八代市の都市ガスは、北部では約3,000戸のうち約2,700戸が8月4日までに復旧した一方、南部の約5,900戸は導管の交換・補修に少なくとも1〜2週間程度を要する見通しとされている。同じ市内で、復旧済みの地区とまだ2週間先の地区が並ぶ局面に入った。この記事は、事業場の設備と従業員の生活の両方でガスの有無が割れるときに、人事総務・産業保健職・設備担当が何を判断すればよいのかを整理する。断水については記事023と記事030で扱った。
八代市で起きていること
九州ガスの8月1日15時30分時点の発表によると、被害が比較的小さい区域約2,969戸については漏えい箇所を特定したうえで復旧作業に着手し、8月2日に1,154戸、8月3日に1,815戸の供給再開を目指すとされた。実際に8月4日までに約2,700戸が復旧している。
一方、残る約5,900戸については、復旧作業のなかで都市ガスの漏えいに加え、導管内への水の混入が確認された。導管の交換や補修を進めるが、安全性が確認できるまでに少なくとも1〜2週間程度を要する見通しとされている。日本ガス協会の応援隊561名が復旧作業を支援し、カセットコンロの配布も行われている。病院など5か所には、移動式ガス発生設備による臨時供給が始まっている。
導管内への水の混入という事情は、単なる工期の問題ではない。水が混じった状態で供給を再開すると、燃焼機器が不完全燃焼を起こす可能性がある。復旧が慎重に進むこと自体は安全上の理由がある、と社内に説明できるようにしておきたい。
事業場のガスと従業員の家のガスは、別々に割れる
ガスの復旧は供給区域の単位で進むため、事業場と従業員の自宅で状況が一致しない。次の4通りが同時に発生する。
- 事業場も自宅も復旧:通常運転に戻せる
- 事業場は復旧、自宅は未復旧:出社はできるが、入浴・調理ができない従業員が働いている
- 事業場は未復旧、自宅は復旧:生産・給食・給湯が止まったまま出社している
- どちらも未復旧:最も負荷が高い
産業保健の観点でいちばん見落とされやすいのは2番目である。事業場が動き出すと「復旧した」という空気になり、自宅が未復旧の従業員が声を上げにくくなる。断水と同じ構図で、記事009で扱った「自分はまだマシだ」が働く。人事総務は、従業員名簿に「自宅の都市ガス」の欄を一時的に足して、地区ごとの見込み時期とあわせて把握しておきたい。全戸に聞く必要はなく、八代市南部に居住する従業員だけで足りる。
供給再開の当日に、リスクが集中する
停電の復電時に通電火災のリスクが集中することは記事012で、断水解消後の貯水槽・給湯設備・冷却塔の再稼働は記事027で扱った。都市ガスにも同じ構造がある。
都市ガスの場合、供給再開には原則としてガス事業者の作業員が各戸を訪問し、開栓と器具の点検を行う。事業場側で勝手に元栓を開けて器具を使い始めることはできない。ここで事業場が準備すべきことは3つある。
第一に、開栓作業に立ち会える人を日程調整できるようにしておくこと。訪問は日時が指定されることが多く、担当者が不在だと再訪待ちになる。第二に、地震で移動した可能性のあるガス機器の位置と接続を、開栓前に自社で確認しておくこと。厨房のガスコンロ、給湯器、ボイラー、乾燥炉、実験用のバーナーなどが対象になる。第三に、開栓後しばらくは一酸化炭素警報器の作動状況と換気を意識的に確認すること。導管への水混入が確認された区域では特に、不完全燃焼の兆候(黄色い炎、すすの付着、点火不良)を現場で見る人を決めておく。
カセットコンロを屋内で多用している事業場や避難所でも、換気と一酸化炭素は同じ論点になる。猛暑で窓を閉め切っている環境では、想定より早く濃度が上がる。
ガスが戻らない期間に、何が健康リスクになるか
都市ガスが止まっている期間の実害は、生産設備よりも生活面に出る。
