057_休ませ方に選択肢が戻った日 — 雇用調整助成金の特例が公表された8月20日から、休業をどう組み直すか

この記事は、被災地および被災地外で「操業を落とさざるを得ない」状態が続いている事業場の人事総務・経営層と、休業する従業員の生活と健康を見ることになる産業保健職に向けたものである。8月20日、厚生労働省が令和8年熊本地震に伴う雇用調整助成金の特例を実施すると公表した。8月上旬から「検討中」と伝えられてきた措置が、要件と期間の付いた形で示されたことで、これまで「解雇か、無給の自宅待機か」の二択に見えていた場面に、三つ目の選択肢が戻ったことになる。発災25日目、断水が5,000戸を割り、代行バスが動き始めた今週は、この制度を前提に9月以降の勤務を組み直す週である。

目次

8月20日に何が示されたか

厚生労働省のリーフレット(LL080820企01)によれば、対象は令和8年熊本地震に伴う経済上の理由により事業活動を縮小する事業主で、休業等の初日が令和8年7月28日から令和9年1月27日までのものとされている。発災日にさかのぼって適用される点が実務上は大きい。

全国の事業所を対象とする措置として、生産指標の確認期間を通常の3か月から1か月に短縮すること、地震発生時に事業所設置後1年未満の事業主も対象とすること、支給限度日数を1年間で100日とすること、所定外労働時間を控除する「残業相殺」の取扱いを撤廃すること、教育訓練の実施率が10%未満の場合に助成率を引き下げるルールを撤廃することが挙げられている。熊本県内の事業所についてはさらに、最近3か月の雇用量が対前年比で増加していても助成対象とすること、計画届の事後提出を認めることが追加されている。

なお、どの措置が全国分でどの措置が県内限定かは資料により整理が分かれて読める部分がある。自社が該当するかどうかは、必ず所轄の労働局・ハローワークに確認したうえで進めていただきたい。公的支援全体の位置づけは記事020に、期限が延びたものと延びていないものの区別は記事050に整理している。

生産指標1か月への短縮が、熊本で効く理由

通常の雇用調整助成金は、直近3か月の生産指標が前年同期比で一定以上落ちていることを求める。7月28日の発災を挟んだ事業場では、7月は月の大半が平常操業であり、3か月平均をとると落ち込みが薄まってしまう。確認期間が1か月になれば、8月の実績だけで判断できる。断水が長く残った八代市・宇城市・氷川町の事業場や、鹿児島本線 宇土〜八代の寸断で出勤率が落ちた事業場では、この違いがそのまま可否を分ける。

同じ市内でも水が出る事業場と出ない事業場があり、通勤の条件も路線ごとに異なる状況が続いている(記事046記事053)。生産指標を事業所単位で見ることになるため、複数拠点を持つ企業は、どの拠点で落ち込みが出ているかを8月中に数字で押さえておく必要がある。

休業手当との関係を、先に整理しておく

雇用調整助成金は、事業主が労働者に休業手当を支払ったことを前提に、その一部を助成する仕組みである。したがって「まず休業手当をどう扱うか」が先に決まっていなければ話が進まない。地震による直接の被害で操業が物理的に不可能な場合と、取引先の被災や資材の遅れなど経済上の理由で操業を縮小する場合とでは、労働基準法第26条の休業手当の要否についての考え方が異なりうる。ここは個別性が高く、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士への確認を前提としたい。

実務としては、7月28日以降の休業日を「物理的に操業不能だった日」「経済上の理由で縮小した日」「従業員側の事情による欠勤日」に仕分ける作業が必要になる。この仕分けは、罹災証明や応急修理の申請、労災の請求と並行して発生するため、8月中に着手しておかないと9月に入ってから積み上がる。復旧作業中の負傷をどの制度で受け止めるかは記事045にまとめている。

教育訓練の扱いが変わったことを、安全衛生に使う

実施率10%未満で助成率を引き下げるルールが撤廃されたことは、事務手続きの緩和にとどまらない。休業日に教育訓練を組み込みやすくなったという意味でもある。復旧・復興作業がこれから本格化する事業場では、熱中症対策、墜落・転落防止、通電・復電時の取扱い、粉じんとアスベストの扱いといった、いま現場で必要な安全衛生教育を休業日に入れる余地が生まれる。

8月21日を対象とする熱中症警戒アラートは熊本県を含む13県に3日連続で発表され、熊本市の予想最高気温は37度である。屋外に人を出せない時間帯が現に生じている以上、その時間を教育に振り替える設計は、助成の観点からも安全衛生の観点からも無理がない。中止基準の考え方は記事043記事025に整理している。

休業する従業員の健康を、誰が見るか

産業保健の側から見ると、休業は「職場との接点が切れる期間」である。避難者は2,925人まで減り、応急仮設住宅への入居が9月以降に始まる局面で、休業と転居が重なる従業員が出てくる。収入の減少は受診の先送りに直結し、薬局の断水が59施設で動いていない地域では、服薬の中断がそのまま健康リスクになる。

休業を決めた時点で、連絡先の再確認、休業中の相談窓口の明示、服薬中の従業員への声かけの頻度を決めておきたい。特に、休業手当が出ることを伝えないまま自宅待機を指示すると、従業員側は収入がゼロになる前提で行動する。制度が使えることを早く伝えること自体が、健康を守る介入になる。従業員の居場所と連絡先の把握は記事041、入居前後の1か月の支え方は記事054を参照されたい。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#確認事項期限の目安担当
17月28日以降の休業日を「操業不能」「経済上の縮小」「従業員側の事情」に仕分けたか8月中人事総務
2事業所ごとに8月の生産指標(売上高・販売量等)を前年同月と比較したか8月末経理・人事
3複数拠点がある場合、どの拠点が対象になりうるかを整理したか8月末人事総務
4所轄の労働局・ハローワークに、自社が特例の対象かを確認したか今週中人事総務
5休業手当の要否について労働基準監督署または社会保険労務士に確認したか今週中人事総務
6計画届の提出時期(事後提出の可否を含む)を確認したか今週中人事総務
7休業日に実施する安全衛生教育の内容と講師を決めたか9月上旬まで安全衛生担当
8休業対象者の連絡先を最新化し、休業手当が出る旨を書面で伝えたか決定と同時人事総務
9服薬中・通院中の休業対象者を洗い出し、声かけの頻度を決めたか決定と同時産業保健職
10協力会社・派遣元にも特例の存在を情報提供したか今週中人事総務

参考

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