012_停電が復旧する瞬間が危ない — 通電火災と復電時の事故を事業場で防ぐ

本記事は2026年7月28日23時時点の情報に基づく。熊本県内およそ4万8,000戸の停電が報じられているが、復旧の見込みは現時点では確認されていない。本記事は「復旧したときに何が起きるか」を先回りして考えるためのものであり、被害の全容や個別事業場の状況を評価するものではない。

停電が続く間、現場の関心は「いつ電気が戻るか」に集中する。猛暑下ではなおさらだ。しかし過去の地震では、電気が戻った瞬間に新しい災害が始まっている。通電火災である。事業場ではさらに、設備が勝手に動き出すという住宅にはないリスクが重なる。「復旧」は終わりではなく、もうひとつの初動の始まりだと考えたい。

目次

通電火災は、地震火災の主要な形である

政府がまとめた大規模地震時の火災発生状況の資料によれば、阪神・淡路大震災では原因が特定された火災139件のうち85件(約61%)、東日本大震災では108件のうち58件(約54%)が電気に起因していた。消防白書も、東日本大震災では原因が特定されたもののうち過半数が電気に起因したと記す。

消防白書は、損傷した配線への再通電による発熱・発火、可燃物がヒーターに接触した状態での通電、転倒した器具が可燃物に触れたままの通電という三つの型を挙げる。揺れが作った「危険な配置」は停電中は無害で、通電の瞬間に火源になる。停電中に安全に見えることは保証にならない。

家庭向けの対策である感震ブレーカーには分電盤タイプ(内蔵型・後付型)、コンセントタイプ、簡易タイプがあるが、消防庁資料では設置率5.2%(令和4年9月調査の参考値)にとどまる。分電盤タイプは建物全体を落とすため夜間の照明が失われる点に注意がいる。

事業場の復電が住宅より難しい理由

住宅の復電は「ブレーカーを戻す」一動作だが、事業場ではそうはいかない。復電の瞬間に何が起こりうるかを設備ごとに分けて考えたい。

設備復電時に起こりうること通電前に確認したいこと
電気炉・乾燥炉・ヒーター類前回の設定値のまま加熱を再開し可燃物に着火炉内・周囲の可燃物、断熱材、温度計装
コンプレッサー・ポンプ・冷凍機自動起動し、損傷部から冷媒・圧縮空気・薬液が噴出配管・継手・安全弁、冷媒漏えい
ロボット・搬送機・コンベヤ原点復帰で予期しない方向に動く可動範囲内の人・物の排除、原点復帰手順
シーケンス制御盤初期状態が「停止」でないと電源投入で工程が走る初期状態の設計、インターロックの生死
非常用発電機からの切替瞬時停電・突入電流で機器が一斉に再起動切替の順序と時刻を誰が決めるか
浸水・漏水した盤・電動機絶縁低下による地絡・短絡・発火絶縁抵抗測定、メーカーによる可否判断

機械安全の規格では、動力の中断後に再供給されたとき機械が自動的に再起動して危険源となるおそれがある場合、その再起動を防止しなければならないとされる(JIS B 9700/ISO 12100)。その設計でない古い設備が残っていないか、復電前に洗い出したい。

誰が復電を決め、誰が現場にいるか

技術より先に体制の問題がある。事業場の復電は電力が届いた時点で自動的に始まり、受電設備の主遮断器を開けておかない限り、判断する間もなく全設備に電気が回る。停電が判明した段階で固めたいのは三点である。(1)主遮断器と主要分岐の遮断器を開放しておく。(2)復電の可否を判断する人(電気主任技術者、設備保全責任者など)を名前で決める。(3)復電の瞬間に各エリアへ立ち会う人を割り当てる。順に電源を入れ、区画ごとに異常を確認してから次へ進む。一斉投入はしない。

法令にも同じ発想がある。労働安全衛生規則第339条は、電路を開路して作業する場合に、開路に用いた開閉器へ施錠するか通電禁止の表示をするか監視人を置くこと、残留電荷を放電させること、高圧・特別高圧では検電と短絡接地を行うことを求める。同条第2項は、作業終了後の通電にあたり感電の危険がないことと短絡接地器具を取り外したことの確認を求める。「通電の前に確認する人がいる」ことが条文に埋め込まれている。

