029_屋根の上に人が上がる週 — 応急修理の駆け込みと台風接近が重なる局面で、墜落と熱中症をどう防ぐか

今週、被災地でいちばん人が死にやすい場所は屋根の上である。熊本市の「住家の緊急の修理」(ブルーシート展張等)は完了期限が8月7日とされ、8月末までの延長が協議されている段階にある(8月4日時点)。同じ7日ごろから9日にかけて、猛烈な勢力に発達した台風13号が九州へ最接近する可能性が報じられている。そして熊本地方の予想最高気温は4日・5日とも38度である。期限と台風と酷暑が、同じ数日に重なった。この記事は、復旧工事を請け負う事業場の安全担当・産業保健職と、従業員が自宅の応急修理をしようとしている人事総務に向けて、この数日の作業をどう組むかを扱う。

目次

1. 今週が危ない三つの理由

第一に、締切がある。熊本市の緊急修理制度は、被害拡大を防ぐために屋根や外壁をブルーシートの展張などで応急的に処置するもので、限度額は56,400円、罹災証明書は不要とされている。完了期限は8月7日で、8月末までの延長が協議中である(8月4日時点)。県が21市町村を対象に案内している緊急修理も、市町村ごとに7月31日から8月3日にかけて順次開始されている。期限が近いという情報は、そのまま「今週中に屋根に上がる理由」になる。

第二に、台風である。7〜9日に九州最接近の可能性がある以上、「台風の前にシートを張っておきたい」という動機が加わる。震度7を観測した地域では地盤が緩んでいるところもあり、少しの雨でも土砂災害につながるおそれが指摘されている。屋根の応急処置は理にかなった行動だが、それを何日で、誰が、どういう体制でやるかは別の問題である。

第三に、暑さである。8月3日、熊本市は40.3度を記録して観測史上最高を更新し、県内18地点のうち10地点で観測史上1位となった。同日午後4時までに熱中症の疑いで43人が搬送され、うち4人が重症だった(速報値)。屋根の上は輻射熱で気温よりはるかに高い。締切と台風に追われた作業が、この環境で行われようとしている。

2. 復旧工事で最も多い災害は、墜落・転落である

建設業労働災害防止協会が復旧・復興工事の災害50件をまとめた事例集では、最も多い型が墜落・転落の17件で、次いで挟まれ・巻き込まれ10件、激突・激突され6件となっている。足下が悪く、複数の建設機械が同時に動く環境そのものが、災害を誘発する要因として整理されている。

なかでも今週の状況に直結するのが、屋根補修作業中の墜落事例である。応急修理工事で、短工期を理由に足場を設置しないまま作業が進められ、作業者が約3.3メートル下の道路に転落して死亡している。原因として挙げられているのは「短工期のため足場省略」と「安全帯未使用」の二つである。3.3メートルという高さは、屋根としてはむしろ低い。低いから大丈夫だという判断が、そのまま死亡災害になっている。

もうひとつ、老朽化したスレート屋根の踏み抜き事例も記録されている。踏み抜き防止対策と墜落制止用器具の組み合わせが不十分だったことが原因とされる。地震で下地が傷んだ屋根は、外見からは判断できない。今回の被災地では、この「上に乗ってよいかわからない屋根」が大量に発生している。

再発防止のポイントとして整理されているのは、事前のリスクアセスメントを作業計画に落とすこと、フルハーネス型の墜落制止用器具を原則とすること、屋根形状に応じた取付設備を先に設けること、そして現場巡視と教育である。いずれも「時間があればやる」ものではなく、時間がないときにこそ省かれて事故になる項目である。復旧作業全般の安全衛生は記事005で扱った。

3. 従業員が「自分の家の屋根」に上がろうとしている

産業保健職と人事総務にとって、今週の難しさはここにある。施工業者ではない従業員が、自宅の被害拡大を防ぐために、休日や年休を使って自分で屋根に上がろうとする。これは業務ではないので労災にはならない。しかし墜落すれば、その従業員は数か月休業する。会社にとっては、災害復旧の最中に戦力を失うことを意味し、本人にとっては、収入と住まいの両方を同時に失うことを意味する。

