この記事は、熊本県八代市・宇城市・氷川町に事業場や従業員の住まいがある産業保健職と人事総務に向けたものです。断水が3市町・約2,400戸まで絞られ、国は8月末の解消に向けて対応中としています。ここから先に起きるのは「水が戻ること」だけではありません。給水拠点、入浴支援、洗濯支援という三つの生活インフラが、それぞれ別の日程で閉じていきます。閉じる順番は通水の順番とは一致しません。今週、勤務の側で何を確かめ、何をいつ終わらせるかを整理します。
支援は一度に終わらない
国土交通省 第49報(8月25日7時30分時点)によれば、断水は八代市466戸、宇城市1,699戸、氷川町253戸で、いずれも漏水が継続中とされています。熊本県は8月25日14時時点で約2,320戸・前回比1,730戸減としています。給水車は計104台で、8月中旬の120台前後から減っています。
一方、八代市は応急給水所24か所を開設中で、そのうち一部は8月27日13時で閉鎖し、8月28日から新たに4か所を開設する予定としています。つまり閉鎖と新設が同じ週に同時に起きます。従業員にとっては「拠点の数が減った」ではなく「いつも行っていた場所が、明後日からなくなる」という変化です。
入浴支援は13市町で実施中、移動式ランドリーカーは3施設で運用されているとされます(熊本県・8月25日14時時点)。これらは断水解消の宣言とは別の判断で縮小します。
「通水した」「使える」「支援が要らない」は三つ別の日
記事049で整理したとおり、配水管の通水と宅内で使ってよいことは同じではありません。今回残っている約2,400戸はいずれも漏水が継続中とされる区域です。通水しても、宅内配管の確認、濁水の解消、給湯器や貯水槽の再稼働(記事027)を経てはじめて日常が戻ります。
そのうえで、給水拠点の閉鎖はこの過程のどこか一点で起きます。行政は面としての復旧率で判断しますが、従業員は自宅一軒の状態で困ります。「市の断水は解消した」という発表と「うちはまだ濁っている」という申告は、両立します。産業保健職と人事総務が持つべき前提は、断水解消の宣言が出た日を「支援を終える日」ではなく「個別確認を始める日」として扱うことです。
閉じる順番が、生活時間に効く
順番を三つに分けて見ると、勤務への影響が読めます。
給水は、拠点数より時間帯と場所を見ます。閉鎖と新設が同じ週に重なると、移動距離が伸びるか、1日だけ空白が生じます。夜間しか行けない交代勤務者には、拠点の運用時間(多くは日中)が壁になります(記事051)。
入浴は、支援が引いたあとの代替が最も遠くなります。自衛隊や自治体の入浴支援が終われば、民間浴場や近隣市町への往復が発生し、片道の移動時間がそのまま生活時間から削られます。暑熱下で入浴できない期間が延びると、皮膚感染症の問題にもつながります(記事011)。
洗濯は、毎日発生するのに代替が最後に整います。ランドリーカーは3施設で、断水解消後も自宅の洗濯機が使えるとは限りません。加えて猛暑が続いており、作業着や制服の洗い替えが確保できないまま勤務している従業員がいます。作業着の貸与枚数を一時的に増やしているのであれば、その運用をいつ戻すかも同じ判断の中に入ります。
そして家庭内で、給水・入浴・洗濯の負担はたいてい特定の一人に寄ります。その一人が従業員であれば、勤務の側から見えます。育児・介護を抱える従業員については記事016もあわせて参照してください。
事業場側が今週決める三つ
第一に、給水・入浴に配慮した勤務の特例を、いつ・誰から外すかです。一律の終了日を置くと、まだ水が濁っている従業員が最初に落ちます。市町単位ではなく、町丁単位の状況を本人に確認したうえで、個別に外していくのが安全です。断水解消の宣言日を自動的に終了日にしないでください。
第二に、通水した従業員の宅内確認を、業務時間の中で促すことです。濁水を流し切る作業、給湯器の点検、賃貸であれば管理会社への連絡は、いずれも平日日中に発生します。事業場自身の設備の再稼働については記事060に整理しています。
第三に、職場で開放してきたシャワー・更衣室・洗濯機・飲料水の提供を、いつ閉じるかです。開けた順序で閉じてはいけません。開けたときは「事業場に水がある」ことが理由でしたが、閉じるときの基準は「従業員の自宅に水が戻ったか」です。基準が入れ替わっていることを、衛生委員会の場で明示しておくと、後から説明しやすくなります。
支援が閉じる局面で、見えなくなる人
避難指示が全て解除された局面で在宅避難者が見えにくくなったのと同じ構図が、給水支援の終了でも起きます(記事059)。井戸を使う世帯は水道の復旧対象から外れます。避難所に最後まで残る人については記事069で扱いました。
加えて、この段階では「もう水は出ているでしょう」という周囲の前提が、申告を止めます。発災2週間目に不調が申告されなくなる現象(記事036)と同じで、1か月を過ぎた今は「まだ困っている」と言うことのほうが難しくなっています。聞き方を、有無を尋ねる形から、いつまで続いたかを尋ねる形に変えてください。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 確認事項 | いつまでに | 担当 |
|---|---|---|
| 従業員の居住地を町丁単位で把握し直し、断水・漏水の残る区域と突き合わせる | 今週中 | 人事総務 |
| 通勤圏の応急給水所の閉鎖日・新設日・運用時間を一覧化し、社内掲示を差し替える | 閉鎖の2日前まで | 人事総務 |
| 入浴支援の実施市町と終了予定を確認し、代替施設の所在と所要時間を添えて案内する | 今週中 | 人事総務 |
| 給水・入浴に係る勤務特例の終了を、一律ではなく個別確認で決める方針を文書化 | 断水解消宣言の前 | 人事総務・産業保健職 |
| 通水した従業員に、濁水の流し切り・給湯器点検・管理会社連絡の時間を業務中に確保 | 通水から3日以内 | 管理職 |
| 職場のシャワー・更衣室・洗濯機・飲料水提供の終了基準を「自宅の復旧」に置き換え、衛生委員会に報告 | 9月の委員会 | 産業保健職 |
| 井戸利用世帯・在宅避難者・単身高齢の家族を持つ従業員を、終了判断の前に個別に確認 | 断水解消宣言の前 | 産業保健職 |
| 面談での問い方を「困っていますか」から「いつまで続きましたか」に変更 | 今週中 | 産業保健職 |