046_同じ会社なのに、水が出る事業場と出ない事業場 — 宇城市が半減し八代市が残った日に、勤務条件の差をどう説明するか

8月13日、断水戸数の内訳が大きく動いた。国土交通省第39報(8月13日7時30分時点)によると、宇城市の断水は約4,098戸で、前回整理時点の8,187戸からほぼ半減している。一方の八代市は約2万2,382戸から2万2,979戸への微減にとどまり、県内の断水戸数約2万8,400戸のうち約8割が八代市に集中する形になった。氷川町は約1,901戸である。復旧が「県全体で進む」段階から「地域によって別々の局面にある」段階へ移った。この記事は、複数の事業場を持つ企業や、社員の居住地が複数市町にまたがる事業場で、勤務条件の差が生まれたときに、それを誰にどう説明するかを扱う。

目次

差はどこに現れるか — 三つの場面

第一に、始業・終業時刻と休憩の設計である。断水が続く地域では、応急給水の受取が生活時間の一部として固定されている。氷川町は7時から19時(1回10リットルまで)、宇城市は8時30分から17時、美里町は24時間という形で拠点ごとに時間が異なる。給水拠点が勤務時間と重なる従業員には時差出勤や中抜けが必要になるが、断水が解消した地域の従業員には不要である。同じ職場で、片方だけが柔軟な勤務を認められている状態が生じる。

第二に、費用の負担である。飲料水・簡易トイレ・ウェットタオル・コインランドリー代・入浴施設までの移動費といった支出は、断水地域の従業員にだけ発生する。事業場がこれらを支給または補助する場合、支給対象を居住地で線引きすることになり、その線引きが説明を要する。

第三に、事業場の稼働そのものである。事業場に水が戻れば食堂・トイレ・洗浄工程が再開でき、出社を前提とした勤務に戻せる。戻っていない事業場は在宅勤務や他事業場への応援を続けざるを得ない。復旧が早かった事業場から「もう通常に戻せるのでは」という声が出る一方、断水が残る事業場では通常化の見通しが立たない。この非対称が、社内の不公平感として最初に表面化する。

説明の順序 — 「扱いの差」ではなく「復旧の進み方の差」である

差を説明するとき、最も避けたいのは「事業場ごとに判断が違う」という説明である。これは裁量で差をつけていると受け取られる。使うべき説明は、外形的な事実にひもづけた基準である。

説明の順序は三段階にする。まず、何を基準に扱いを決めているかを明示する。たとえば「所在地または居住地の水道が通水し、水道事業者から使用可の案内が出ているかどうか」を基準とする。次に、その基準に照らして各事業場・各地域が現在どの状態にあるかを示す。最後に、状態が変わったときに扱いも自動的に変わることを伝える。この三段階で示すと、差が恣意的でないことが伝わり、かつ「いつまで続くのか」への答えにもなる。

基準を作るときの注意点として、試験通水と使用可は別である。八代市では8校区で試験通水が行われ、8月12日13時30分に東陽町・泉町および氷川町の複数地区で配水管の利用が再開されたが、試験通水中の段階では水質や設備の安全確認が済んでいない。試験通水の開始を基準にすると、実態より早く通常勤務へ戻す判断につながる。基準は「使用可の案内」に置くのが安全である(記事027記事013)。

なお、断水が解消しても都市ガスは別の話である。八代市の都市ガスは九州ガスの第15報(8月7日13時)時点で供給停止8,892戸のうち3,989戸が復旧という段階で、地区によって復旧時期が割れている。水・ガス・交通は別々に判断する必要がある(記事032)。

解消した側で始まるリスクを、同時に伝える

断水が解消した事業場に対して「これで元通り」という説明をしないことも大切である。長期間水が止まっていた建物では、貯水槽・給湯設備・冷却塔・製氷機・シャワーなどの滞留水に問題が生じうる。通水直後の再稼働手順を踏まずに使い始めると、レジオネラ症をはじめとする健康リスクが生じる。宇城市のように短期間で大きく戸数が減った地域では、多数の事業場が同時期に再稼働の判断を迫られる。

したがって、断水解消の連絡と同時に、再稼働のチェック手順を配ることになる。通水後の初期は末端まで十分に排水してから使用する、貯水槽は清掃・消毒の記録を確認する、冷却塔は運転再開前に点検する、といった手順である。詳細は記事027に整理した。「水が出た」と「使ってよい」の間にひと手間あることを、現場の管理者が知っているかどうかで結果が変わる。

断水が残る側には、期間の見通しと生活時間の設計を

八代市のように断水が残る地域では、応急復旧の目途が8月末とされている。つまり、あと2週間強は現在の生活が続く前提で勤務を組むことになる。この段階で有効なのは、日々の運用を都度の相談で処理せず、期間を区切った制度として明文化することである。「8月末までの間、断水地域に居住する従業員は始業を1時間繰り下げ可能」といった形で、期間・対象・内容を書いた一枚を出す。都度の申請にすると、申し出にくい人ほど利用しなくなる(記事030記事036)。

入浴と洗濯も見落とされやすい。八代市では入浴支援事業と屋外シャワーの一般開放が案内されており、宇城市でも給水・充電・入浴の支援やシャワー機の利用が案内されている。これらは開設時間が限られるため、勤務時間と重なると使えない。支援があること自体を知らせるだけでなく、使える時間に帰れる勤務になっているかを確認する。

実務でそのまま使えるチェックリスト

項目確認内容
基準の明示扱いの分岐を「水道の使用可の案内の有無」など外形的な事実で定義したか
現況の共有事業場ごと・地域ごとの現在の状態を一覧にして社内に出したか
期間の明示特例的な勤務の適用期間(8月末を目途)を書いたか
都度申請の回避対象者が申し出なくても適用される形にしたか
試験通水の扱い試験通水を通常化の根拠にしていないか
通水後の点検貯水槽・給湯・冷却塔の再稼働手順を管理者に配ったか
費用支給の線引き支給対象の線引きの理由を説明できる形にしたか
生活支援の時間給水・入浴・洗濯の利用可能時間に帰れる勤務になっているか
応援勤務の負荷復旧が早かった事業場に応援負荷が偏っていないか
説明の相手断水地域だけでなく、解消した地域の従業員にも差の理由を説明したか

最後の一点は忘れられやすい。不公平感は、支援を受けている側ではなく、受けていない側から出ることが多い。断水が解消した事業場の従業員にも「なぜ他の事業場では特例が続くのか」を説明しておくことで、社内の摩擦は大きく減る。

参考

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