8月13日から16日までの4日間、多くの医療機関と薬局が通常の診療・営業体制から外れる。平時であれば数日待てば済む話だが、今年の熊本ではそうならない。薬局140施設が被災し、うち57施設が断水下にある。モバイルファーマシーが出せるのは原則3日分である。この記事は、被災地の産業保健職・人事総務・管理職に向けて、連休の4日間に薬が切れる従業員を出さないために、今週前半のうちに何を確認し、何を動かすかを整理する。
なぜ「待てば済む」が今年は成立しないのか
8月9日7時時点で確認できる医療資源の状況は次のとおりである。医療機関は熊本県内92施設が被災し、うち断水が続くのは30施設、医療用ガスに支障があるのが1施設(厚生労働省 第43報/8月8日10時現在)。薬局は140施設が被災し、営業不可7施設、断水57施設、停電19施設。断水下でも営業している薬局は多いが、調剤の能力は平時と同じではない。
そこにモバイルファーマシーが3台入っている。熊本県薬剤師会が宇城市の小川防災拠点センターに、福岡県薬剤師会が八代市総合体育館に、宮崎県薬剤師会が氷川町健康センターに配置され、扱う品目は約90品目に絞られ、投与量は原則3日分・最長1週間分とされている。これは緊急時の供給として妥当な設計だが、裏を返せば、13日から16日の4日間をモバイルファーマシーだけで乗り切る前提にはなっていないということである。
さらに、外部支援チームの構成が変わり始めている。DPATは8月8日に21隊から17隊へと縮小に転じた。DMATは67隊、JMATは25チーム117人、JDATは2チームが活動中である(厚生労働省 第43報)。連休をはさんで支援の厚みがどうなるかは、今日の時点では読み切れない。
つまり、「連休明けに受診すればよい」という平時の前提が、今年は複数の理由で崩れている。崩れていることを、本人が自覚しているとは限らない。
誰が切れるのかを、先に特定する
全従業員に呼びかけても、動くのは元々きちんと管理している人である。切れるリスクが高いのは、次のいずれかに当てはまる人である。
かかりつけ医療機関が断水などで通常診療に戻っていない人。避難所や車中泊、親族宅で生活していて、自宅に置いていた薬を取りに戻れていない人。罹災証明や片付けで日中の時間が埋まり、受診を後回しにしてきた人。発災直後に処方箋なしの緊急対応や短期処方でつないできて、そのまま更新できていない人。八代・宇城・氷川など、断水と避難者が集中している地域から通っている人。
中断が実害に直結しやすいのは、降圧薬、糖尿病治療薬、抗凝固薬、抗てんかん薬、喘息の吸入薬、向精神薬、そして透析である。透析については、県内94か所のうち11か所が実施可能で、実施困難な2か所はいずれも他医療機関での実施を手配済みとされている(厚生労働省 第43報/8月6日時点)。個別の患者の受入先は変わりうるため、該当者がいる事業場は本人に確認先を持っているかを聞く。
今週前半に動かす、という時間設計
8月10日は月曜、11日は山の日で祝日、12日は水曜である。実質的に動けるのは10日と12日の2日しかない。ここを外すと、13日からの4日間に打つ手がなくなる。
10日にやることは、対象者の特定と本人への連絡である。「薬は足りていますか」ではなく、「いま手元にある薬は何日分ありますか」と数を聞く。日数で聞けば、本人も計算する。16日を越えられない人が見つかったら、その場で12日までの受診・調剤の時間を勤務の中に確保する。
12日にやることは、受診・調剤が実際に済んだかの確認である。予定を立てただけで終わっている例が必ず出る。連絡だけして安心しないこと。
同時に、休診・営業情報の確認も10日のうちに済ませる。8月9日7時時点では、熊本市医師会がお盆期間の診療機関一覧を公開しているが、掲載されているのは前年(令和7年)の期間のものであり、令和8年8月の情報はまだ確認できない。県薬剤師会や各市町村の発表も含め、10日以降に更新される見込みであるため、当日の情報を取りに行く担当者を先に決めておく。
職場が持てる情報と、持ってはいけない情報
ここで注意が必要なのは、職場が把握してよい範囲である。何の薬を飲んでいるかは、本人が自発的に話す場合を除き、職場が聞き出す情報ではない。聞くのは「手元の残日数が連休を越えられるかどうか」と「受診・調剤の時間が必要かどうか」の2点でよい。病名も薬剤名も要らない。
この2点だけであれば、上長が業務調整の一環として聞いても不自然ではないし、本人の抵抗も小さい。産業保健職が同席する必要もない。逆に、産業医面談の形にしてしまうと、記事036が指摘したとおり「そこまでではない」と本人が辞退してしまう。入口は業務の話にしておく。
なお、健康情報を人事が知り得た場合の取扱いは、平時の規程がそのまま適用される。災害時だからといって共有範囲が広がるわけではない。集めた情報は誰がどこに保管し、いつ廃棄するかを決めてから聞き取りを始める。
連休中に起きたときの、受け皿の準備
それでも、連休中に薬が切れる人や体調を崩す人は出る。そのときの連絡先を、10日のうちに一枚にまとめて配っておく。
含めるのは、休日・夜間に対応する医療機関と薬局の情報の入手先、モバイルファーマシーの配置場所と時間、事業場の緊急連絡先と当番、そして「連絡してよい」という一文である。この最後の一文が実務上いちばん効く。連休中に会社へ連絡することを、多くの人はためらう。ためらわせない書き方にする。
あわせて、復旧作業や片付けに従事する人がいる場合は、その連休中の作業計画も同時に見る。復旧作業に伴う労働災害は死亡17人・負傷11人とされ、負傷は増加傾向にある(厚生労働省 第43報)。医療機関が手薄になる4日間に、屋外・高所作業を詰め込まないこと自体が予防策になる。
実務でそのまま使えるチェックリスト
| # | 項目 | 期限 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1 | 常用薬の中断リスクが高い層(かかりつけ休診・避難所居住・断水地域・短期処方でつないでいる人)を名簿化する | 8月10日 | 人事 |
| 2 | 対象者に「手元の薬は何日分あるか」を日数で確認する(薬剤名・病名は聞かない) | 8月10日 | 上長 |
| 3 | 8月16日を越えられない人に、12日までの受診・調剤の時間を勤務時間内に確保する | 8月10日 | 人事・上長 |
| 4 | お盆期間の診療・調剤情報の入手先を決め、更新を追う担当者を指名する | 8月10日 | 総務 |
| 5 | 透析を受けている従業員に、連休中の実施先を把握しているか確認する | 8月10日 | 産業保健職 |
| 6 | モバイルファーマシーの配置場所・時間・扱い品目(約90品目、原則3日分)を対象者に伝える | 8月10日 | 産業保健職 |
| 7 | 受診・調剤が実際に済んだかを確認する(予定を立てただけの例を拾う) | 8月12日 | 上長 |
| 8 | 連休中の連絡先一覧(医療・薬局の情報源、事業場の当番、連絡してよい旨)を配布する | 8月12日 | 総務 |
| 9 | 連休中の屋外・高所作業の計画を見直し、医療が手薄な期間に集中させない | 8月12日 | 安全担当 |
| 10 | 聞き取りで得た健康関連情報の保管者・保管場所・廃棄時期を決める | 8月10日 | 人事 |
| 11 | 連休明け(8月17日)に、切れた人がいなかったかを一度確認する | 8月17日 | 産業保健職 |