明日8月19日から、鹿児島本線の宇土駅〜小川駅間でバス代行輸送が始まる。宇土駅〜八代駅の全区間に代行が入るのは8月26日で、間に1週間の段差がある。この記事は、宇城市・八代市方面から通う従業員を抱える人事総務と、通勤の負担が健康に跳ね返る局面を見ている産業保健職に向けて、この二段階をどう勤務設計に落とすかを整理する。7月28日の発災から3週間、通勤は「当分戻らない」前提(記事024)から、「部分的に、順番に戻る」前提へ移りつつある。順番に戻るときこそ、地域差と情報の落差が生まれやすい。
何が、いつ変わるのか
国土交通省第43報(8月17日10時現在)によれば、鹿児島本線は宇土駅〜八代駅間で運転見合わせが続いており、構造物変状9箇所・軌道変状約150箇所の被害が確認されている。そのうえで、8月19日から宇土駅〜小川駅間でバス代替輸送、8月26日から宇土駅〜八代駅間でバス代行輸送を実施する予定と示されている。JR九州も8月14日および17日付で「鹿児島本線(宇土駅〜小川駅間)におけるバス代行の実施について」を公表している。
同じ時期の他の交通は次のとおりである。九州新幹線は熊本駅〜新水俣駅間で運転見合わせが続き、構造物変状は約200箇所以上、軌道変状は約40箇所とされ、8月中の運転再開は困難な見込みとされている。肥薩おれんじ鉄道の八代駅〜水俣駅間は代行バスによる代替輸送が続いている(記事037)。道路側では九州自動車道の松橋IC〜えびのICが8月14日6時から一般車両通行可となり、南九州西回り自動車道の八代南IC〜田浦ICは緊急車両のみで、8月後半に一般車両開放の予定である(記事040、記事048)。国道219号の新萩原橋は橋梁損傷で通行止めが続き、8月下旬に一般車両通行可の予定とされている。
つまり今週から来週にかけて、宇土以南の移動手段は「高速道路は戻ったが鉄路は段階的」という状態で推移する。
代行バスは、同じダイヤの置き換えではない
ここを取り違えると勤務設計を誤る。鉄道の1編成は数百人を運ぶが、バス1台は数十人である。運行本数を増やしても、朝夕のピークで鉄道と同じ人数をさばくことは構造的に難しい。2016年の熊本地震でも、代行輸送の開始は「移動できるようになった」ことは意味しても「以前と同じ時間に着けるようになった」ことは意味しなかった。
加えて、代行バスは一般道を走る。信号待ち、朝夕の渋滞、復旧工事に伴う片側交互通行の影響を受けるため、所要時間は鉄道より長く、かつ日によってばらつく。乗り継ぎの待ち時間も発生する。本日8月18日時点で、便数・時刻・乗車方法の詳細は本記事執筆時点では確認できていないため、各社の公表を直接確認してほしい。
実務上の意味は次の3点である。第一に、始業時刻を代行バス開始日に合わせて一度に戻さないこと。第二に、「乗れなかった」ことを遅刻として扱わない運用を、開始前に文書で決めておくこと。第三に、輸送力の制約は復旧が進むほど見えにくくなるため、通勤時間の実測を従業員に依頼し、2週間ほど記録を集めること。
8月19日から26日までの1週間に、誰が取り残されるか
代行が宇土〜小川に先行して入る一方、小川以南から八代までの区間は26日まで空白が残る。この段差は、居住地によって通勤条件が完全に分かれることを意味する。
八代市には8月17日8時時点で避難者1,704人がおり、断水も3,483戸が残っている(国土交通省第43報・8月17日7時30分時点)。八代方面の従業員は、水の制約と通勤の制約を同時に抱えたまま、代行バスの恩恵を1週間遅れて受けることになる。宇城市方面の従業員は19日から代行を使えるが、宇城市の断水は3,570戸と八代市を上回っており、水の条件はむしろ厳しい。
この1週間、通勤条件で従業員を分けるときは、地域名ではなく「区間」で線を引くほうが誤解が少ない。「八代市在住だから」ではなく「小川以南の区間を含むから」と説明する。同じ市内でも駅が違えば条件が変わるためである。地域差の説明の考え方は記事046にまとめている。
