本記事は2026年7月31日9時(JST)時点の情報に基づいています。災害ボランティアセンターの開設状況・募集範囲は日々変わります。参加を考える方は、出発前に必ず熊本県社会福祉協議会と行き先市町村の最新発表を確認してください。
発災から3日、明日からは令和8年熊本地震後最初の週末(8月1日〜2日)です。「現地で何かしたい」という従業員は、どの職場にも必ずいます。その気持ちは尊いものですが、産業保健の視点からは、週末のボランティアは「休日の私的活動」で片づけられない論点を含みます。本稿では、(1)個人で行く従業員を送り出す職場、(2)企業として派遣する場合、(3)ボランティアを受け入れる被災事業場、の3つの立場を1本で整理します。
まず前提:今週末の被災地の条件
第一に、受け入れ体制は立ち上がり途上です。熊本県社会福祉協議会は7月29日に「熊本県災害ボランティアセンター」を開設しましたが、実際に活動者を受け入れる市町村の災害ボランティアセンターの設置は、安全確保と被害状況の確認を踏まえて順次対応とされています。また、被災自治体や社協への問い合わせ電話は業務の支障になるため控え、Webでの情報確認が呼びかけられています。
第二に、猛暑です。7月30日には熊本県にも熱中症警戒アラートが発表され(環境省・気象庁。ウェザーニュース7月30日報道で確認)、以後も猛暑日が続く予想です。当日の発表状況は出発前に必ず確認してください。環境省の暑さ指数(WBGT)区分では31以上が「危険(運動は原則中止)」であり、泥出し・がれき撤去はこのレベルの環境下で行う重労働になります。
第三に、余震です。気象庁は発災から1週間程度は最大震度7程度の地震に注意するよう呼びかけており(7月28日発表)、今週末はまだその期間内です。実際に7月29日夜には天草・芦北地方で最大震度5弱の地震が起きています。
この3条件が重なる週末に、募集範囲外から自己判断で現地入りすること、支援物資を個人で送りつけることは、善意でも被災地の負担になります。センターの募集が始まるまで「行かない・待つ」ことも立派な支援である——この一線を、職場からの情報提供の冒頭に置いてください。
1. 個人で行く従業員に、職場ができること
休日の自発的なボランティアを職場が止める権利はありません。しかし「私的活動だから関知しない」という放置も、産業保健的には無責任です。勧めたいのは次の4点です。
- 安全衛生情報の提供:本記事や後掲チェックリストを、行きたい人に渡せる形で掲示・共有する
- ボランティア活動保険の事前加入案内:後述のとおり、地震によるケガは「天災・地震補償プラン」でなければ補償されません。出発地の社協で事前加入すれば往復の移動中の事故も対象になり、被災地側の事務負担も減らせます。大規模災害時はWeb加入の特例が案内される場合があります
- 月曜に疲労を持ち越させない働きかけ:土日連続で猛暑下の泥出しをした後、月曜からの通常勤務が続くと、熱中症の遅発影響や疲労蓄積のリスクが翌週に持ち越されます。「日曜夜は活動せず休む」「月曜の業務量に配慮する」と事前に声をかけておく
- 体調不良を言い出せる空気:月曜朝に発熱・脱水・ケガを抱えて出勤してくる従業員が「ボランティアで無理をしたとは言いにくい」状況を作らないこと(既刊009参照)
なお、休日に個人の自由意思で行うボランティア活動中のケガは、労災保険の対象にならないのが一般的な整理です。労災保険は「事業に使用され、賃金を支払われる労働者」の業務災害・通勤災害を補償する制度だからです。だからこそ、上記のボランティア活動保険が実質的に唯一の備えになります。
2. 企業として派遣する場合
会社の指示・業務命令として復旧支援に従業員を派遣する場合(取引先支援、地域貢献活動を出張・業務扱いとする場合を含む)は、業務としての活動中の災害は業務災害として労災保険給付の対象となりうる、というのが一般的な枠組みです。一方、会社が募集はするが参加は完全に任意で、賃金も支払わない形態では、個別の実態により判断が分かれます。ここでは断定できませんので、派遣を検討する企業は、業務扱いか否かを事前に明確にし、必要に応じて労働局・社会保険労務士に確認してください。
業務として派遣するなら、それは「事業者の管理下の作業」です。既刊005(復旧作業の安全衛生:踏抜き・破傷風・石綿・粉じん)と007(支援者のケア)がそのまま適用されます。装備の支給、保険の付保、活動時間と撤収基準(WBGT値、余震、体調)を会社側が持ち、現地の判断任せにしないことが要点です。
3. ボランティアを受け入れる被災事業場(受援側)
被災した事業場が片付けにボランティアの手を借りる場面も出てきます。外部の善意の人であっても、事業者の管理下・指揮下で作業させるなら、安全配慮の対象として扱うのが原則です。作業指示の一本化、保護具の確認、休憩と給水の提供、危険箇所(損傷した建物・石綿含有の可能性がある建材・不安定な棚や設備)の明示と立入禁止措置は、従業員に対するものと同じ水準で行ってください。「善意で来てくれた人に注文をつけにくい」「断りにくい」という心理が、無防備な作業と事故を生む構造そのものです。危険な作業は専門業者に任せ、ボランティアには頼まない判断も受援側の責任です。
3つの立場の整理
| 立場 | ケガをした場合の一般的な位置づけ | 備えるべきもの |
|---|---|---|
| 個人で参加(休日・自由意思) | 労災保険の対象外が一般的な整理。ボランティア活動保険(天災・地震補償プラン)が実質的な備え | 出発前の保険加入、自己完結の装備、職場は情報提供と月曜への配慮 |
| 企業派遣(業務・出張扱い) | 業務災害として労災保険給付の対象となりうる(実態による) | 会社が装備支給・保険・活動時間と撤収基準を保持。005・007を適用 |
| 事業場が受け入れ(受援側) | 管理下に入れるなら安全配慮の対象として扱う | 作業指示の一本化、保護具・休憩・給水、危険箇所の明示と立入禁止 |
従業員向け配布用:週末ボランティアに行く方へ(10項目)
- 出発当日に行き先の災害ボランティアセンターの最新発表をWebで確認する(電話はしない)
- 募集範囲外(県内限定など)なら行かない。「待つ」も支援
- ボランティア活動保険は天災・地震補償プランに出発前・地元の社協で加入する
- 水・食料・トイレ・移動・宿泊まで自己完結。被災地で調達しない
- 装備:踏抜き防止インソール(または安全長靴)、厚手手袋、防じんマスク、長袖長ズボン、ゴーグル
- 単独行動しない。家族と職場に行き先・帰宅予定を伝える
- 暑さ指数(WBGT)を確認し、休憩と給水を先に計画。「危険」レベルの時間帯の重作業は避ける
- 釘やがれきで傷を負ったら流水で洗い、医療機関へ(破傷風のリスク。既刊005参照)
- 余震が続く期間内。損傷した建物には近づかない。現地スタッフの指示に従う
- 日曜夜までに帰宅して睡眠をとる。月曜に体調が悪ければ正直に職場へ伝える
「行った人」「送り出した職場」「受け入れた事業場」のどこにも、ケガ人と燃え尽きを出さない週末にしましょう。