この記事は、八代市・宇城市・氷川町に事業場や従業員を抱える人事総務・産業保健職・設備担当に向けたものである。8月15日10時時点の国土交通省第41報は、県内の断水を約2万7,400戸としたうえで、それとは別に通水済み約1万6,500戸が漏水調査のため使用自粛を要請されていると記している。断水の数字だけを追っていると見落とす層が、いま最も大きい。「水が来た」と「使ってよい」の間にある数日を、再開判断と生活支援の両面でどう扱うかを整理する。
1. いま起きていること — 「解消」の内訳が三層に割れた
8月16日7時時点で、水道の状態は少なくとも三つの層に分かれている。
第一に、いまも水が出ない断水区域。宇城市では小川町全域と豊野町(下糸石・南山崎を除く)が該当し、八代市は市域の大半で断水が続く。第二に、通水したが漏水調査中で使用自粛を要請されている区域。国土交通省が約1万6,500戸と数えている層で、宇城市の案内は「漏水調査のため水がでることがありますが、飲用水としてはお控えください」と明記している。第三に、通水し使用できるが、給水制限や夜間断水がかかる区域。宇城市は不知火町の一部・松橋町全域・豊野町の一部を給水制限地域とし、八代市は解消区域の大半が夜間給水制限下にあると報じられている。
そのうえで、松橋町のように「三角・松橋・不知火の3地区は解消」と発表されていながら、配水管からの漏水で実際には水が出ない家庭が残る例もある(熊本日日新聞、8月15日)。発表の粒度は市町村単位・地区単位であり、事業場や住宅の単位ではない。この差が、職場での説明と判断をいちばん狂わせる。
2. 事業場の再開判断は「通水」ではなく「使用可通知」を基準にする
再開の可否を通水の有無で判断すると、二つの事故が起きる。ひとつは、水は出るが飲用不可の状態で食堂・給茶機・製氷機を動かしてしまうこと。もうひとつは、使用自粛要請中に大量取水して、地域の復旧作業そのものを遅らせることである。宇城市は「使用量が急激に増加すると給水ができなくなります」と節水協力を求めており、事業場の一斉再開は地域の水量に直接効く。
判断の基準は、事業場所在地の水道事業者が出す使用可通知(飲用可の案内)に置く。通知が出るまでの間は、次のように用途を分けて運用したい。
- 飲用・調理・製氷・給茶:使用可通知が出るまで停止し、備蓄水またはボトルドウォーターで代替する。給茶機と製氷機は電源から落とし、貼り紙で明示する。
- 手洗い・トイレ洗浄・清掃:濁りがないことを確認したうえで使用可。濁りが出た場合は、宇城市の案内どおり濁りが取れるまで出し続け、その間は飲用に使わない。
- 製造工程用水・冷却水・ボイラ給水:水質確認と設備側の再稼働手順が別に要る。記事027で扱った貯水槽・給湯設備・冷却塔の再稼働と同じ手順に乗せる。断水期間中に滞留した水が残っている前提で、清掃・消毒・水質確認を経るまで工程には入れない。
3. 「一時的にまた断水する」を前提に組む
八代市の案内は、通水した日奈久校区について「校区内で複数の漏水箇所が見つかっており、修繕作業に伴い今後も一時的に断水する場合があります」と書いている。これは例外的な注意書きではなく、漏水調査が進む区域すべてに当てはまる前提と考えたほうがよい。
つまり、再開したあとに再度水が止まる日が来る。ここで効くのは、水が止まった瞬間に何を止めるかをあらかじめ決めてあるかどうかである。トイレの洗浄水をどこから確保するか、食堂を止める判断を誰が出すか、当日の作業のうち水を使う工程をどこで切るか。復旧が一直線でない以上、「再開=平常化」ではなく「再開=断続運転」として設計する。同じ市内でも事業場ごとに状態が違う点は記事046で扱ったとおりで、今回はそこに「同じ事業場でも日によって違う」が加わる。
4. 従業員の生活側 — 通水した家庭にも支援を続ける
生活支援の打ち切り判断も、同じ落とし穴を持つ。「自宅が通水した」と申告した従業員が、実際には飲用不可で給水所に通い続けている場合がある。夜間給水制限がかかっていれば、帰宅後の入浴・洗濯の時間帯が限られ、生活の組み立ては断水中とあまり変わらない。
したがって、給水時間を勤務に組み込む運用(記事030)は、通水の報告を受けても機械的に終了しない。確認すべきは「水が出るか」ではなく、飲用可の通知が出ているか、給水制限や夜間断水がかかっていないか、の二点である。宇城市は仮設給水タンク(飲用可・24時間利用可)と給水車(8時30分〜17時、1人1日4リットル以内)を併用しており、24時間拠点がある地域では通勤前後に立ち寄れる。この情報を職場から改めて流し直すだけでも、休暇の使い方が変わる従業員がいる。
なお、明日17日は連休明けで外来・調剤・行政窓口が同時に混む(記事044)。給水と受診と手続きが同じ日に重なる従業員がいることを前提に、時間単位の休暇や中抜けの運用を今日のうちに管理職へ共有しておきたい。
5. 産業保健職が今週見ておく健康影響
通水直後の局面で拾っておきたい健康影響は三つある。第一に、飲用可否が曖昧なまま水道水を飲んだことによる消化器症状。避難所では新型コロナウイルス感染症も八代市10人・宇城市8人が確認されており(8月14日時点)、下痢・嘔吐の申告があったときに感染症と水質のどちらを疑うかで対応が分かれる。第二に、節水生活の長期化による飲水量の不足。本日は最高31度予想と暑さは緩むが、屋外作業者では脱水が残りやすい。第三に、「もう解消したのだから」と支援を求めにくくなること。復旧が進むほど不調を申告しにくくなる構造は記事036で扱った。通水の報せは、その圧力を一段強める。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 確認事項 | 判断の基準 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1 | 事業場所在地は断水・使用自粛・給水制限のどれか | 市町村の上下水道部門の最新案内で確認。前日の情報は使わない | 総務 |
| 2 | 飲用可の通知が出ているか | 通知が出るまで飲用・調理・製氷・給茶は停止 | 総務・衛生管理者 |
| 3 | 給茶機・製氷機・食堂の停止表示 | 電源遮断と貼り紙をセットで実施 | 各職場 |
| 4 | 濁り水が出た場合の手順 | 濁りが取れるまで出し続け、その間は飲用に使わない | 各職場 |
| 5 | 貯水槽・給湯設備・冷却塔の再稼働 | 清掃・消毒・水質確認を経るまで工程用水に使わない | 設備担当 |
| 6 | 再断水時に止める工程の一覧 | 「誰が」「何を」止めるかを事前に一枚にする | 製造・安全担当 |
| 7 | 従業員の自宅の状態 | 「通水したか」ではなく「飲用可か」「給水制限・夜間断水はあるか」を聞く | 人事 |
| 8 | 給水拠点の情報の再配布 | 24時間拠点の有無と1人あたり上限を職場から共有 | 人事・産業保健職 |
| 9 | 給水時間を組み込んだ勤務運用の継続可否 | 通水報告だけで終了しない | 人事 |
| 10 | 8月17日の受診・手続き集中への備え | 時間単位休暇・中抜けの運用を管理職へ周知 | 人事 |
| 11 | 消化器症状の申告経路 | 感染症と水質の双方を想定した聴取項目を用意 | 産業保健職 |
| 12 | 飲水量と休憩の確認 | 節水生活の長期化を前提に、屋外作業者を優先して確認 | 産業保健職 |