なお、九州自動車道は全線で一般車両が通行できるため、この1週間はマイカーや社用車での送迎が現実的な代替になる。ただし通勤方法を変えるときは、後述の通勤災害の扱いと、駐車場の確保、燃料費の負担をあわせて決めておく必要がある。
38度の日に、屋外のバス停で待たせることの意味
本日8月18日、熊本の予想最高気温は38度である(気象庁・8月17日11時発表)。一方で18日を対象とする熱中症警戒アラートに熊本県は含まれていない。気象庁は府県天気概況で「県内に18日を対象とした『熱中症警戒アラート』は発表されていませんが、気温が高く熱中症になりやすい危険な暑さになることが予想されます」と明記している。
代行バスの乗降場所は、駅舎の中とは限らない。駅前広場や路上に仮設のバス停が設けられる場合、待ち時間は屋外の直射下になる。乗り継ぎで10分から20分待つとすれば、それは出勤前に暑熱曝露を受けてから就業を始めるということである。前日の疲労が抜けないまま高温下で作業に入る流れは、避けられるなら避けたい。
対応としては、始業時刻の後ろ倒しよりも前倒しのほうが有効な場合がある。気温が上がりきる前の時間帯に移動を終える設計である。あわせて、事業場に到着した従業員がすぐに冷却と補水を行える場所を入口付近に用意しておく。アラートが出ない日の中止・調整の判断基準については記事043と記事025を参照してほしい。
通勤方法が変わる局面で、通勤災害をどう扱うか
代行バスの開始、マイカーへの切り替え、家族の送迎など、この2週間で通勤方法が変わる従業員は多い。通勤災害は、会社に届け出た経路かどうかで決まるのではなく、住居と就業場所との間を合理的な経路および方法で往復したかどうかで判断される。したがって、代行バスの経路が届出と違っていても、それが合理的な経路であれば通勤災害の対象になりうる。逆に、届け出てさえいれば何でも認められるわけでもない。
実務では、届出を厳格に運用することよりも、「変更があったら事後でよいので申告してほしい」と伝え、把握できる状態を作ることのほうが役に立つ。把握できていれば、事故が起きたときに経路を再構成でき、通勤手当の精算も後追いできる。個別の判断が必要な事案は、所轄の労働基準監督署に確認するのが確実である。労災と各種給付の切り分けは記事045にまとめている。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 項目 | 8月18日中にやること | 確認先・備考 |
|---|---|---|
| 対象者の特定 | 宇土〜小川、小川〜八代の各区間を通勤で使う従業員を区間別に洗い出す | 居住地ではなく区間で分ける |
| ダイヤの確認 | 19日開始分の便数・時刻・乗降場所を各社の公表で確認し、社内に一斉配信 | JR九州、国土交通省第43報 |
| 始業時刻 | 19日から一律に戻さない。区間別に暫定の始業時刻を設定し、26日に再調整することを予告 | 26日の八代延伸を織り込む |
| 遅延の扱い | 「乗れなかった」場合を遅刻扱いしない運用を、19日より前に文書化 | 就業規則の特例運用として記録 |
| 所要時間の実測 | 19日から2週間、実際のドア・ツー・ドアの所要時間を任意で申告してもらう | 26日以降の再設計の材料にする |
| 代替手段 | 19日〜25日の小川以南について、マイカー・社用車・相乗りの可否と駐車場を決める | 九州道は全線で一般車両通行可 |
| 通勤経路の届出 | 変更は事後申告で可とし、把握を優先する旨を周知 | 通勤災害の判断は合理的経路による |
| 暑熱対策 | バス停での待ち時間を前提に、到着直後の冷却・補水の場所を入口付近に確保 | 18日は予想最高気温38度、アラートは未発表 |
| 水の条件 | 通勤が改善しても断水が残る事業場があることを、別の軸として管理 | 宇城3,570戸、八代3,483戸、氷川1,351戸 |
| 26日の再設計 | 八代延伸に合わせた始業時刻の再設定を、今週中に日程だけ確定 | 前倒しで通知し、当日の混乱を減らす |