事業場としてできることは、命令ではなく情報提供である。第一に、緊急修理制度の存在を周知する。熊本市の制度は罹災証明書が不要で、限度額の範囲で市が業者へ支払う仕組みであり、自分で上がる必要がない場合がある。県内21市町村でも同様の緊急修理が案内されている。第二に、制度を使う場合も施工前後の写真が必要であることを伝える(罹災証明の手続き全般は記事022)。第三に、災害に便乗した悪質な修理業者への注意喚起を、県が明示的に行っていることを共有する。

そのうえで、どうしても自分で上がるという従業員には、一人で上がらないこと、朝の涼しい時間に限ること、台風が接近した当日と直後は上がらないことの三点だけでも伝えたい。三点とも、守れば死亡事故の相当部分が防げる。

4. 施工側の事業場が、今週やること

復旧工事を請け負っている事業場では、次を今週の作業計画に明記する。

作業計画に墜落防止措置を先に書く。足場が設置できない屋根上作業であっても、親綱や取付設備を先行して設けることを前提に見積もりと工程を組む。「短工期だから省く」という判断が最も多い死亡原因である以上、工期の側を動かすしかない。

フルハーネス型の墜落制止用器具を原則とし、取付設備がない状態での作業を禁止する。単独作業をさせない。建設機械が同時に動く現場では誘導員を置き、合図を統一する。

暑熱については、記事025で扱った作業中止基準をそのまま屋根上作業に当てる。屋根の上は日陰がなく、輻射熱が加わるため、地上の気温やWBGTで判断すると必ず過小評価になる。作業時間帯を早朝に寄せ、日中の屋根上作業を止める判断を、現場ではなく事業場として決めておく。台風が来るからという理由は、この基準を破る理由にはならない。

5. 台風の前と後で、やることが変わる

台風接近前は「固定」である。既に張ったブルーシートの土のうや押さえ材の追加、飛散しうる資材・仮設物の撤去または固定、足場の壁つなぎの確認、排水溝と側溝の詰まりの除去。これらは屋根の上に長く留まらずにできる作業から先に片づける。

台風の通過中は、屋根に上がらない。当然のことに見えるが、シートがめくれているのが見えると人は上がろうとする。事業場として「風速何メートル以上、雨天時は屋根上作業を行わない」と数値で決め、当日の判断を現場に委ねないことが要る。

台風の通過後は「点検」である。濡れた屋根、特に金属屋根とスレートは著しく滑る。地震で傷んだ下地に大量の雨水が加わっており、踏み抜きの危険は台風前より高い。まず地上または高所作業車から目視し、上がる必要があるかを判断してから上がる。土砂災害の危険がある区域では、作業そのものの可否を先に確認する。

実務でそのまま使えるチェックリスト

対象項目期限の目安
施工側屋根上作業の作業計画に墜落防止措置(取付設備・親綱)を明記し、足場省略を前提にした工程を組み直す着手前
施工側フルハーネス型墜落制止用器具の着用と取付設備の設置を、作業開始条件にする着手前
施工側単独での屋根上作業を禁止し、地上に監視者を置く着手前
施工側屋根上作業に地上より厳しい暑熱基準を当て、作業時間帯を早朝に寄せる今週中
施工側風速・降雨による屋根上作業の中止基準を数値で決め、現場判断に委ねない台風接近前
施工側台風前は固定作業のみ、通過後は地上からの目視を経てから上がる運用に切り替える6日まで
人事総務緊急修理制度(ブルーシート展張等、熊本市は限度額56,400円・罹災証明書不要、完了期限8月7日・延長協議中)を全従業員に周知5日中
人事総務悪質業者への注意喚起と、施工前後の写真が必要であることを併せて周知5日中
人事総務自宅の屋根に上がる予定の従業員に、単独作業をしない・早朝に限る・台風当日と直後は上がらないの3点を伝える6日まで
産業保健職屋根上作業に従事した者の熱中症症状と、墜落・転倒によるけがの申告を、週明けに確認する台風通過後

追記

【追記 8月6日】台風13号「ドルフィン」は8月5日6時45分時点で日本の南にあり、中心気圧945hPa・最大風速45m/sの「非常に強い」勢力で、8日3時に沖縄本島近海へ進む予報となっている。九州への直接の上陸予報ではないものの、気象庁は6日以降、熊本県でも風が強まるおそれがあるとして注意を呼びかけている。屋根・外壁の応急修理、高所作業、仮設物やボンベの固定は、本日中に前倒し・中止の判断を行われたい。

参考

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