この記事は、八代市を含む断水地域へ応援要員や復旧要員を送り出す本社・人事総務、受け入れる現地事業場、そして両者を見る産業保健職に向けたものである。8月14日6時、九州自動車道の松橋インターチェンジからえびのインターチェンジまでが全線で一般車両の通行可能となった。人を送りやすくなった一方で、送り先の水は戻っていない。県内の断水約2万7,800戸のうち約2万1,862戸、およそ8割が八代市に集中している。行きやすくなったことと、滞在できることは別である。今日から来週にかけて、その差を埋める設計を書き出しておきたい。
何が変わって、何が変わっていないか
国土交通省第40報(8月14日10時)によると、九州道は松橋IC〜えびのIC全線で8月14日6時から一般車両が通行できるようになった。ただし川田橋付近は対面通行である。南九州道は八代JCT〜田浦ICで3区間に道路損壊・橋梁損傷があり、八代南IC〜田浦ICは2区間で緊急車両のみの通行が続いている。一般車両の開放は8月後半の見込みで、まだ戻っていない。鉄道は九州新幹線の熊本〜新水俣、JR鹿児島本線の宇土〜八代がいずれも運転見合わせで、熊本市は8月中の再開は困難としている。肥薩おれんじ鉄道の八代〜水俣は8月10日から代行バスである。
一方、八代市の都市ガスは8月14日に復旧率100%に達した。九州ガスの発表では全8,892戸のうち家屋倒壊65戸を除く8,827戸で供給が可能になっている。停電は8月1日に全面解消済みである。つまり八代市に人を送る条件のうち、道路・電気・ガスは戻り、水だけが残った。給水車は県全体で計132台(国土交通省18台、日本水道協会104台、自衛隊10台)が活動している。
産業保健の側から見ると、この構図は扱いを間違えやすい。「高速が開いた」「ガスも戻った」という情報が先に流れると、送り出す側は滞在の難易度を実際より低く見積もる。断水下の生活条件は記事023と記事030に整理したとおりで、8月末の解消見込みが維持されている以上、あと2週間強は現状が続く前提で組む必要がある。
送り出す側が先に決める三つのこと
第一に、宿泊を現地に置くのか、水が出る地域に置いて通うのかである。八代市内に宿泊を取れば移動時間は短いが、トイレ・入浴・洗濯・飲料水をすべて自前で用意することになる。熊本市側に宿泊を取れば水の問題は小さくなるが、往復の運転時間が毎日加算される。九州道が開いたことで後者が現実的になったが、対面通行区間があるため所要時間は平常時どおりにはならない。どちらを選ぶにせよ、往復の運転時間を拘束時間として勤務時間に算入し、日々の実作業時間を圧縮する設計にしておく。
第二に、水を「持って行く」量を数字で決めることである。飲料水だけでなく、手洗い・洗顔・器具洗浄・トイレ用の生活用水が要る。現地の給水拠点に応援要員が列に加わる形は、地域の給水量を圧迫するため望ましくない。持参量、補給の頻度、補給の担当を、出発前に決めておく。
第三に、日帰り往復を認めるかどうかである。高速が戻ると「日帰りで行けるのではないか」という判断が現場から出る。往路2時間・現地作業8時間・復路2時間は、猛暑下の屋外作業と組み合わせると危険な設計になる。8月15日の熊本市の予想最高気温は34度で、熱中症警戒アラートは3日連続で県内に発表がない。アラートが出ないことは安全の根拠にならない。自社の中止基準の考え方は記事043にある。
受け入れる側が用意しておくこと
受け入れ側の事業場は、応援要員を「客」ではなく自社の安全衛生管理の対象として扱う必要がある。作業内容の事前説明、当日の朝の体調確認、休憩場所と冷却手段の確保、緊急時の搬送先の共有が最低限である。復旧工事に伴う労働災害は、厚生労働省第49報(8月13日19時時点)で死亡17名、休業4日以上29名と報告されている。前報では「負傷17名」(8月12日12時時点)という区分であり単純比較はできないが、休業を要する災害が29件に達している事実は、現場管理の水準を上げる根拠になる。作業側の管理は記事042、制度の切り分けは記事045を参照されたい。
災害支援ナースが97名から46名へ、DMATが24隊から19隊へ減っている。応援要員が体調を崩したときに現地で頼れる医療資源は、7月末より薄い。被災医療機関92施設のうち21施設は今も断水が続いており、八代市では26施設中17施設が断水である。搬送先は「近いところ」ではなく「稼働しているところ」で確認する必要がある。
出張中の災害と、社内の説明
応援や復旧支援での派遣中に生じた負傷は、業務との関連で判断される。出張の場合は移動中も含めて業務遂行性が認められる範囲が広いが、判断は所轄の労働基準監督署による。派遣命令の記録、作業指示の記録、当日の行動記録を残しておくことが、後日の手続きを軽くする。制度の全体像は記事045にまとめた。
同じ会社の中で、断水地域に行く人と行かない人が生じる。手当や休憩の扱いに差をつけるなら、その根拠を先に文書にしておく。同一企業内の勤務条件の差の説明については記事046に整理している。
派遣を希望しない従業員への対応も先に決めておきたい。自宅が被災している、家族に介護や育児の事情がある、体調に不安があるといった理由で断水地域への派遣が難しい人は必ずいる。手を挙げなかった理由を問い詰める運用にすると、次の局面で誰も手を挙げなくなる。派遣の可否を確認する際は、理由を述べなくても辞退できる形にしておくほうが、結果として要員は確保しやすい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 項目 | 決めておくこと | 担当 |
|---|---|---|
| 宿泊地 | 八代市内か、水が出る地域か。理由を文書化 | 送り出し側人事 |
| 移動 | 往復の運転時間を拘束時間に算入。対面通行区間の所要時間を見込む | 送り出し側人事 |
| 日帰り可否 | 猛暑下の屋外作業を伴う場合の日帰り往復の可否と上限時間 | 経営層・安全担当 |
| 水 | 飲料・生活用水の持参量、補給頻度、補給担当。現地給水拠点は使わない前提 | 送り出し側総務 |
| 作業中止 | アラート不在下での自社基準(WBGT・気温・時間帯) | 安全担当 |
| 受け入れ | 事前説明、朝の体調確認、休憩場所、冷却手段 | 受け入れ側事業場 |
| 搬送先 | 稼働中の医療機関を事前に確認(断水中の施設を除く) | 受け入れ側事業場 |
| 記録 | 派遣命令・作業指示・行動記録の保存 | 双方 |
| 説明 | 手当・休憩の差の根拠を文書化 | 人事総務 |