047_支援する人が半分になった日 — 撤収後に職域が引き受ける範囲を、限界とセットで線引きする

この記事は、被災地の産業医・産業保健師、人事総務、そして支援に入っている医療職に向けたものである。8月14日10時現在の厚生労働省第49報で、災害支援ナースが97名から46名へ、DMATが24隊から19隊へ減った。記事039では「撤収期に職域が引き継ぐ範囲を決める」ことを書いたが、本記事は撤収が現実に進んだ段階で、職域が引き受けられる範囲と、引き受けてはいけない範囲を、同じ紙の上に書き分けるための整理である。連休明けの8月17日を前に、今日か明日のうちに線を引いておきたい。

目次

数字の上で何が減り、何が増えたか

厚生労働省第49報(8月14日10時現在)によると、熊本県内で活動中の支援チームは、DMAT19隊とコーディネーションチーム88隊、日本DPAT19隊(本部活動7隊・現地活動12隊)、JMAT36チーム136人、JDAT8チーム、災害支援ナースは42名が19避難所で、4名が2施設で活動している。前日の第48報(8月13日10時現在)ではDMAT24隊・コーディネーションチーム56隊、災害支援ナース計97名(医療機関15名、避難所74名、介護施設8名)であった。

読み取れるのは二つである。第一に、避難所に張り付いていた実働の看護職が半分以下になった。第二に、コーディネーションチームは56隊から88隊へ増えている。実働から調整へ、支援の重心が移っている。これは支援が終わったという意味ではなく、「現場に人がいて直接見る」体制から「困りごとが上がってきたら調整する」体制へ切り替わったという意味である。上がってこない困りごとは、届かなくなる。

薬に関する支援はさらに先行して縮小している。モバイルファーマシーは熊本県薬剤師会・福岡県薬剤師会が8月12日で実施を終え、宮崎県薬剤師会は8月9日で終了している。八代市総合体育館のおくすり相談は8月17日までの予定である。一方で薬局の断水は最大59施設に対して現在も59施設で、改善が確認できていない。営業不可の薬局は前日の5施設から6施設に増えた。支援は引き、基盤は戻っていない、という時期に入っている。

職域が引き受けられること

産業保健職が引き受けられるのは、雇用関係を通じて把握できる範囲である。具体的には次の三つに絞ると現実的になる。

一つ目は、従業員本人の服薬と受診の継続確認である。かかりつけ薬局が営業不可または断水のままの従業員が、連休明けにどこで薬を受け取るのかを、8月17日より前に一人ずつ確認する。記事038で整理した処方の確保と、記事044の連休明けの混雑をあわせて読むとよい。

二つ目は、避難所に居住している従業員の体調観察を、面談と勤怠の枠組みに移すことである。避難所に看護職が常駐しなくなったぶん、勤務日に職場で会うことが唯一の観察機会になる従業員が出る。始業前の声かけ、休憩時の水分と食事の確認、就業中の体調確認を、担当を決めて記録に残す形に変える。

三つ目は、上がってきた困りごとを行政の調整ラインに乗せることである。コーディネーションチームが増えたということは、「困りごとを持ち込む先」は残っているということである。市町村の保健師、保健所、災害医療コーディネーターの連絡先を、産業保健職が手元に持っているかどうかで、この時期の対応速度は変わる。

職域が引き受けてはいけないこと

同時に、限界を明示しておかないと産業保健職が疲弊する。避難所全体の公衆衛生管理、他社従業員や地域住民の健康管理、医療行為に相当する判断は、職域の産業保健の役割ではない。このような機能はあくまでも余力がある時に支援を検討すべき内容であり、自企業の体制や優先すべき課題が存在している時に他の機能にまで手を出すことについてメリット、デメリットについて検討の上、実施する。

また、災害関連死の懸念がある高齢家族や、避難所で生活する従業員の家族については、職域は「気づいて、つなぐ」ところまでが役割である。つなぐ先を持たずに抱え込むと、対応が遅れたときの責任だけが職場に残る。記事006記事019に整理したとおり、災害関連死の認定は市町村の審査によるものであり、職場が判定するものではない。

支援する側の産業保健職自身の消耗も、この時期に表面化しやすい。記事007で扱った惨事ストレスは、外部支援が引いて「自分がやるしかない」と感じ始めた頃に強く出る。担当者を一人にしない、当番制にする、記録を共有して属人化させない、という三点を今週のうちに決めておきたい。

引き継ぎを「文書1枚」にする

口頭の引き継ぎは、支援チームが入れ替わる局面では必ず落ちる。次の項目を1枚にまとめ、産業保健職・人事総務・現場管理者の三者が同じものを持つ形にすると、担当者が変わっても機能する。誰が、何を、いつまで、どの記録に残すか。この4項目だけでよい。

たとえば「避難所に居住する従業員5名の体調確認を、勤務日の始業時に現場管理者が行い、8月末まで、健康相談記録に残す」という一文である。ここまで具体に落とすと、担当者が休んだ日に誰が代わるのかという問いが自然に出る。その問いが出ることが、この文書を作る目的でもある。

期限を「当面の間」と書かない点も重要である。支援の縮小はこの先も段階的に進む。8月末には断水の応急復旧が一区切りする見込みで、9月上旬からは建設型応急住宅への入居が始まる。従業員の生活の場が動けば、観察の方法も変える必要がある。期限を切っておけば、その時点で必ず見直しの機会が来る。逆に期限を書かないまま始めた業務は、支援が完全に引いたあとも産業保健職の手元に残り続ける。

支援が引いたあとに増える相談

外部支援が薄くなる時期には、職域に持ち込まれる相談の質が変わる。発災直後は「どこで水をもらえるか」「どこの病院が開いているか」という情報の相談が中心だった。この時期に増えるのは、疲労の蓄積、睡眠の乱れ、家族関係の緊張、生活再建の見通しが立たないことへの不安といった、答えの用意しにくい相談である。記事036で書いたとおり、2週間を過ぎると不調は申告されにくくなる。

こうした相談に対して、その場で解決しようとしないことが実務上は大切である。聞いて、記録して、必要なら専門の窓口につなぐ。産業保健職が「解決する人」であろうとすると、限界を超えたところで無理が生じる。窓口の一覧を手元に置き、つなぐ先を持ったうえで聞く姿勢が、この時期には合っている。

実務でそのまま使えるチェックリスト

確認項目期限の目安担当
かかりつけ薬局が営業不可・断水の従業員を特定し、代替の受け取り先を決めたか8月16日まで産業保健職
避難所に居住している従業員の名簿を更新し、勤務日の観察担当を決めたか8月16日まで人事総務
市町村保健師・保健所・災害医療コーディネーターの連絡先を手元に持っているか本日中産業保健職
職域が引き受けない範囲(避難所全体、他社従業員、医療行為)を文書で明示したか8月17日まで産業保健職・人事総務
産業保健の担当を一人にせず、当番制と記録共有の形にしたか8月17日まで人事総務
連休明け8月17日の受診・手続きのための時間を勤務の中に確保したか8月16日まで人事総務
引き継ぎ文書(誰が・何を・いつまで・どの記録に)を三者で共有したか8月17日まで全員

参考

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