090_まだ動いていない断層が、南に残っている — 1か月で使い切った備蓄と防災計画を、9月に組み直す

この記事は、被災地の事業者・安全衛生担当・産業保健職、そして被災地に事業場を持つ本社の防災担当に向けたものである。7月28日以降、多くの事業場が備蓄を放出し、安否確認を回し、事業継続計画を実地で試した。その1か月が終わり、断水が解消し、応急給水も8月31日で終わった。ここで多くの事業場が、備蓄を買い足さないまま、計画も書き換えないまま次の段階へ進んでしまう。

しかし地震活動は続いている。気象庁は、揺れの強かった地域では8月18日から1~2か月程度、最大震度5弱程度以上の地震に注意が必要としており、この注意期間は9月中旬から下旬まで残る。さらに、日奈久断層帯のうち今回ずれ動いていないとみられる南西側の領域が残っている。9月は、復旧作業を続けながら、次に備える月である。

目次

いまの地震活動 — 693回と、残る注意期間

気象庁の資料によれば、震度1以上の地震は693回に達している(8月21日12時現在)。内訳は震度7が1回、震度5弱が5回、震度4が23回、震度3が69回、震度2が168回、震度1が427回である。8月25日の第10報でも、最大震度5弱程度以上の地震に今後1か月程度注意が必要で、その発生頻度は1か月に1~2回程度と見積もられている。

あわせて気象庁は、今回の地震活動域が広範囲に広がっており、地震の規模や震源との位置関係によっては7月28日のM7.1の地震による揺れよりも強く揺れる場合があること、海底で規模の大きな地震が発生した場合は津波に注意が必要であることを示している。八代海に面した事業場にとって、この一文は防災計画の書き換えを要する。

動いていない区間が、南西側に残っている

報道によれば、地震予知連絡会は8月末、日奈久断層帯のうち今回ずれ動いていないとみられる南西側の領域でも小さな地震が頻繁に発生しており、今後も注視が必要との見方を示したとされる。

政府の地震調査研究推進本部の長期評価では、日奈久断層帯の八代海区間は長さ約50キロ、想定される地震の規模はマグニチュード7.3、30年以内の発生確率は16パーセントで、活断層の中では最も高い区分に位置づけられていると報じられている。専門家からは、南側の区間が動いていないぶん力が集中しており、次にそちらで大きな地震が起きる可能性がある、津波を発生させるリスクは高くなっている、といった指摘が出ている。発生時期の予測は困難であることも同時に述べられている。

事業場として押さえるべきは、確率の数字そのものではない。「動いていない区間が残っており、そこが動けば揺れ方も津波の条件も今回とは違う」という前提を、計画の側に反映することである。今回の被災経験だけを根拠に計画を書き換えると、次の地震の想定が今回と同じになってしまう。

使い切った備蓄を、どう戻すか

この1か月で最も消費されたのは水である。県内では最大約10万8,100戸が断水し、給水車は延べ72台が派遣された。事業場では飲用水だけでなく、トイレの流し水、手洗い、食堂の再開判断まで水に規定された。備蓄を戻すときは、購入前に次の3点を実績から確認したい。

実際に何日分持ったか。 3日分と想定していた備蓄が、実際には何日で尽きたか。今回、断水は週単位で続いた。3日分という一般的な目安が、この地域の実態に合っていたかを検証する。

用途別に足りたか。 飲用は足りたがトイレの水が足りなかった、という事業場が多い。飲用・生活用・機器の冷却用は、必要量も保管方法も違う。用途別に数字を出す。

どこに置いていたか。 倒壊・落下・停電で取り出せなかった備蓄がなかったか。保管場所が事業場の1か所に集中していた場合、その建物が使えなくなれば全量が失われる。

同じ検証を、非常用電源、携帯トイレ、食料、冷却用品、常備薬、通信手段について行う。今回の実績値をそのまま次の計画の根拠にできるのは、今しかない。数か月経つと、誰も正確な日数を覚えていない。断水解消後の設備の扱いは記事027、備蓄と応急給水設備の残置判断は記事079に整理している。

安否確認と初動を、この1か月の実績で書き換える

備蓄と並んで検証すべきは、安否確認と初動である。7月28日16時27分は平日の夕方で、多くの事業場が就業時間内だった。次が夜間や休日であれば、同じ手順では回らない。

確認しておきたいのは次の点である。全従業員の安否確認が完了するまでに何時間かかったか。連絡が取れなかった人は何人で、その理由は何だったか(携帯の充電切れ、通信の輻輳、連絡先の未更新)。避難所や応急住宅に移った従業員の連絡先を、名簿に反映できているか。この1か月で住まいを移した人は多く、名簿は7月28日時点のままでは使えない。

また、今回は勤務中の被災による死亡が発生している。就業時間内に大きな揺れが来たとき、誰が退避の判断をし、誰が構内の点呼を取るのかを、実際に動いた人の記憶が残っているうちに文書化しておきたい。勤務中被災への向き合い方は記事019、復旧作業の労働安全衛生は記事005を参照されたい。

津波を、八代海沿岸の事業場の計画に入れる

これまで、内陸型の地震を想定した事業場の防災計画では、津波の項目が空欄になっていることが少なくなかった。今回、気象庁が海底での規模の大きな地震による津波に注意を促し、動いていない区間が八代海の下に残っていることが示された以上、八代海沿岸に事業場・倉庫・港湾施設を持つ事業者は、次の3点を9月中に確認しておきたい。

  • 各拠点の標高と、最寄りの津波避難場所・避難ビルまでの距離と所要時間
  • 揺れを感じてから避難を開始するまでの判断者と、判断を待たずに動いてよい基準
  • 夜間・休日に在館している人(警備・当直・交代勤務)の避難経路

避難訓練の実施までは9月中に間に合わなくてよい。まず経路と所要時間を紙に落とし、掲示することから始める。

実務でそのまま使えるチェックリスト

#項目確認の内容担当
1備蓄の実績水・食料・電源・トイレが実際に何日持ったかを用途別に記録する総務/設備
2備蓄の補充実績に基づき必要量を再設定し、9月中に発注する総務
3保管場所1か所集中になっていないか、取り出せなかった備蓄がなかったかを確認する設備
4安否確認完了までの所要時間と、連絡が取れなかった人数・理由を記録する人事総務
5名簿更新避難所・応急住宅・親族宅へ移った従業員の連絡先を反映する人事総務
6退避の判断就業時間内に誰が退避を判断し、誰が点呼を取るかを文書化する安全担当
7津波八代海沿岸の拠点について標高・避難場所・所要時間を確認し掲示する安全担当
8夜間休日在館者がいる時間帯の避難経路と連絡手段を確認する安全担当
9建物余震で被害が進んでいないか、応急危険度判定の結果を踏まえて再点検する設備
10周知気象庁の注意期間(9月中旬~下旬まで)を全従業員に伝える産業保健職

参考

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