019_職場で同僚が亡くなったとき — 勤務中の被災による死亡・安否不明に、事業場と産業保健職はどう向き合うか

本記事は2026年7月29日24時時点の公表・報道情報に基づく。被害の数値は集計主体により異なり、今後変わりうる。本稿は特定の事業場の対応や安全管理を評価するものではなく、個別の事案の労災認定の見通しを述べるものでもない。

令和8年熊本地震では、勤務中とみられる従業員の死亡・安否不明が事業場内で発生したことが公表されている。日本製紙八代工場では、閉じ込められた11人のうち5人の死亡と4人の安否不明が発表され、捜索が続いている(熊本県、7月29日14時時点)。イオンモール熊本(嘉島町)についても、イオン・イオンモール両社長が7月29日の会見で3人死亡・1人心肺停止・3人安否不明と説明した(NHK、7月29日)。従業員とみられる人が含まれるとの報道もある(7月28日夜時点)。

本稿はこれらの事案の経過や原因には立ち入らない。以降はすべて一般論として、「職場で同僚が亡くなる」「同僚の安否がわからない」という事態に、事業場と産業保健職が何を準備し、何を避けるかを整理する。

目次

段階によって、やることが違う

職場での死亡災害への対応は、一枚のマニュアルには収まらない。安否不明の段階、死亡が確認された段階、葬儀の前後、事業再開の段階では、求められることも、避けたいことも異なる。まず全体を表にする。

段階事業場がやること避けたいこと
安否不明期家族への連絡窓口を一本化する。新しい情報がなくても定時に連絡する。家族の待機場所・移動・宿泊に配慮する。報道対応の担当を家族対応と分ける複数の部署がばらばらに家族へ電話する。「わかったら連絡します」で連絡を止める。家族対応者に取材対応を兼ねさせる
死亡確認直後労働者死傷病報告の提出。労災手続きの案内を会社側から始める。強い体験をした同僚の勤務配慮事務連絡と弔意を一通に混ぜる。目撃した同僚への事情確認を急ぎすぎる
葬儀前後弔問・参列は希望を確認して個別に調整する。社内への周知の範囲と表現は遺族の意向を確かめてから決める参列の一律の強制や一律の禁止。故人の席や私物の整理を急ぐ
再開期再開の判断を説明し、一言を添える。追悼の場は任意参加で設ける。面談の入口を開いておく何事もなかったかのような再開。「不謹慎」を理由にした期限のない全停止
中長期月単位でフォローを続ける。命日や節目の反応に留意する。アカウント等の扱いは関係者と相談して時期を決める一定期間での機械的な打ち切り。反応が続く人への否定的な評価

安否不明の段階 — 「情報がない」ことを伝え続ける

安否不明の期間には特有の負荷がある。行方不明という状態は、家族心理学者Pauline Bossが「はっきりしないまま残り、解決することも、決着を見ることも不可能な喪失体験」と定義した「あいまいな喪失(ambiguous loss)」にあたるとされる。災害グリーフサポート(JDGS)プロジェクトの資料は、生死が確認できない状況では答えがなく、区切りをつけることが難しくなると説明している。事業場にできるのは、この状態を軽くすることではなく、重くしないことである。

実務の要点は三つ。第一に、家族への連絡窓口を一人(一部署)に決め、他の部署からの直接連絡を止める。善意の電話が複数入るほど、家族は同じ説明を繰り返すことになる。第二に、新しい情報がないときも「現時点で新しい情報はありません」という連絡を決めた時刻に入れる。連絡が途絶えることが最も負荷になる。第三に、報道対応は家族対応と別の担当者に分ける。遠方から来る家族の待機場所・移動・宿泊への配慮も、この段階の事業場の仕事である。あわせて、職場の側が「亡くなった前提」の言動を先取りしないことも、同僚と家族の双方に対して重要である。

