073_明日から公費解体の予約が始まる — 一人親方・自主施工者が労災保険の外に落ちないよう、特別加入を今週のうちに確かめる

熊本市の公費解体は、明日8月25日から事前予約の受付が始まる。申請書類の受付は9月10日から12月10日まで。八代市ではすでに8月17日から緊急解体が動き出しており、応急修理や自費解体もこれに重なる。9月は、解体と修繕の工事が一斉に立ち上がる月になる。

この記事は、その工事に関わる人のうち「労災保険が届かない人」が誰なのかを整理し、事業場と産業保健職が今週のうちに手を付けられることを示すものである。復旧作業に伴う労働災害は、8月20日19時時点で死亡17人、休業4日以上93人と発表されている(厚生労働省第56報)。この数字は、労災保険の対象となる労働者について集計されたものであり、保険の外にいる人の被災はここには現れない。

目次

労災保険が届く人と、届かない人

労災保険でいう労働者とは、厚生労働省の説明によれば「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」を指す。アルバイトやパートタイマーといった雇用形態は問わず、原則として一人でも労働者を使用する事業はすべて適用対象となる。

建設の事業については、下請負人の労働者も含めて元請負人の労災保険で保護されるのが原則である。解体業者に発注した場合、その業者に雇われた作業員も、さらにその下請に雇われた作業員も、通常はこの仕組みの中にいる。ただし個別の現場について保険関係がどう成立しているかは、所轄の労働基準監督署に確認するのが確実である。

一方、次の人たちは「労働者」ではないため、この枠組みからは外れる。

  • 労働者を使用せずに自分で仕事を請け負う一人親方(大工、左官、とび、解体、板金、電気工事など)
  • 中小事業主本人と、その事業に従事する家族従事者、役員
  • 自分の家や自分の事業場を自分で解体・修繕する人(自主施工者)
  • 無償のボランティア

このうち上の2つには、特別加入という別の入口がある。下の2つには、それもない。

特別加入の4つの入口と、加入までの手順

特別加入は、労働者ではないが労働者に準じて保護することが適当な人のために設けられた任意加入の制度で、次の区分に分かれている。

区分対象手続きの経路
第1種(中小事業主等)労働者を使用する中小事業主と、その事業に従事する家族従事者・役員労働保険事務組合に労働保険事務を委託していることが要件
第2種(一人親方等)労働者を使用しないで建設の事業、運送の事業、林業などを行う者一人親方等の団体(特別加入団体)を通じて申請
第2種(特定作業従事者)特定の作業に従事する者。令和6年11月からは特定受託事業に従事する者(フリーランス)も対象に加わった同上
第3種(海外派遣者)海外の事業に派遣される者派遣元の団体または事業主を通じて申請

給付基礎日額は3,500円から25,000円までの範囲で、所得水準に見合った額を申請する。この日額が休業補償給付や年金の算定基礎になるため、実際の収入とかけ離れた低い額を選ぶと、被災したときの補償も低くなる。

建設の事業の一人親方については、業務災害と認められる範囲が、請け負った建設の事業に係る作業などに限られる。自宅の修繕を自分で行っている最中の負傷は、請負作業ではないため、特別加入していても業務災害にはならないと考えておくのが安全である。

加入日は遡らない — だから「今週」なのか

ここが実務上もっとも重要な点である。一人親方等の団体が申請書を労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出し、承認を受ける。承認は申請の日の翌日から起算して30日の範囲内で行われ、加入の効力は申請時に希望した日から生じる。

つまり、特別加入は事故が起きた後に遡って入ることができない。8月中に申請していない人が9月に現場で被災しても、その災害は特別加入の給付対象にならない。

熊本市の公費解体は明日8月25日に予約が始まり、9月10日から書類受付が始まる。実際に重機が入るのはその後だが、見積り、事前の片付け、家財の搬出、隣家との調整といった作業はもっと早く動き出す。9月の現場に立つ予定の一人親方が今日の時点で未加入なら、今週申請しておかなければ、工事の立ち上がりに間に合う保証はない。

なお、すでに自費で解体した分の費用償還を熊本市に求める場合、解体前後の写真、契約書・領収証、廃棄物処理帳票の保管が必要とされている。誰にいくらで頼んだかを記録に残すことは、償還のためだけでなく、その相手が保険に入っているかを後から確かめるためにも役に立つ。

従業員が自分の家を自分で直すとき

会社が見落としやすいのが、自主施工者としての従業員である。休日に自宅の屋根に上がってブルーシートを張り直す、壁のひび割れを埋める、瓦礫を運び出す。これらはいずれも業務ではないため、労災保険も特別加入も届かない。

本日の熊本市の予想最高気温は38度、明日は39度が見込まれ、熱中症警戒アラートは6日連続で発表されている。高所作業と猛暑が重なるこの条件で、単独で、しかも保険のない状態で作業する人が、週末ごとに増えていく。

職場として現実的に手を打てるのは、次のあたりである。

  • 自宅の修繕を自分で行う予定があるかを、面談や日常の会話の中で把握しておく
  • 休日に高所作業をした翌日に、屋外作業や運転業務を割り当てない
  • 単独で屋根に上がらないこと、朝夕に時間を寄せることを、具体的な言葉で伝える
  • 加入している傷害保険や火災保険の特約で、自分の作業中のけがが補償されるかを各自が確認するよう促す

屋根に上がる作業そのもののリスクと止め方は記事029に、猛暑下の作業中止基準の決め方は記事043に整理している。

発注する側として確かめること

自社の事業場の解体・修繕を発注する場合、注文者としてどこまで責任を負うかは記事072で扱った。ここではそれと重ならない範囲で、保険に関する確認事項だけを挙げる。

法人の業者に発注するなら、その業者の労働者は元請の労災保険の枠組みに入る。しかし、個人の大工や解体業者に直接頼む場合、その相手が一人親方であれば、労働者ではないため元請一括の対象にならない。相手が特別加入しているかを見積りの段階で聞いておくことは、失礼な質問ではなく、双方を守る確認である。

自社の役員や家族従事者が復旧作業に手を出す事業場も多い。第1種の特別加入は労働保険事務組合への事務委託が前提になるため、委託していない事業場はまずそこから確認することになる。

実務でそのまま使えるチェックリスト

確認する対象確認すること未了なら
発注先の個人事業者一人親方か、労働者を使用する事業者か一人親方なら特別加入の有無を見積り段階で確認する
発注先の一人親方特別加入の加入証明があるか、給付基礎日額はいくらか未加入なら、着工前に団体経由の申請を促す
自社の役員・家族従事者現場作業に出る予定があるか出るなら第1種特別加入と労働保険事務組合への委託を確認
自社の従業員自宅を自分で修繕する予定があるか休日作業と平日勤務の間隔、単独作業の回避を助言する
自社の従業員私的な作業中のけがを補償する保険に入っているか火災保険・傷害保険の特約の有無を各自に確認してもらう
被災した場合労働者の休業4日以上は労働者死傷病報告の対象提出の実務は記事055を参照
公費解体熊本市は8月25日予約開始、9月10日から書類受付従業員の窓口対応時間を勤務の中でどう確保するか決める

特別加入の申請先や必要書類は業種や団体によって異なる。個別の判断が必要な場合は、所轄の労働基準監督署または労働保険事務組合に確認していただきたい。

参考

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次