機械側では同規則第107条が、掃除・給油・検査・修理・調整で危険のおそれがあるときは運転を停止し、起動装置に施錠するか表示板を取り付けるなどして他の者が運転できないようにすることを定める。ロックアウト・タグアウトの法的な足場だが、混乱時ほど省略されやすい。経済産業省が2025年6月に公表した感電死傷事故の事例集でも、復電後の点検で接触防止の措置が取られていなかった事例や、監視員不在での作業が要因とされた事例が挙がっている。

浸水・漏水した設備は、通電前に絶縁を見る

配管破断やスプリンクラー作動、屋根損傷による雨水侵入で電気設備が濡れることがある。国土交通省と経済産業省の「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(令和2年6月)は、排水作業の開始前に電気設備関係者が点検・測定・開閉器類の開放といった安全処置を行うこととし、浸水した受変電設備の再利用可否はメーカー技術者の判断が必要としている。

「乾いたように見える」設備を通電したい誘惑は強いが、絶縁抵抗の低下は目視では分からない。測定して判断する、つかなければ通電しない、という線を引いておく。仮設電源や可搬型の電動工具には、同規則第333条が求める感電防止用漏電しゃ断装置の接続も忘れたくない。

猛暑が、確認を飛ばさせる

今回の災害の最大の条件は暑さである。7月28日は九州7県全県に熱中症警戒アラートが出され、熊本県内3か所で観測史上最高気温が記録されたと報じられている(詳細は記事02を参照)。電気が戻れば「まず空調を入れる」判断は自然に見えるが、空調機も転倒・配管損傷・浸水の対象である。現実的なのは優先順位を先に決めておくことだ。人が滞在する区画の照明・換気・空調を最初のグループに置き、生産設備は後に回す。紙に書いておけば、暑さの中で議論しなくて済む。

発電機に頼る場面も増える。製品評価技術基盤機構(NITE)は、2011〜2020年度の10年間に携帯発電機による一酸化炭素中毒事故が12件、うち死亡事故が5件あったと公表している。消費者庁も、発電機は屋外の、排ガスが逆流しないよう開口部から離れた風通しのよい場所で使うよう求め、車内やテント内は屋内と同等以上に危険としている。暑いから窓を閉めて発電機を回す組み合わせが最も危ない。

従業員の自宅で起きることにも、事業場は関与できる

復電の危険は職場だけの話ではない。従業員が自宅で被災すれば、結局は職場の問題になる。消費者庁は、避難時にブレーカーを落としヒーター内蔵製品のプラグを抜くこと、復旧後は外観を確認したうえで1台ずつコンセントに差して様子を見ること、異音・異臭があれば使用を中止することを呼びかけている。消防白書も、再通電後はしばらく異常がないか注意を払うよう挙げる。次のチェックリストの後半は、そのまま従業員向けの周知文に使える。

復電前チェックリスト

事業場(復電の前に)
– 主遮断器・主要分岐を開放してあるか
– 復電の可否を判断する人、区画ごとの立会者、投入の順序を決めてあるか
– 炉・ヒーター周囲の可燃物を除去し、ロボット・搬送機の可動範囲から人と物を出したか
– シーケンス制御の初期状態が「停止」であることを確認したか
– 浸水・漏水した盤・電動機の絶縁抵抗を測定したか(未測定なら通電しない)
– 機械内部に立ち入る点検に、施錠・表示板を用意したか
– 非常用発電機から商用電源への切替の手順と担当を決めてあるか
– 復電直後の巡視(発熱・異音・異臭・煙)を誰がいつ行うか決めたか

従業員へ(自宅向けに周知する内容)
– 避難・外出時はブレーカーを落とし、プラグを抜く
– 帰宅後はガスのにおいと配線・家電の損傷を確認してからブレーカーを戻す
– 水に浸かった家電・ガス機器・石油機器は使わない
– 通電後、しばらく異常がないか見ておく
– 発電機は屋外で、窓や出入口から離して使う。車内・テント内では使わない

電気が戻ったという知らせは、現場にとって数少ない良い知らせである。だからこそ、その瞬間に安全確認を差し込むのは難しい。復旧の見込みが立たない今のうちに、「誰が、どの順で、何を確認してから電源を入れるか」を一枚の紙にしておきたい。復旧作業全般の安全衛生は記事05に整理してある。

追記

【追記 7月30日】停電は約4万8,000戸(7月28日夕)から約3万5,600〜3万7,000戸(7月29日朝、九州電力送配電・政府まとめ)へ縮小しつつある。復電は地域ごとに順次進む見込みであり、本記事の「復電前の確認」はまさに今、必要になっている。

参考

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