しての持ち込みは荷下ろしの速度を左右すると環境省は発信しているが、安全面での意味はそれ以上に大きい。事業場としては、(1)片付けの前に電池を含む機器を一覧化して別置きする、(2)端子をテープで絶縁し、膨張・変形・液漏れのあるものは他と離して保管する、(3)搬出前に仮置場の受入品目と分別区分を確認する、を作業手順に書き込みたい。受入区分は自治体で異なる。
従業員をボランティアや自社建物の片付けに出す場合も、ここだけは職場から明示したい。ボランティアの安全衛生全般は記事021で扱った。仮置場への持ち込みに限れば、伝えるべきは「電池類を混ぜない」「押し潰さない」「炎天下の車内に積んだまま放置しない」の三点である。
太陽光パネルと石綿 — 見た目では判断できない二つ
環境省は8月5日、破損した太陽光発電設備の感電リスクに注意喚起している。押さえるべき性質は一つ、パネルは日射があるかぎり発電を続けることである。倒壊した屋根にあっても、瓦礫に埋もれて割れていても、光が当たれば電圧が生じる。水に濡れていれば感電の危険は上がる。
実務では、パネルやケーブルに素手で触れない、切断面や破損部に近づかない、やむを得ず扱う場合は絶縁手袋・絶縁工具を用い表面を遮光する、という手順になる。撤去・処分は専門業者に委ね、片付けの現場判断で外さない。屋根上作業の危険は記事029で扱った。
石綿はさらに見た目で判断できない。建築物の解体・改修では着手前の事前調査が義務づけられ、有資格者による調査と結果の記録・掲示、一定規模以上の工事では労働基準監督署等への報告が求められる。災害後にこの手順が省略されやすいのは、家屋が既に損壊していて「壊れたものを片付けるだけ」に見えるためである。だが損壊した建材は破断面から繊維が飛散しうる状態にあり、曝露の機会はむしろ多い。
現場では湿潤化(散水)を粉じん対策の基本に置き、呼吸用保護具は作業区分に応じて選定する。使い捨て式の防じんマスクを配るだけでは足りない場面があり、フィット確認と交換頻度まで手順に入れたい。届出の要否や調査者の要件は工事の規模・内容で変わるため、所轄の労働基準監督署に確認する。
37度が予想される日に、解体現場をどう区切るか
8月22日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む18県に発表され、4日連続となった。同日の熊本市の予想最高気温は報道で37度とされる。解体現場と仮置場は、屋外であること、重量物の取扱いが多いこと、防じんマスクや長袖・手袋の着用が重なることの三条件がそろう。保護具は放熱を妨げるため、同じ気温でも熱中症の危険は事務作業より高い。
作業時間は、午前中心の工程に寄せる、WBGTに応じて休憩間隔を短くする、単独作業を作らず相互の観察を前提にする、という組み立てになる。熱中症のおそれのある労働者を早期に見つけて報告する体制と、悪化を防ぐ措置の手順を定めて周知することについては、労働安全衛生規則の改正で扱われたとされる。具体的な適用範囲と手順は所轄の労働基準監督署に確認したい。中止の線引きは記事025を参照されたい。
熱以外では、重量物と不安定な残置物が事故につながる。損壊した家屋には倒れかけた家具、崩れかけた壁、水を含んで重くなった畳や断熱材、割れたガラスや釘が残る。挟まれ・崩壊は、順序を決めずに人が同時に入ると起きやすい。重機の作業半径に人を立ち入らせない、上下同時作業を避けるという基本を、毎朝の手順確認で言葉にする。
負傷が生じたときの労働者死傷病報告は、休業4日以上と4日未満で様式・提出時期が異なる。熊本労働局は提出の要請文書を公表している。下請の被災を元請が把握できていない状態を作らないことが要点になる。提出実務は記事055にまとめた。
自費解体は、着手前にしか打てない手がある
自ら業者と契約して解体する場合、着手前にしか打てない手が二つある。ひとつは解体前の写真で、工事が始まってしまえば着工前の状態は二度と撮れない。もうひとつは石綿の事前調査で、これも解体に着手したあとでは実施できない。
どちらも「あとで揃える」ことができない。予約が始まる今週のうちに、誰がいつ現地に入り、撮影と事前調査をどの範囲まで行うかを決めておきたい。費用償還に必要な書類は記事063にまとめた。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認すること・決めること | 誰が | 期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 自社建物の解体を公費・自費のどちらで進めるかを決め、罹災証明書の判定と所有者要件を照合する | 総務 | 8月25日の予約開始前 |
| 2 | 解体前の写真の撮影範囲を、石綿の事前調査の記録と一体で残す段取りを決める | 総務 | 着工前 |
| 3 | 解体着手前の石綿の事前調査の要否・調査者の要件・報告先を所轄労働基準監督署に確認する | 安全衛生担当 | 着工前 |
| 4 | リチウムイオン電池を含む機器を一覧化し、別置き・端子絶縁の手順を作業指示書に入れる | 現場責任者 | 片付け開始前 |
| 5 | 搬入先の仮置場の受入品目・分別区分・受付時間を、搬出の前日に自治体の案内で確認する | 現場責任者 | 搬出の都度 |
| 6 | 破損した太陽光パネル・ケーブルに触れず専門業者に委ねることを現場全員に周知する | 安全衛生担当 | 今週中 |
| 7 | 湿潤化の方法と、呼吸用保護具の種類・フィット確認・交換頻度を作業区分ごとに定める | 安全衛生担当 | 今週中 |
| 8 | WBGTの測定場所と休憩間隔・作業中止の判断者を決め、熱中症のおそれがある者の報告体制と悪化防止の手順の適用範囲を所轄労働基準監督署に確認する | 安全衛生担当 | 着工前 |
| 9 | 片付け・ボランティアに出す従業員へ、電池類を混ぜない・押し潰さない・車内に放置しないの三点を文書で渡す | 人事総務 | 派遣の都度 |
| 10 | 下請を含む被災の把握経路と、労働者死傷病報告の提出担当を決めておく | 元請の安全衛生担当 | 着工前 |