給湯が使えないことは、猛暑下では入浴ができないことを意味する。汗と汚れが皮膚に残る状態が続くと、汗疹や毛包炎、既存の皮膚疾患の悪化が起きやすい。断水が続く地域では水浴びもできず、入浴支援の拠点まで移動する必要がある。事業場に温水シャワーがあり、事業場側のガスが復旧しているなら、時間帯を決めて開放することの効果は大きい。実施する場合は、利用記録を残さず、誰が使ったかが職場で見えない運用にしたい。
調理ができないことは、食事が加熱を伴わない中食に偏ることを意味する。猛暑期は食品衛生上のリスクが上がり、記事011で扱った感染性胃腸炎の温床になる。社員食堂の再開は、水とガスの両方が揃うまで難しい局面が続く。当面は弁当の配付時刻と保管温度の管理が現実的な対応になる。
事業場側では、蒸気・温水・乾燥・滅菌の工程が止まる。代替熱源としてLPガスや電気ヒーターを臨時導入する場合、電気容量の超過、可燃物との離隔、屋外ボンベの転倒防止が新たな安全上の論点になる。台風13号の影響で8月6日以降は風が強まるおそれがあるため、屋外に置いた仮設のボンベや配管の固定は、本日中に点検しておきたい。
勤務ルールを地区で分けてよいか
同じ会社のなかで、ガスが戻った地区の従業員と、あと2週間戻らない地区の従業員がいる。ここで一律のルールを維持すると、後者に負荷が集中する。かといって居住地区で扱いを変えると、不公平感が生じやすい。
実務的には、「地区で分ける」のではなく「状態で申告する」形にするのが扱いやすい。自宅の水とガスの状況を自己申告してもらい、いずれかが使えない期間は、始業・終業時刻の柔軟化、入浴・給水のための中抜けの許容、社内シャワーの利用といった措置の対象とする。申告は口頭でよく、証明書類は求めない。復旧したら申告を取り下げてもらう。この形なら、居住地区という属性ではなく現に困っている状態に対応でき、復旧の進行にあわせて自然に縮小していく。
期限は「復旧見込みが示されている期間+1週間」で置く。八代市南部であれば、8月中を一区切りとするのが現実的である。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 項目 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 把握 | 八代市南部に居住する従業員を抽出し、自宅の都市ガスの状況を確認する | 人事総務 |
| 把握 | 事業場の供給区域と復旧見込み時期を、ガス事業者の最新発表で確認する | 設備・総務 |
| 再開準備 | 開栓作業の立ち会い担当者と代理を決め、平日日中の日程を空けておく | 設備・総務 |
| 再開準備 | ガスコンロ・給湯器・ボイラー・乾燥炉の位置ずれと接続を、開栓前に点検する | 設備・安全担当 |
| 安全 | 開栓後1週間は、黄色い炎・すす・点火不良の有無を現場責任者が毎日確認する | 安全担当 |
| 安全 | 一酸化炭素警報器の設置場所と作動を確認し、換気の手順を掲示する | 安全担当 |
| 安全 | カセットコンロを屋内で使う場所は、換気条件を決めて掲示する | 総務 |
| 安全 | 臨時のLPガスボンベ・仮設配管の転倒防止を、台風接近前に点検する | 設備・安全担当 |
| 生活支援 | 事業場のシャワー・給湯を時間帯を決めて開放する(利用者名は記録しない) | 総務/産業保健職 |
| 生活支援 | 弁当配付の時刻と保管温度を決め、常温放置の時間を短くする | 総務 |
| 勤務 | 水・ガスが使えない期間の柔軟措置を、居住地区ではなく自己申告で運用する | 人事総務 |
| 勤務 | 措置の期限を「復旧見込み+1週間」で設定し、社内に明示する | 人事総務 |
| 健康 | 皮膚症状(汗疹・毛包炎)と胃腸症状の相談窓口を明示する | 産業保健職 |