建設型の応急住宅は、8月23日10時時点で368戸18団地となり、全団地が着工済みと発表されている。避難所には65か所・2,684人(熊本県第43報、8月24日14時時点)が残っており、この人たちが9月にかけて順に移っていく。移った先は、これまで住んでいた場所とは限らない。この記事は、人事総務と産業保健職に向けて、従業員の住まいが動いた月に通勤の届出をどう受け直し、通勤災害の扱いをどこで確認しておくかを整理する。
移る先は、元の地区とは限らない
建設型応急住宅の内訳は、八代市104戸、氷川町75戸、美里町52戸、熊本市50戸、宇城市50戸、甲佐町20戸、宇土市17戸と発表されている。加えて公営住宅382戸、UR賃貸住宅140戸が確保されている。賃貸型の応急住宅(いわゆるみなし仮設)を選ぶ人もいる。つまり、同じ事業場の従業員でも、移る先が7市町にばらけ、通勤の起点が一斉に入れ替わる。
避難所からの移動なので、会社に届け出るタイミングも人によって違う。入居可能の通知が来てから実際に住み始めるまでが数日ということも珍しくない。9月は、月初にまとめて聞くやり方が機能しない月だと考えておいたほうがよい。移行期そのものへの支え方は記事026と記事054に整理している。
労災保険でいう「住居」は、住民票の場所ではない
労災保険の通勤災害でいう通勤とは、就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復することとされている。ここでの住居は「労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業の拠点となる所」と説明されており、就業の必要から家族の住まいとは別に部屋を借りている場合や、やむを得ず宿泊施設に一時的に泊まっている場合も、就業の拠点としての性格を持つ限り住居として扱われるとされている。
応急住宅に移った従業員の多くは、住民票を動かさない。就業規則や通勤手当規程が「住民票上の住所」を基準に書かれていると、届出上の住所と実際に寝起きしている場所がずれたままになる。事故が起きてから経路の合理性を説明しようとすると、この差が効いてくる。合理的な経路は複数あってよく、工事による迂回路も含まれるとされているが、それも起点が正しく届けられていることが前提になる。
会社としてやるべきなのは、規程を書き換えることではなく、「災害による一時的な居住地の変更については、実際に起居している場所を届け出てもらい、通勤経路もそれに合わせて更新する」という運用を、日付入りの文書で残すことである。個別の認定は所轄の労働基準監督署の判断になるため、迷う事例は早めに相談したい。
通勤手当は、月額定期を前提にしない
起点が動くと、通勤手当の計算根拠も動く。9月から12月にかけて、同じ従業員の経路が二度、三度変わることは十分にある。月額の定期券代を前提にした支給だと、そのたびに払戻しと再購入が発生し、差額の精算が滞る。
期間を区切って実費精算または日額支給に切り替え、上限額だけを定めておくと、経路変更に追随できる。非課税限度額の扱いは経路と交通手段で変わるため、給与担当は変更のたびに確認が必要になる。ここは税務の判断が絡むので、判断に迷う場合は所轄税務署に確認する形にとどめる。
経路が長くなる人と、40度が重なる
八代市と氷川町に団地が多い一方、事業場が宇城市や熊本市にある従業員は、通勤時間が延びる。鹿児島本線の宇土〜八代は運転見合わせが続き、8月26日からバス代行輸送が始まる予定である(国土交通省第48報)。肥薩おれんじ鉄道の八代〜水俣もバス代替が続いている。代行輸送は輸送力と所要時間の両方が鉄道と異なるため、始業時刻をそのままにすると、遅れの責任だけが個人に寄る。
さらに本日8月25日は、被災地で最高気温40度の酷暑日が見込まれると報じられており、熱中症警戒アラートは熊本県を含む37都府県に発表されて7日連続となった。バス停までの徒歩区間や待ち時間は、屋外での作業と同じ暑熱曝露である。始業時刻の弾力化は、通勤の利便のためだけでなく、暑い時間帯に人を歩かせないための措置でもある。代行輸送を踏まえた勤務の組み直しは記事053、作業中止の考え方は記事025に書いた。
名簿と面談の設計を、同じ月に合わせる
住まいが動く月は、緊急連絡先が最も古くなる月でもある。避難所の名称で登録していた連絡先は、入居と同時に使えなくなる。安否確認の訓練を9月に予定している事業場は、その前に一度、全員分の連絡先を洗い直しておきたい。居場所と連絡先が入れ替わる局面の扱いは記事041に書いた。
産業保健職の側では、通勤時間が片道で30分以上延びた従業員を、9月の面談の対象に加えることを勧めたい。通勤が延びた分は、そのまま睡眠時間から引かれることが多い。避難所での生活が終わって環境が改善したように見えても、起床時刻が前倒しになれば疲労は積み上がる。秋の健診とストレスチェックの設計は記事058に整理しているが、対象者名簿を作り直すときに「通勤が延びた人」の欄を一つ足しておくと、面談の優先順位がつけやすくなる。
学校と職場が、別の地区に残る
八代市の2学期は9月1日から、その他の地域は8月24日から始まっている。応急住宅に移っても、子の学校は元の校区のままという家庭が出る。送迎が加わると、出勤前後に固定の時間帯が生まれ、勤務時間の前後がほとんど動かせなくなる。育児を抱える従業員の勤務は記事052に整理しているが、9月は「住まいが変わった人」と「学校の始業がずれた人」が重なる月であることを、シフト作成の前提に入れておきたい。在宅避難のまま動かない従業員の把握については記事059を参照してほしい。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| 項目 | 確認すること | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 居住地の届出 | 実際に起居している場所を随時届け出る運用を文書化 | 8月中 |
| 通勤経路 | 起点・経路・交通手段を届出とセットで更新 | 変更のつど |
| 通勤災害 | 判断に迷う事例は所轄労働基準監督署へ相談する窓口を決める | 8月中 |
| 通勤手当 | 期間限定で実費精算・日額支給に切替、上限額を明示 | 9月支給分から |
| 始業時刻 | 代行輸送の所要時間を踏まえ、弾力化の範囲を掲示 | 8月26日まで |
| 暑熱対策 | 徒歩区間・待ち時間を暑熱曝露として扱い、時間帯を調整 | 本日から |
| 育児・介護 | 学校の始業日と送迎の固定時間をシフト前提に反映 | 9月1日まで |