発災から12日目。熊本県内の避難所は125か所、避難者は6,651人(熊本県災害対策本部・8月7日14時時点)で、減り方は緩やかになっている。熊本地方気象台は8月14日まで最高気温35度前後・最低気温30度前後の見通しを示した。つまり、あと1週間、夜も気温が下がらない。この記事は、避難所や車中泊から出勤してくる従業員がいる事業場の産業保健職・人事総務に向けて、空調の充足を待たずに職場側でできることを整理する。
避難所の暑さ対策は、まだ要請に追いついていない
8月7日の熊本県災害対策本部会議資料によれば、避難所への業務用エアコンは11か所から要請があり、4か所で設置済み、5か所で設置中とされている。設置が終わっていない避難所が残っている段階である。あわせて、循環型シャワー73台が設置され、入浴支援は13市町村で実施、トイレカー26台・仮設トイレ120台を含む計296台が増設された。八代市の避難所にはクーリングシェルターとして大型バス2台が提供されている。自衛隊艦船「はくおうⅡ」の入浴・休憩利用は8月5日に始まったが、台風接近のため8月6日以降は一時中断している。
支援は動いているが、避難所そのものの温熱環境が全体として整ったわけではない。モバイルファーマシーの活動報告では、避難所でエアコンと小型ファンを併用して室温を30度以下に保つ温度管理が課題になったこと、二酸化炭素濃度の測定や環境衛生点検を行っていることが伝えられている。避難所の中でも、体育館の中央と壁際、上階と1階、送風の当たる場所と当たらない場所で条件は大きく違う。「あの避難所にはエアコンが入った」という情報だけでは、その従業員が涼しい場所で眠れているかはわからない。
移りたくても、まだ移れていない人が多数いる
ホテル・旅館への宿泊支援は8月7日14時時点で申込868件。うちマッチング済みは88件、調整中349件、辞退102件、連絡がつかないもの138件とされている。申し込んだ人の1割程度しか移動できていない。建設型の応急仮設住宅は宇城市50戸・氷川町20戸が着工し、熊本市でも城南40戸・富合10戸が予定されている段階で、入居はこれからである。賃貸型(みなし仮設)は12市町村で受付中だが、契約と引っ越しに日数がかかる。
この構図を職場の側から言い換えると、「そのうち涼しいところへ移れるはずの人」が、実際にはもうしばらく避難所にとどまる、ということになる。移行期そのものの支援は記事026で扱ったが、移行が始まるまでの期間が思ったより長いという前提に、いま切り替える必要がある。
眠れない夜は、翌日の作業安全の問題になる
最低気温30度前後の夜が続くと、睡眠は分断される。深部体温が下がらないまま朝を迎えた状態で出勤すると、翌日の熱中症のリスクは上がり、注意力も落ちる。厚生労働省は8月7日12時時点で、災害復旧作業に伴う労働災害を死亡17人・負傷11人と集計しており、負傷は8月5日時点の7人から増えている。震度6強以上の市町を管轄する消防の熱中症搬送は8月6日で15件だった。
ここで重要なのは、これを「本人の体調管理」の問題として扱わないことである。避難所の室温は本人に選べない。したがって、避難所や車中泊で寝ている従業員については、前夜の睡環境を作業配置の入力情報として扱うのが筋になる。酷暑日の作業中止基準そのものは記事025で、車中泊のリスクは記事003で扱った。この記事で足したいのは、基準を「気温」だけでなく「その人が昨夜どこで寝たか」でも動かす、という一段である。
職場から届くのは、モノより先に「時間と場所」
事業場が避難所の空調を直接改善することは難しい。一方で、次の三つは事業場の裁量で今日から動かせる。
第一に、事業場内の涼しい場所を開放すること。空調の効く休憩室・会議室・更衣室を、始業前と終業後に開けておくだけで、1日のうち数時間の暑熱曝露を減らせる。シャワー設備があれば利用時間を延ばす。断水中の事業場では給水の確保が前提になるが、その運用は記事010と記事023で扱った。
第二に、勤務時間そのものを前にずらすこと。日中の最も暑い時間帯を避ける早出は、避難所で早く目が覚めてしまう生活実態とも整合する。給水所に通う時間の組み込み方は記事030で扱っており、同じ枠組みで考えられる。
第三に、宿泊費の補助や社宅・保養所の一時開放である。宿泊支援のマッチングが進まない現状では、企業が用意する一室が最も早い解決になる場合がある。費用の扱いは記事020の支援制度と突き合わせて確認したい。
誰を先に見つけるか
全員に一律の配慮を配ると、必要な人に届かない。優先して声をかけたいのは、次のような従業員である。高齢の従業員と、高齢の家族を避難所で介護している従業員。心疾患・腎疾患・糖尿病など、脱水と体温上昇の影響を受けやすい持病のある人。利尿薬・向精神薬・抗コリン作用のある薬を服用している人。妊娠中の従業員。乳幼児と同じ場所で寝ている人。そして、避難所ではなく車中泊を続けている人である。県内では車中泊に関連するとみられる災害関連死の可能性が1人報告されている(熊本県・8月7日14時時点)。
服薬が続いているかどうかは、暑熱耐性に直結する。医療機関の断水は8月7日12時時点で30施設まで減り、薬局の営業不可も7施設まで減ったが、受診と処方の確保は引き続き確認の対象になる。この点は記事033で扱った。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 区分 | 確認・実施すること | 目安 |
|---|---|---|
| 把握 | 避難所・車中泊で寝ている従業員の名簿を更新する(避難所名まで) | 週明けまで |
| 把握 | その避難所に空調が入っているか、本人に直接聞く(自治体発表だけで判断しない) | 週明けまで |
| 把握 | 前夜の睡眠時間と中途覚醒の有無を、朝礼時に一言確認する運用にする | 毎日 |
| 環境 | 空調の効く休憩室・会議室を始業前・終業後に開放する | 即日 |
| 環境 | シャワー・更衣室の利用可能時間を延長する(断水状況に応じて) | 即日 |
| 勤務 | 暑熱作業者の始業を前倒しし、日中の高温時間帯の作業量を減らす | 週明けから |
| 勤務 | 前夜に十分眠れていない申告があった日は、単独の高所・屋外作業に就けない | 即日 |
| 支援 | 社宅・保養所・宿泊費補助の可否を経営判断として確定させる | 週明けまで |
| 支援 | 宿泊支援(ホテル避難)の申込状況を本人に確認し、未申込者に案内する | 週明けまで |
| 健康 | 持病・服薬のある従業員に、薬が手元にあるか個別に確認する | 今週中 |
| 健康 | 経口補水液・冷却グッズを職場で配布し、避難所へ持ち帰れる形にする | 即日 |
| 記録 | 暑熱に関する体調不良の申告を、軽微なものも含めて記録に残す | 継続 |
避難所の空調は自治体と支援機関が進めている。職場が代われるのは、そこにいる時間を短くすることと、いない時間を涼しくすることである。この二つは、今日決めれば今日から効く。