台風13号は大型で強い勢力を保ったまま南西諸島付近を進み、熊本県の一部はすでに強風域に入っている。屋根の応急処置は自衛隊と建設業協会の協力で進んでいるが、風が収まった直後は「早く見に行きたい」「早く片付けたい」という力が最も強く働く時間帯でもある。台風接近前の作業中止判断は記事029で扱った。この記事はその続きで、通過したあとに何をどの順で再開するかを、風が吹いているうちに決めておくためのものである。読者は事業者、安全担当、人事総務を想定している。
通過後の半日に何が起きるか
台風が通り過ぎた直後の現場は、外形上は穏やかである。風が弱まり、日が差し、道路が通れるようになる。そのため「もう大丈夫」という判断が、地面の上に立っている人の実感として先に来る。
一方で条件は悪化している。屋根に張ったブルーシートは、めくれた状態か、部分的に外れた状態で残る。飛散物が敷地内に散らばり、その下に何があるかは見えない。地震で緩んだ屋根材や外壁材は、風を一度受けたことでさらに不安定になっている。8月6日には八代市で39度が観測されており、通過後に晴れれば気温はすぐ戻る。つまり「風は止んだが、高所も足元も熱環境も、台風前より悪い」という状態から半日が始まる。
熊本地方気象台は、地震により地盤が緩んでいる場所や損傷した河川があるため、普段より少ない雨でも土砂災害や洪水害が発生する可能性があると指摘している。あわせて、今後1週間程度は最大震度5強程度以上の地震に注意が必要とされている。屋根の上に人がいるときに震度4の揺れが来る可能性は、今回に限っては現実的な想定である。実際、8月6日にも天草・芦北地方でM5.1・最大震度4、熊本地方でM4.5・最大震度4の地震が発生している。
再開の順序を3段階に分ける
通過後の作業を、危険度と必要な準備で3段階に分けておくと現場の判断が速い。
第1段階は、地上からの目視である。建物の外周を地上から歩き、屋根材の浮き、外壁の剥離、看板や設備の傾き、飛散物の位置を記録する。この段階では誰も屋根に上がらないし、何も動かさない。この段階を独立させることが、この記事のいちばんの要点である。片付けと点検を同時に始めると、危険物の上に人が立つ。
第2段階は、地上での片付けと安全確保である。飛散物を除去し、立入禁止区画を設定し、電線の垂れ下がりや漏電の疑いがある箇所を電力会社・専門業者に連絡する。ここで重要なのは、屋根から落ちてくる可能性があるものの真下を先に区画することで、区画してから片付けに入る。復電時の火災リスクは記事012で扱ったが、停電が再発した地域では同じ注意が要る。
第3段階が、高所作業である。屋根に上がる、ブルーシートを張り直す、設備を復旧する。これは第1・第2段階が終わり、後述の条件が満たされてから着手する。急いで得られるものと失うものが最も釣り合わないのがこの段階である。
高所作業を再開してよい条件
次の条件がすべて満たされるまで、屋根に人を上げない。事業場ごとに紙1枚にして掲示しておくと、現場で判断が割れない。
気象の条件として、平均風速10メートル毎秒以上の強風時、大雨・大雪時には高所作業を行わないことが労働安全衛生規則で定められている。台風の通過直後は風が階段状に弱まるため、「一時的に弱まったところ」で上がらない。予報を確認し、少なくとも数時間先まで基準を下回る見通しが立ってから着手する。あわせて、屋根面が濡れている間は上がらない。
暑熱の条件として、通過後に晴れれば午前中から危険な暑さに戻る。2025年6月施行の熱中症対策の義務化を踏まえ、WBGTの把握、作業時間の短縮、休憩場所の確保、体調確認を行える体制がないなら、その日は上がらない。基準の決め方は記事025に整理した。
人の条件として、地震発生から10日が過ぎ、断水下での生活が続いている作業者は睡眠不足であることを前提とする。単独作業を禁止し、必ず2人以上とする。墜落制止用器具のフックをかける場所が確保できない屋根には上がらない。応急修理の駆け込みで、普段は屋根に上がらない人が上がる状況が生じている点も、記事029で述べたとおり注意が必要である。
余震の条件として、屋根の上での揺れに備え、地上に監視役を置き、揺れを感じたら直ちに姿勢を低くして待つことを事前に共有しておく。屋根上での「すぐ降りる」判断は、かえって危険なことがある。
従業員の自宅は、事業場の問題でもある
見落とされやすいのは、従業員が休日に自宅の屋根に上がることである。会社の管理下ではないが、そこで負傷すれば戦力は同じだけ失われ、本人の生活再建も止まる。屋根の応急処置は自衛隊と建設業協会の協力で進んでおり、罹災証明や住宅の応急修理制度の枠組みも動いている(記事022、記事020)。「自分で上がらなくてよい経路がある」ことを職場から具体的に伝えることが、結果として最も効く安全対策になる。ボランティア活動として他人の家の屋根に上がる場合の注意は記事021に整理した。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 段階 | 確認項目 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 事前 | 通過後の再開手順を3段階に分けて紙に書き、掲示した | 風が吹いているうちに |
| 事前 | 「誰が再開を判断するか」を1人に決めた | 風が吹いているうちに |
| 第1段階 | 地上からの目視点検を実施し、記録した | 屋根に誰も上げない |
| 第1段階 | 屋根材の浮き・外壁の剥離・看板の傾きを確認した | 写真で記録 |
| 第2段階 | 落下のおそれがある箇所の真下を立入禁止に区画した | 片付けの前に区画 |
| 第2段階 | 電線の垂れ下がり・漏電の疑いを専門業者に連絡した | 自分で触らない |
| 第2段階 | 側溝・法面・敷地内の土砂の状況を確認した | 地盤が緩んでいる前提で |
| 第3段階 | 平均風速10m/s未満が数時間先まで見込めることを確認した | 一時的な弱まりでは上がらない |
| 第3段階 | 屋根面が乾いていることを確認した | 濡れていれば延期 |
| 第3段階 | WBGTの把握・休憩場所・体調確認の体制がある | なければその日は上がらない |
| 第3段階 | 2人以上での作業とし、単独作業を禁止した | 例外を作らない |
| 第3段階 | 墜落制止用器具のフック位置を事前に決めた | 決められなければ上がらない |
| 第3段階 | 地上に監視役を置き、余震時の対応を共有した | 屋根上では姿勢を低く |
| 従業員向け | 自宅の屋根に自分で上がらずに済む窓口を案内した | 今週中 |