8月10日の政府・熊本県の資料に、九州道の松橋IC〜えびのIC間について「8月後半に全線で一般車両の通行が可能となる予定」、南九州道の八代JCT〜田浦IC間について「8月後半に八代南IC〜田浦IC間で一般車両の通行が可能となる予定」と明記された。日付が確定したわけではないが、時期の幅が示されたのは発災以来はじめてである。この記事は、被災地の人事総務・経営層と、被災地外の本社人事に向けて、お盆の連休に入る前の2日間で決めておくべきことを整理する。開放の当日に慌てて動くのではなく、開放を織り込んだ勤務と物流を先に設計しておくための材料である。
「8月後半」を待つのではなく、幅で設計する
現在、九州道の松橋IC〜えびのIC、南九州道の八代JCT〜田浦ICは緊急車両のみの通行で、一般車両は通れない。この状態を前提に、多くの事業場が記事024で扱ったような迂回・時差出勤・在宅の組み合わせを組んできた。8月10日には肥薩おれんじ鉄道の八代〜水俣間で代行バスの運行も始まり(記事037)、通勤手段の選択肢は少しずつ増えている。
ここで避けたいのは、「開放されたら元に戻す」という設計である。開放日が示されていない以上、元に戻す日も決められず、結果として何も決まらないまま連休に入ってしまう。代わりに、次の3つの状態を先に用意しておく。
- 状態A(現在):緊急車両のみ。迂回と代行バス、時差出勤を継続
- 状態B(開放直後):一般車両は通れるが、対面通行や車線規制、交通量の集中で所要時間が読めない
- 状態C(安定後):所要時間が発災前に近づく
多くの事業場が忘れるのが状態Bである。開放の初日から数日は、我慢していた交通が一気に流れ込み、渋滞と事故のリスクがむしろ高まる。開放を待っていた復旧関連の車両、お盆明けに動き出す物流、通常の通勤が同じ日に重なるためである。状態Bの期間を「1週間程度」と仮に置き、その間の勤務ルールを今のうちに文書にしておくとよい。
3つの状態を先に書いておく利点は、開放日が前後しても文書を書き直さなくて済むことにある。開放が8月下旬にずれても、逆に早まっても、切り替えるのは「今日はどの状態か」を告知する一文だけになる。日付が未定であることを理由に判断を止めないための仕掛けだと考えてほしい。
状態Bで決めておく5つのこと
① 所要時間の申告を求めない。 開放直後は誰も正確に読めない。所要時間を自己申告させて遅刻を判定する運用は、無理な運転を誘発する。当面は始業時刻に幅を持たせるか、コアタイムを縮める。
② 移動中の連絡を義務づけない。 渋滞中の連絡は運転中の操作を招く。「着いたら連絡」に統一する。
③ 夜間・早朝の運転を優先させない。 開放直後に「空いている時間に動く」判断は合理的に見えるが、睡眠時間を削る形になりやすい。とくに復旧作業や応急修理に従事している従業員は、日中の作業と早朝運転が重なると危険が大きい。
④ 通勤経路の変更届を簡略化する。 通勤災害の認定に関わるため経路の把握は必要だが、この時期に紙の申請を求めると誰も出さなくなる。メールやチャットでの申告を認め、あとでまとめて整える運用にする。
⑤ 開放されても戻れない人がいることを前提にする。 高速道路が通れても、断水地区に住む従業員は給水のための時間が必要であり(記事030)、避難所や仮設住宅への移行の途中にある従業員もいる(記事026)。「道路が戻ったのだから通常勤務」という一律の切り替えは、同じ職場のなかに新たな不公平を作る。
物流側で先に押さえる3点
通勤だけでなく、物流の再設計も同時に走る。八代港では外港5バース・内港4バースが利用可能となり、8月12日から穀物バースの利用が再開される予定とされている。県管理道路の全面通行止めは4か所に減り、直轄国道の通行止めはない。
事業場としては、まず納品・出荷の前提時間を取引先と共有し直すこと。開放前の所要時間で見積もった納期が、開放直後の渋滞でかえって守れなくなる場面がある。次に、ドライバーの拘束時間を見直すこと。迂回で伸びていた運行時間が短縮される見込みだが、状態Bの間は短縮されない前提で改善基準告示上の拘束時間を組む。最後に、荷役作業の暑さ対策を緩めないこと。8月11日は熊本県に熱中症警戒アラートが4日ぶりに発表され、熊本市の予想最高気温は36度、県内の暑さ指数は「危険」とされている。道路事情が良くなることと、屋外作業の危険が減ることは別である(記事025)。
お盆の連休を挟むことの意味
8月13日から16日の連休は、開放の見通しが示された直後に来る。この4日間に帰省や親族の見舞いで移動する従業員が出るが、開放はまだであり、道路条件は状態Aのままである可能性が高い。連休前に伝えるべきは「8月後半に開放される見通しがある」という情報そのものよりも、連休中はまだ開放されていない前提で移動を計画してほしいという一文である。見通しの報道だけが伝わると、開放済みだと誤解して当日に長い迂回を強いられる従業員が出る。
連休明けの8月17日以降、開放が近づく局面で通勤経路の再申告が必要になる。連休前に様式と提出先だけ決めておけば、17日から動き出せる。人員計画そのものは記事028を参照されたい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 項目 | 内容 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 状態の定義 | 状態A・B・Cの3区分と、それぞれの勤務ルールを1枚にする | 8月12日まで |
| 連休前の周知 | 「連休中はまだ開放されていない前提で移動を」を全従業員に伝える | 8月12日まで |
| 始業時刻 | 状態Bの間は始業に幅を持たせる、またはコアタイムを縮める | 8月12日まで |
| 連絡ルール | 移動中の連絡を求めず「着いたら連絡」に統一する | 8月12日まで |
| 経路変更 | 通勤経路の再申告様式と提出先を決める(提出はメール・チャット可) | 8月12日まで |
| 早朝運転 | 復旧作業従事者の早朝運転を推奨しない旨を管理職に共有 | 8月12日まで |
| 取引先調整 | 納品・出荷の前提時間を共有し直し、状態Bの遅延を織り込む | 8月17日まで |
| 拘束時間 | 状態Bでは運行時間が短縮されない前提で乗務員の拘束時間を組む | 8月17日まで |
| 暑さ対策 | 荷役・屋外作業の中止基準を、道路事情と切り離して維持する | 継続 |
| 個別配慮 | 断水地区居住・避難所滞在の従業員には一律の通常勤務復帰を適用しない | 継続 |