発災から15日目。熊本県内では8月8日15時時点でDMAT80隊、DPAT18隊、JMAT31チーム139人、JDAT2チーム、災害支援ナース57人が活動している。被災医療機関は92施設、うち断水が続くのは28施設。薬局は140か所が被害を受け、5か所が営業できない状態にある。ここに8月13日から16日の連休が重なる。外部支援チームの活動規模は各チームの判断で決まるため、職場が「連休中も同じ密度で支援がある」と前提を置くことはできない。この記事は、被災地の産業保健職と人事総務が、支援が薄くなる4日間に自分たちが何を引き受け、何を引き受けないかを今日中に線引きするためのものである。
撤収は「ある日いなくなる」形では起きない
外部支援の縮小は、通知が出て一斉に引き揚げる形では進まない。実際には、急性期のDMATが担っていた病院支援が地域の医療機関に戻り、避難所の巡回が日赤救護班やJMATに移り、さらに地元の医師会・薬剤師会・保健所の平常業務へと段階的に移っていく。今回も、DPATは8月9日時点の17隊から18隊へと発表資料上は横ばいで、DMATの隊数は資料によって集計の対象(本部か現場か)が異なる。つまり「隊数が減った日」を撤収の始まりと読むのは正確ではない。
職域にとって意味があるのは隊数そのものではなく、従業員が困ったときに誰に連絡するかが変わるという一点である。これまで避難所で巡回チームに相談できていたことが、来週には地元の診療所の予約を取る話になる。この切り替わりが、連休という「窓口が閉まる4日間」の直前に起きているのが今週の特徴である。
避難所の側でも同じことが進んでいる。熊本県の発表では、避難所は8月9日の118か所6,355人から、8月10日14時時点で97か所6,108人へと変わった。人数の減り方に比べて、避難所そのものの統合が先に進んでいる。統合されると、これまで身近にあった相談先が別の場所に移る。従業員が「昨日まで話せた人がいない」状態に置かれる可能性を、職場は先回りして見込んでおく必要がある。
職域が引き継ぐ範囲は3つに限る
産業保健職と人事総務が引き受けられる範囲は、次の3つに絞ると現実的に回る。
① 情報の窓口になること。 従業員が「どこに行けばよいか」を自分で調べなくて済むようにする。連休中に開いている医療機関、当番薬局、応急給水の場所と時間、入浴支援の実施場所を1枚にまとめて配る。熊本県は薬局の営業状況や医療受診に関する情報ページを設けており、これを転記するだけで足りる。紙とメッセージアプリの両方で配るのは、断水地区で充電環境が不安定な従業員がいるためである。
② 健康観察を切らさないこと。 巡回チームが見ていた「顔色」を、職場が代わりに見る。避難所や車中泊を続けている従業員、断水地区に住む従業員、応急修理や復旧作業に出ている従業員のリストを作り、連休中に1回は誰かが連絡する体制にする。連絡は安否確認ではなく、睡眠・食事・服薬・体調の4点を聞く短いやりとりでよい。記事036で述べたとおり、2週間目以降は不調が申告されなくなるため、待つのではなく聞きにいく設計が要る。
③ 受診と服薬の橋渡しをすること。 連休をまたぐ処方の手当ては記事038で扱ったが、支援チームの縮小はこれに拍車をかける。モバイルファーマシーは熊本県薬剤師会が宇城市、福岡県薬剤師会が八代市で活動しているが、扱える品目と投与日数には制限がある。慢性疾患のある従業員について、残薬が連休明けまで足りるかを今日か明日のうちに確認しておく。
引き受けないことも決める
同じくらい重要なのは、職域が引き受けない範囲を明示することである。診断や治療方針の判断、避難所全体の運営、家族の医療手配は職場の権限でも責任でもない。ここを曖昧にすると、産業保健職ひとりに相談が集中し、連休明けに担当者が倒れる。
「職場ができるのはここまで、ここから先は医療機関・自治体の窓口」という線を文書にして、管理職に共有しておく。線を引くこと自体が従業員を突き放すことにはならない。むしろ、どこに行けば答えが得られるかを示すほうが早い。
この線引きは、産業保健職自身を守る作業でもある。支援に入った自社の従業員がいる場合の惨事ストレスへの配慮は記事007にまとめているが、そこで述べたことは社内で支援側に立っている産業保健職・人事担当者にもそのまま当てはまる。連休中の当番を1人に集中させない、当番の日は通常業務を入れない、連休明けに当番だった人の話を聞く場を作る。この3点だけでも、担当者が抜ける事態はかなり防げる。
連休中の「暑さ」は支援の薄さと重なる
8月11日は熊本県に熱中症警戒アラートが4日ぶりに発表され、熊本市の予想最高気温は36度、県内各地の暑さ指数は「危険」とされている。アラートが出ない日が数日続いたあとの再発表であり、体が暑さに慣れていない状態で連休の作業に入る従業員が出る。
連休中は救急の受け入れ先が平日より限られ、外部支援も薄い。つまり、同じ熱中症でも連休中のほうが結果が重くなりうる。作業中止の基準は外部のアラートに依存させず、自社の基準として決めておく(記事025、記事034)。屋根の応急修理など高所作業が続く事業場では記事029の内容も併せて確認しておきたい。
なお、断水地区では試験通水が始まっている。八代市では8校区で試験通水中とされ、蛇口から水が出ても使用は控えるよう案内が出ている。事業場の再開判断は「水が出たかどうか」ではなく「使用可の通知が出たかどうか」で行う。通水後の設備再稼働の注意点は記事027にまとめている。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 区分 | 今日〜明日に確認すること | 担当の目安 |
|---|---|---|
| 連絡先 | 連休中に開いている医療機関・当番薬局・給水拠点・入浴支援の一覧を1枚にする | 人事総務 |
| 配布 | 紙とメッセージアプリの両方で配る。断水地区の従業員には紙を優先 | 人事総務 |
| 対象者名簿 | 避難所・車中泊、断水地区居住、復旧作業従事、慢性疾患ありの従業員を洗い出す | 産業保健職 |
| 残薬 | 名簿の対象者について、処方が連休明けまで足りるかを確認する | 産業保健職 |
| 連休中の当番 | 4日間、日ごとに連絡を受ける担当者を決めて名前を出す | 人事総務 |
| 連絡内容 | 睡眠・食事・服薬・体調の4点を聞く短い型を用意する | 産業保健職 |
| 線引き | 職場が引き受けない範囲(診断・治療方針・家族の医療手配)を文書化し管理職へ共有 | 産業保健職・人事総務 |
| 作業中止基準 | アラートの有無に依存しない自社基準を、連休前に文書で確定する | 事業者・安全担当 |
| 水の扱い | 試験通水地区は「使用可の通知」を再開判断の基準に置く | 設備・安全担当 |
| 連休明け | 8月17日に、連絡が取れなかった従業員から面談を組む段取りを先に決めておく | 産業保健職 |