094_煙突と高架水槽は、誰も点検していない — 応急危険度判定の外に残った工作物を、雨と余震が続く9月に見に行く

発災の翌週、多くの事業場は建物の応急危険度判定を受けた。緑・黄・赤の紙が貼られ、事業場を再開してよいかの判断はそこを起点に行われた。ところが判定の対象は原則として建築物であって、敷地内の工作物や屋上の設備は、その多くが誰の点検も受けないまま38日が過ぎている。9月1日、国土交通大臣が工場の煙突倒壊などを受けて、法律に基づく劣化状況の報告対象を広げるなどの再発防止策を検討する考えを示したと報じられた。この記事は、事業者・安全担当・設備担当が、雨と余震が続く9月に、建物の「外側」に残った危険をどう洗い出すかを扱う。

目次

判定の網から落ちているもの

応急危険度判定は、余震による二次災害を防ぐために建物の使用可否を短時間で判断する仕組みである。人手も時間も限られるなかで、まず建物本体の構造被害を見る。そのため、次のようなものは判定の対象外か、対象であっても詳細には見られていないことが多い。

  • 煙突、排気筒、集じん機のダクト
  • 屋上の高架水槽、受水槽、キュービクル、空調室外機の架台
  • 広告塔、看板、アンテナ、避雷針
  • 擁壁、ブロック塀、門柱
  • 屋外階段、渡り廊下、外付けの配管とその支持金物
  • 天井裏の吊り天井、ダクト、配管の振れ止め

これらに共通するのは、高いところにあり、下に人が通るという点である。倒れれば作業者だけでなく、通勤する従業員や来訪者、隣接する道路の通行人にも及ぶ。そして地震で一度ゆるんだ支持部は、その後の余震と降雨で少しずつ進行する。発災直後に「見た目に異常なし」だったものが、38日後にも同じ状態である保証はない。

9月1日に動いたこと

報じられている範囲では、国土交通大臣が9月1日、法律に基づいて劣化状況を報告する対象を広げるなどの再発防止策を検討する考えを示した、というのが確認できる事実である。制度の具体的な拡大範囲や時期は、本日時点で示されていない。個別の事案について、原因や管理体制をここで論じることはしない。

事業場にとって実務的な意味は二つある。ひとつは、今後、点検と報告の対象が広がる可能性があるということ。もうひとつは、制度が変わるのを待つ理由はない、ということである。労働安全衛生法の下では、事業者は作業場所の危険を防止する義務を負う。制度改正の前でも、自社の敷地内で人の上にあるものを確かめる根拠には事欠かない(記事005)。

優先順位は「高さ」と「下に人がいるか」で決まる

一度に全部は見られない。次の順で並べると、限られた人手を配分しやすい。

第1順位:高くて、下に人の動線があるもの。 煙突、高架水槽、広告塔、屋上設備。通用門の上の看板。駐輪場に面したブロック塀。ここは、点検が終わるまで立入経路を変えるという暫定措置が同時に取れる。動線を1本ずらすだけで、点検が終わるまでの日数を稼げる。

第2順位:構造には効かないが、落ちれば作業を止めるもの。 外付け配管の支持金物、ダクト、ケーブルラック。これらは落下時の被害が設備停止として現れ、復旧に時間がかかる。

第3順位:日常的に人が近づかないが、劣化が進むもの。 擁壁、屋外階段の裏側、屋上防水。雨が続く時期に劣化が可視化されやすいので、今週の雨は点検の機会でもある。

第4順位:内部。 吊り天井、照明器具、書架・什器の転倒防止。事務所の天井は、余震が続く3〜4週間のあいだ、見上げておく価値がある。

なお、貯水槽・受水槽の衛生面(断水解消後の再稼働、清掃、水質確認)については記事027で整理している。今回は構造・支持部の話であり、両方を同じ日に見に行くと効率がよい。

点検作業そのものが、危険な作業である

ここを飛ばすと本末転倒になる。屋上や煙突の点検は、それ自体が高所作業である。今週の熊本は雨で、明日の降水確率は100%。濡れた屋上、濡れた梯子、風のある日の高所は、点検の対象より先に点検する人を危険にさらす。

守るべき線は次のとおり。雨天・強風時は屋上と高所の点検を行わない。 双眼鏡やカメラ、可能ならドローンでの遠望確認に置き換える。地上から見上げるだけでも、傾き、ひび、支持金物の外れ、シーリングの切れは相当程度わかる。

やむを得ず登る場合は、墜落制止用器具の使用、親綱の設置、単独作業の禁止、開口部と脆弱部(老朽化したスレート屋根など)への立入禁止の明示を先に行う。地震後の建物は、通常の点検と同じ前提が成り立たない。踏み抜き、手すりの脱落、階段の段差ずれが起きうる。

外部の業者に点検を発注する場合は、注文者としての責任が生じる。作業計画、作業員の資格、機械の点検、そして作業場所の危険(余震、通行、既存の損傷箇所)を発注側から伝える必要がある。この整理は記事072で扱っている。

見つかったものを、どう記録するか

点検で被害が見つかったとき、記録の残し方で後の手続きが変わる。

写真は、遠景(建物全体と位置がわかるもの)、中景(部位)、近景(損傷そのもの)の3段階で撮る。撮影日時が残る設定にする。損傷の大きさがわかるよう、メジャーや既知の寸法物を写し込む。この撮り方は、罹災証明の二次調査、保険の請求、公費解体・自費解体の申請、税の雑損控除のいずれでも通用する(記事075、記事087)。

そのうえで、見つかった不具合を「今すぐ止める/期限を切って直す/経過を見る」の3段階に仕分け、経過観察としたものには次回の確認日を入れる。9月は復旧・復興のプラン策定に向けて自治体の体制が変わる時期でもあり、相談先が動く(記事092)。自社の記録が整っていれば、窓口が変わっても説明をやり直さずに済む。

実務でそのまま使えるチェックリスト

対象見るところ判断の目安措置
煙突・排気筒基部の亀裂、支持ワイヤの緩み、傾き、目地のずれ目視で傾きがわかる/基部にひび立入禁止範囲を設定し専門業者へ
高架水槽・受水槽架台の脚部、アンカーボルト、配管接続部の漏れボルトの浮き、水漏れ跡使用可否を設備担当が判断、記事027も併せて確認
キュービクル・室外機基礎の沈下、固定金物、配管の振れ傾き、固定金物の変形電気主任技術者へ連絡、通電前に確認
広告塔・看板取付金物、支柱の腐食、ボルトの緩みぐらつき、錆汁直下の動線を変更
擁壁・ブロック塀はらみ、ひび、傾き、水抜き穴からの噴出目地の開き、傾斜直下と上部を立入禁止、雨後に再確認
屋外階段・渡り廊下取付部、手すり、踏板、段差のずれぐらつき、段差の発生使用停止と代替動線
外付け配管・ダクト支持金物の外れ、たわみ、接続部明らかなたわみ落下養生と補修手配
吊り天井・照明振れ止め、クリップ、器具の傾き傾き、粉の落下痕直下の座席・作業位置を移動
点検作業自体天候、風、単独作業、墜落防止雨天・強風は中止遠望確認へ置換、親綱と器具の準備
記録遠景・中景・近景の3段階、日時、寸法罹災証明・保険・解体申請に共用

参考

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