労災の手続きは、会社側から案内する

厚生労働省のパンフレットでは、地震などの天災地変によって被災した場合は原則として業務災害と認められないが、「事業場の立地条件や作業条件・作業環境等により、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められます」と説明されている。東日本大震災の際には、厚労省は「仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができます」とし、地震からの避難行為も仕事に付随する行為にあたるとするリーフレットを示した経緯がある。個別の事案が業務上とされるかは労働基準監督署の判断であり、本稿では立ち入らない。

事業場側に確実に求められるのは手続きである。労災保険には遺族(補償)等給付や葬祭料等があるが、これらは遺族が請求して初めて動く。制度を知らない、気力がない、会社に言い出しにくい——請求主義の壁を遺族に越えさせず、会社側から制度の存在と窓口を案内し、書類の準備を実務として支える。今回の地震では、事業主等の証明が受けられなくても請求書を受理する等の手続き簡略化がすでに示されている(厚労省・令和8年熊本地震 第10・11報)。また、労働災害等により労働者が死亡・休業した場合の労働者死傷病報告は遅滞なく所轄監督署長へ提出する(2025年1月から原則電子申請)。監督署の調査には誠実に協力する。

残された同僚 — 負荷は一様ではない

同じ職場にいても、負荷はまったく違う。倒壊の瞬間を目撃した人、救助や搬出にあたった人には、惨事ストレスの反応が出うる(記事07)。「シフトがひとつ違えば自分だった」と感じる人、偶然の休みで難を逃れた人には、罪責感を伴う別種の反応が出うる。そして「亡くなった人がいるのに自分の不調など言えない」という抑制が職場全体にかかる(記事09)。兵庫県こころのケアセンターの災害救援者向け資料は、惨事ストレス対策を単独で置くのではなく、日常のストレス対策と職場の関係づくりの上に載せる三層の構造で捉えることを勧めている。

休ませ方にも幅がいる。一律の自宅待機は、職場に来て仲間と過ごすことが支えになる人を孤立させることがある。休む選択も、来る選択も、両方を用意して本人が選べるようにし、いずれの選択にも評価を持ち込まない。

席・持ち物・アカウントを急がない

亡くなった同僚の席、ロッカーの私物、社内システムのアカウント、メーリングリストの宛先。これらを早々に「整理」することは、残された同僚には消去のように映ることがある。業務上の必要(引き継ぎ、セキュリティ)と、痕跡を残す時間の必要は両立できる。時期は総務が単独で決めず、遺族の意向と身近な同僚の様子を見て決める。追悼の場(献花台、記帳、社内での黙祷など)を設ける場合は任意参加とし、参加しない人が咎められない形にする。

事業再開との両立

再開を「不謹慎」と考えて全停止を続けることも、何事もなかったかのように再開することも、どちらも同僚を苦しめる。前者は生活と雇用の不安を長引かせ、後者は「あの人がいたことがなかったことにされた」という感覚を残す。再開の日に、経営者が自分の言葉で一言添えること——亡くなった同僚に触れ、再開の判断の理由を説明すること——には、その両方を避ける意味がある。

指揮を執る人自身が当事者である

見落とされやすいのは、経営者・管理職自身が最も重い当事者でありながら、遺族対応・行政対応・再開判断の指揮を執らされる構造である(記事18)。自分の部下を亡くした管理職の悲嘆は、役割の陰で後回しにされやすい。対応の中心にいる人にこそ、交代要員と休息、そして話せる相手が要る。

産業保健職にできること

産業保健職の仕事は、この局面では急がないことである。直後の全員面談を組むより、面談の入口が開いていることを繰り返し知らせ、管理職経由で気になる人の情報が集まる線を作る。フォローは週単位ではなく月単位で構え、四十九日、月命日、一周忌といった節目に反応が動きうることを想定しておく(記事15)。死別への反応の多くは時間とともに和らぐ自然な経過をたどるが、強い悲嘆が長く続き生活や就労に支障が出ている場合は、産業保健職が抱え込まず、精神科医療や地域のこころのケアの資源につなぐ。

職場で同僚を亡くすという経験に、慣れている事業場はない。うまくやることではなく、家族と同僚を一人にしないこと、手続きで遺族を待たせないこと、急がなくてよいことを急がないこと。それだけでも、事業場にできることは少なくない。


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次